冬空のオリオン座.
Star Myths | Theoi Greek Mythology
この勇姿を見て,オーリーオーンにどんな神話がゆだねられているのか?大いに期待して調べてみると---
初めに出会った物語は,同じく最も美し目立つプレイアデス星団(和名すばる)のニンフを追いかけるオーリーオーン.オーリーオーンは“the lustful giant Orion”「みだらな巨人」と形容される男!(Hyginus 2.21, Aratus 254.)
そして,刺客?として送り込まれたサソリに追い続けられるオーリーオーン.
http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2018/11/17/010023
悪評は他にも沢山.
ニンフを襲った?
そもそもの名前の由来は「尿」の意味から?
神々の尿と大地(ガイア)から生まれた?
http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2018/12/15/161726 http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2018/12/12/173415
これだけ悪いところを並べると,何故,多くの人に愛される星座にオーリーオーンの名前が付けられたのか,訳が分からなくなります.
しかし,オリオン座が大好きな者にとって,このような悪評に反論せずにはいられません.どなたか,ギリシャ神話に精通した方の権威ある反論が欲しいところですが---
それまで待てず,今日は素人の勝手な反論を書き並べてみようかと思います.
1. オーリーオーンの悪評は全て比較的新しいギリシャ・ローマ神話の物語で,ギリシャ神話の当初は女神に愛される美貌の狩人
古代ギリシャ神話で最も古く,権威も認められている二人の作者,ヘーシオドス,ホメーロス.
彼らは,オーリーオーンを血筋も正しく,女神に愛される美貌の狩人として描いています.オーリーオーンの名前が星座に付けられたのはヘーシオドス,ホメーロス以前.
オーリーオーンが私たち(私だけ?)が期待するとおりの立派な狩人として天に描かれたのは,間違いないでしょう.
「ヘーシオドスは彼(オーリーオーン)を,ネプチューン(ポセイドーン)の息子と呼んでいます.母は,ミノースの娘エウリュアレー.
オーリーオーンは,イーピクロス(俊足で知られる戦士)が立っている麦の穂の上を走ってもそれを傷つけずに走ることができるといわれているごとくに,陸上同様,波の上を走る能力を持っていました.」(Pseudo-Hyginus, Astronomica 2. 34 )ORION - Boeotian Giant of Greek Mythology
海の女神カリュプソー曰わく,.
「あなた方神々は,なんと残酷な方々なのでしょう.あなた方ほど嫉み深い者は,他にはおりますまい.女神が人間の男に抱かれるのを快く思われない.それも隠し立てをしてではない.明らさまに自分の夫に選んだ場合でもです.
以前,指ばら色の暁の女神(エーオース)が,オリオンをわがものにした時もそうでした.安楽にお暮らしのあなた方神々は,いつまでもそれを許そうとなさらず,その果ては黄金の座にいます純潔の女神アルテミスが,オルテギュエの島で彼を襲い,優しい矢で命を奪ってしまわれた」ホメロス (著), 松平 千秋 (翻訳) ホメロス オデュッセイア〈上〉 (岩波文庫)
http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2018/12/14/154910
2. 「語源」の悪評は否定されていて,そこから生まれた「生まれの悪評」も,当然後世の作り話.
彼(オーリーオーン)は,ネプチューン(ポセイドーン)の息子.母は,ミノースの娘エウリュアレー.(Pseudo-Hyginus, Astronomica 2. 34 )ORION - Boeotian Giant of Greek Mythology
一方で,オーリーオーンの名前は,古代ギリシャ語のoros(山)またはurine(尿)に由来する.
Orion's name is derived from the ancient Greek word oros "mountain" or from ourios "urine". ORION - Boeotian Giant of Greek Mythology
との記述があります.
しかし,新しい語源辞典Online Etymology Dictionaryorion | Origin and meaning of orion by Online Etymology Dictionary では ”語源不明”とし,可能性としてアッカド語Uru-annaを挙げています(下記).
ギリシャ神話の巨人の名前,
ギリシャ語でOarionから,14世紀後半に生まれた言葉.明るい星座である.
語源は不明である.ある推測では,アッカド語Uru-anna ,天の光,から.
bright constellation, late 14c., from Greek Oarion, name of a giant in Greek mythology,of unknown origin, though some speculate on Akkadian Uru-anna "the Light of Heaven."
orion | Origin and meaning of orion by Online Etymology Dictionary http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2018/12/12/173415
その他のウェブ上の権威ある英語辞典Merriam-Webste, Oxfordなどでも,ギリシャ語以前にさかのぼった語源を示していません.
近年の言語学の進歩は著しく,過去に語源とされた記述のかなりの部分が「俗説」として退けられているようです.
例えば,あの有名なパンドーラを「全てを与える者」とする解釈.
現代の目から見ると「ギリシャ人の愛好したいわゆる通俗語源解釈に類するもので,語の構成形式から言って妥当なものではなく,こじつけであることは明白である(松平千秋 ヘーシオドス「仕事の日」」そうです.
素人の一方的な推測を付け加えれば---
urine(尿)説は,アッカド語Uru-anna (天の光)に置き換えるととてもつじつまが合います.古代ギリシャ人が間違えた?
そして,冒頭で記載した“神々の尿と大地(ガイア)から生まれた”という説は,この「俗説」語源を元にした物語に相違ない(素人の断定です).
さらに,まだこのブログに載せていないオーリーオーンの死の4番目の物語で,オーリーオーンは,母なる大地が送ったサソリに殺されます(Ov. Fast. v. 539, &c.).
オーリーオーンの悪行が懲らしめられたと受け取ることができますが----
同様の記述は,ヘーシオドスにもあって(The Astronomy Fragment 4 SCORPIUS (Skorpios) - Giant Scorpion of Greek Mythology ) ,ガイアは,オーリーオーンが地上の獣をすべて殺してしまうことを恐れて,サソリを送ったとされています.
オーリーオーンはアルテミスやレートーには愛され続けており,彼女たちの願いで星座となります.決して極悪非道のみの狩人ではなかった.
以上は,オリオン座好き素人の勝手な論考ですが,「ヘーパイストスがオリオン座を武具に描いた(ホーメロス「オデュッセイア」)ように,古代ギリシャ人もオリオン座好きは当然多かったでしょう.
ホメーロス,ヘーシオドス以降に,オーリーオーンが女神に愛される美貌の狩人として描いているのが,オーリーオーンの死,2番目の物語です.
ヒューギヌス
Pseudo-Hyginus, Astronomica 2. 34
「しかし,Istrusが言うところでは,ディアーナ(アルテミス)は,オーリーオーンを愛し,もうすぐ結婚するところまできていました.
アポロ(アポローン)は,これを深刻に受け止めて,何の結果ももたらさないと(英語の意味が私では分かりません??)彼女を非難していました.その時,遠くへ泳いでいくオーリーオーンの頭を見ました.そこで,お前は海の黒い物体を射貫くことはできないだろうと言いつりました.
彼女は,弓矢の技では名手と呼ばれることを望んでいましたから,矢をつがえ,オーリーオーンの頭を射貫いきました.
波が彼の遺体を運んできたとき,ディアーナ(アルテミス)は,射貫いたことを嘆き.何年も涙して彼の死を深く悲しみ,彼を星座の列に加えました.彼の死の後,ディアーナが何をしたかについては,彼女の物語の中で語ることにしましょう」
Istrus, however, says that Diana [Artemis] loved Orion and came near marrying him. Apollo took this hard, and when scolding her brought no results, on seeing the head of Orion who was swimming a long way off, he wagered her that she couldn't hit with her arrows the black object in the sea. Since she wished to be called an expert in that skill, she shot an arrow and pierced the head of Orion. The waves brought his slain body to the shore, and Diana [Artemis], grieving greatly that she had struck him, and mourning his death with many tears, put him among the constellations. But what Diana did after his death, we shall tell in the stories about her."
この物語を下敷きにしたと考えられるオペラが,イタリア・バロック音楽(17世紀)の作曲家ピエトロ・フランチェスコ・カヴァッリにより作られています.
Orione( L'Orione; Orione)です. Orione | Opera Scotland
必ずしも,オーリーオーンを立派に描いているわけではなく,またディアーナ(アルテミス)は,ヴィーナス(アプロディーテー)の悪意ある企みとキューピッド(エロース)の矢によって,オーリーオーンと恋に落ちることになっていますが.
Plot of Orione L'Orione; Orion
Diana and her nymphs are preparing for the Festival of Apollo, on Delos. They are horrified to see two men, Orion and Filotero, swimming ashore, but divert them away from their section of the island. Orion needs Apollo's help to restore his eyesight. However Cupid is able to do this himself. Venus hates her brother Apollo, and wishes to disrupt the festivities. She decides to make Diana fall in love with Orion. While Filotero and Orion sleep to recover their strength before leaving, Cupid fires an arrow at Diana which has the effect Venus desires. Diana feels guilty about her love for Orion, but he tries to persuade her to continue with it. Apollo, however, is furious that his sister should love a mortal, and he tricks her into killing Orion, when he is swimming in the sea. This rouses Neptune's anger and he raises a storm to destroy the island and the gods as punishment for killing his son. Jove finally restores peace by making Orion into a constellation.