肉じゃが=「おふくろの味」幻想/湯澤規子 “「肉じゃが」という料理名が一般的に使われるようになったのは1975年頃”  “「肉じゃが」のイメージに懐かしさや家庭的という物語を介在させて,「おふくろの味」という世界観や価値観を推し進めたのは,女性向けの本やテレビ番組などのメディアであった” “懐かしさや親しみの郷愁を織り交ぜて,男性の情緒に訴えかける味という物語によって,「肉じゃがはおふくろの味の代表格である」という認識や世界観が一九八〇年以降,急速に形成されたのである”

“肉じゃがは「おふくろの味」を代表する料理”

と聞いて,多くの人はうなずくのではないでしょうか?少なくとも私はその一人 ---- でした.

https://www.google.com/search? おふくろの味 肉じゃが

昨日,次の本を読み始めるまでは:

「おふくろの味」幻想~誰が郷愁の味をつくったのか~ 湯澤規子 光文社新書

 

この本の第五章では,以下の書き出しで「肉じゃが=おふくろの味」神話が生み出された経緯を解き明かしています.

 

“「おふくろの味」について,まことしやかに語られている神話といえば,「肉じゃが」が「おふくろの味」の代表格であるという言説が思い浮かぶ.”

 

そして

国民食の履歴書: カレー、マヨネーズ、ソース、餃子、肉じゃが 魚柄仁之助 青弓社」(昨日取り上げた日本語版ウィキペディア『肉じゃが』でも引用されていた)の記述から,

 

“「肉じゃが」という料理名が一般的に使われるようになったのは1975年頃だというから,実は「肉じゃが」の歴史はそれほど古いわけではないことがわかる.もとは家庭料理というよりも,居酒屋の一品として始まった料理であったらしい”

とし,

 

“「肉じゃが」のイメージに懐かしさや家庭的という物語を介在させて,「おふくろの味」という世界観や価値観を推し進めたのは,女性向けの本やテレビ番組などのメディアであった.主婦向け雑誌は「だんなさまの好きないなか料理」と紹介し,二十代前半の女性向け雑誌は「結婚できると評判になった」料理教室の紹介とともに,「和食の基本」というカテゴリーの中で「男性から高い人気を誇る肉じゃが」は「家庭的な献立」になると説明している.

肉じゃがの歴史はそれほど古いわけではないにもかかわらず,懐かしさや親しみの郷愁を織り交ぜて,男性の情緒に訴えかける味という物語によって,「肉じゃがはおふくろの味の代表格である」という認識や世界観が一九八〇年以降,急速に形成されたのである”

 

と「肉じゃが=おふくろの味」神話が生み出された経緯を解説しています.

 

「肉じゃが=おふくろの味」神話が生み出された1980年代は,働く女性が増加の一途をたどっていた時期ですが,この神話の定着を推し進めたメディア(調理雑誌,女性誌)は,働く女性とは違う路線=専業主婦をめざす女性をターゲットとしていたとのこと.

出版社は,女性誌の読者を「セグメント化(区分)」し,専業主婦を目指す女性も存在していることを見逃さなかった!

 

しかし,例え,メディアが「肉じゃが=おふくろの味」神話を推進したとしても,この神話が定着できた理由は「肉じゃが」自体にその力があったということでしょう.

しかし,肉じゃがのもつ「おふくろの味神話を定着させる力」について,湯澤規子氏は,必ずしも明確には説明していません.

 

彼女も引用している

国民食の履歴書: カレー、マヨネーズ、ソース、餃子、肉じゃが 魚柄仁之助 青弓社

“「いも類」=懐かしいという構図が根底にあったから.一九七〇代の「肉じゃが」という料理名の登場と同時に「懐かしの」と語られるようになったのではないでしょうか.”

としています.

この話題については,できれば明日取り上げてみたいと思います.

 

https://www.amazon.co.jp/定番おふくろの味―絵でわかる材料別・ぜひ覚えておきたい-辻学園BOOKS-佐川-進/dp/4880467014