「黒猫」(3) フランス・ベルギー編 1881年モンマルトルにオープンしたキャバレー,シャ・ノワール(CHAT NOIR).ズバリ「黒猫」.シャ・ノワールの芸術家たちは自由で新しい表現を追求しました.忌み嫌われた黒猫が,反骨の芸術家たちの手で,時代の最先端のシンボルとして,見事復権./ これまで犠牲になった黒猫たちを祭るために行われているイーペルの猫祭.「イペリット」の犠牲になった猫も同時に鎮魂されています.そして,ベルギーでは猫たちの写真が,テロの不安と恐怖におびえる人々の心をつなぎました.

 NHKドキュメンタリー - ヨーロッパ 黒猫物語~愛しきネコたちの不思議な運命~ より

「黒猫」(1) イタリア編 - yachikusakusaki's blog

「黒猫」(2) イギリス編: - yachikusakusaki's blog

 

「黒猫」(3) フランス・ベルギー編 

 

フランスでの黒猫の復権

きっかけとなった「シャ・ノワール

セーヌ川沿いを散策すると,いろんな黒猫たちのアイテムに出会うことができます.今や黒猫はおしゃれな町の雰囲気にピッタリの人気キャラクター.

そのそもそものキッカケは,1881年モンマルトルにオープンしたキャバレー.

店の名はシャ・ノワール(CHAT NOIR).ズバリ「黒猫」です.

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Le Chat Noir: Historic Montmartre Cabaret

 

店は,新しい芸術を生み出そうとする画家や音楽家,詩人などが夜な夜な集まる社交場に.夢を語り合い即興で作品を披露したり.ロートレックマン・レイエリック・サティ---.

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 Le Chat Noir: Historic Montmartre Cabaret

モンマルトルの丘の上に立つ美術館(Musée de Montmartre).そこには黒猫の間と呼ばれる部屋があります.

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Musée de Montmartre - Wikipedia

シャ・ノワールに集まっていた芸術家たちの作品が展示されています.

その中に,ありました.常連客の一人で猫好きで知られた画家,スタンランSteinlenの作品です.「黒猫(ルドルフ・サリの黒猫の巡業)1896」.

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Le Chat Noir - Wikipedia

お店の宣伝ポスターとして描かれたもの.

シャ・ノワールの芸術家たちは,その名の通り,自由で新しい表現を追求しました.

中世のヨーロッパで,国を超えた巨大な権威だったカトリック教会.そこから忌み嫌われた黒猫が,こうして19世紀末,反骨の芸術家たちの手で,時代の最先端のシンボルとして,見事,復権を果たしたのです.

 

フランスで人気の黒猫

パリ市内では唯一のシャトーホテルSaint James Paris.あの英雄ナポレオンの甥,ナポレオン3世のお屋敷だった建物.

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Saint James Paris, Paris, France - Hotel Review & Photos

「当ホテルのおなじみのお客様は,まず,このピルーPilouに会いに来るんですよ.

この子のおかげで,お客様も穏やかな気持ちになっていただけているのではないでしょうか」 

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Saint James Paris (@SaintJamesParis) | Twitter サン・ジェームスSummy Party a Saint James Paris 16eme : Paris Gourmand パリのおいしい日々2

長く過酷な受難の歴史をくぐり抜け,芸儒家たちのミューズとなった黒猫.いまは,暖かな陽射しの中,穏やかな時を過ごしていました.

 

 さて,ヨーロッパを舞台に黒猫の運命を追い続けてきたこの番組.最後にどうしても外せない国があります.

それは,フランスのお隣ベルギー.

 

イーペルの猫祭

西部にあるイーペルYpresでは,3年に1度,猫祭というちょっと奇妙なお祭りが行われています.

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イーペル - Wikipedia

通りを練り歩く猫をかたどった巨大な山車.そして,猫に扮装して踊る人々.人口4万ほどの小さな街イーペルが,この日ばかりは,世界中の猫好きで埋め尽くされ,街中が猫一色に染まります.ベルギー、イーペルの猫祭り徹底解説|ユーラシア旅行社 ベルギー イーペルの猫祭り

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Cats Festival in Ypres | Visit Ypres with the official tourist site

 

そしていよいよ祭のクライマックス.

街の中心,繊維会館の時計台の上から,何やら人混みに向かって投げ込まれました.見て下さい.なんと,かわいらしい黒猫のぬいぐるみが.

「まさかとれるとは思わなかったよ.とっても幸運だと思うよ」

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ベルギー、イーペルの猫祭り徹底解説|ユーラシア旅行社 Cats Festival in Ypres | Visit Ypres with the official tourist site

 

実はイーペルでは中世の時代から,毎年1回,本物の黒猫をこの時計台から投げ落とすという行事が行われていました.

猫祭は,そうした過去を忘れず,これまで犠牲になった黒猫たちを祭るために行われているのです.

ベルギー、イーペルの猫祭り徹底解説|ユーラシア旅行社 ベルギー イーペルの猫祭り Kattenstoet - Wikipedia

 

でも,そもそもなぜそんな残酷な行事が---.

一説にはこんな悲しい事情があったといいます.

もともとイーペルは毛織物産業が盛んな街.大事な毛織物がネズミにかじられるのを防いでくれる猫は,街の人々にとって,大切なパートナーだったのです.

ところがカトリックに改宗した当時の王は,教会に忠誠を示す必要に迫られました.ちょうど魔女狩りの嵐が吹き荒れていた時代,魔女の手先である黒猫を大勢の人々の前で殺すことが,何よりの忠誠の証しになると思い立ったといいます.

 

さらに,イーペルにはもう一つ猫の魂を慰めなければならない,暗黒の歴史がありました.

第一次世界大戦当時の1915年.イーペルにドイツ軍によって,人類史上初めての大規模な毒ガス攻撃が行われました.

(1917年秋には、イーペル近郊でマスタードガスが戦闘に使用された。この毒ガスが使用されたのも人類史上初めてで、都市の名前をとってイペリットとも呼ばれるようになった)

このときドイツ軍は,猫の体にも毒ガスの瓶をくくりつけて,イーペルに送り込んだといいます.猫の体が,いわば,爆弾の代わりに使われたのです.こんな形で犠牲になった猫たちへの鎮魂も,猫祭の目的の一つなのです.

 

 

テロの不安と恐怖におびえる人々の心をつなぐ猫の画像

ベルギーと猫.まだ記憶に生々しい最近の大惨事のさなかにも,こんな出来事がありました.

 2015年11月13日,パリで同時多発テロ事件が引き起こされ,死者130名、負傷者300名以上にのぼりました.

(その後,2016年3月22日.ベルギーの首都,ブリュッセルの空港で,連続テロ事件が発生しました.32人が犠牲となり,けが人300人以上という,大きな被害が出ました.番組ではこのときに「猫の画像投稿」があったとしていましたが---.この時にも,投稿があったのかどうか定かではありませんが,大きなニュースになったのはパリ連続テロの後.)

計画が行われた地とされ,容疑者が潜伏しているとみられたベルギーでは追跡のため厳戒態勢が敷かれ,デマが飛び交うのを避けるため,ベルギー当局は,市民に対し,事件に関するソーシャルメディアへの書き込みを自粛するよう呼び掛けました.

すると程なく----

一枚の可愛らしい猫の画像がツイッターに投稿されたのです.これをきっかけに,ほかの人々も,次々と猫の画像を投稿しはじめました.

愛らしい猫.穏やかな猫.リンとしたたずまいの猫.何者にも屈しない猫.

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https://twitter.com/amitbhatr/status/668555983547981824/photo/1 Lore De Witte (@loredewitte) | Twitter https://twitter.com/SeimenBurum/status/668534972161093632 https://twitter.com/Hoguhugo/status/668520373210783744/photo/1 Belgians tweet cat memes after police request online silence | SBS News ベルギーテロ厳戒態勢で猫祭り!BrusselsLockdownの画像まとめ | ANIMALive

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あの日,どんな言葉より雄弁にな,膨大な数の画像がネット空間を行き交いました.ヨーロッパの長い歴史の中で,不安と恐怖におびえた人々から,残虐な仕打ちを受けてきた猫.

21世紀のベルギーで,その猫は,不安と恐怖におびえる人々の心をつなぐかけがいのない存在となったのです.

 

(過去記事

「黒猫」(1): イタリア編 - yachikusakusaki's blog

「黒猫」(2) イギリス編:各地で黒猫のアイドルが生まれています.---- - yachikusakusaki's blog )