華やいだ気持ちになる,新しい年の初め,正月.しかし,いつまで正月なのでしょうか?三が日?松の内?しかし,正月の本来の意味は,「一年の一番初めの月」.すなわち一月を指します.ただ,もちろん『正月』三が日や松の内の意もこめられています.古歌では「むつき」と読ませますが.正月(むつき)立つけふここのへにふる雪や衣にうけしあとをしるらん 冷泉為相 冬枯のすすきのなかに大富士の雪坊主一つめでたき正月 太田水穂

正月.

以前ほどではありませんが,多くの方が華やいだ気持ちになる,新しい年の初め.

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しかし,いつまで正月なのでしょうか?

「いつまでも正月気分でいないで,仕事だ!仕事!」などといわれるのは,何日ごろ?やはり松の内が明けてからでしょうか?

しかし,実は,本来の正月の意味を辞書で調べてみると---

 

昨日の「晦日」に続いて,今日は「正月」という言葉についてまとめてみます.情報源は,辞書と“古今和歌歳時記 鳥居正博 教育社” から.

 

 

「いつまでも正月気分でいないで,仕事だ!仕事!」と言ったとき,その人のあたまにあるのは,様々な新年の祝い事がある三が日,長くても松の内が「正月」と思い込んでいるのでしょう.

 

さんが‐にち【三箇日】

精選版 日本国語大辞典「三箇日」の解説

① 正月の元日・二日・三日をいう.この三日間は年始の祝日として,雑煮を祝い,年賀の挨拶(あいさつ)にまわり,訪問客には屠蘇(とそ)をすすめる.《季・新年》 〔大乗院寺社雑事記‐永正二年(1505)正月三日〕

 

まつ【松】 の 内(うち)

精選版 日本国語大辞典松の内」の解説

正月の門松・松飾りを立てておく間.元日から七日までの称.古く上方では正月一五日までをいった.しめのうち.《季・新年》

 

 

しかし,正月の本来の意味は,「一年の一番初めの月」.すなわち一月を指します.

日本国語大辞典では①としてこの意味のみ.②に新年の祝い,新年の行事が挙げられていて,松の内等の意味は書かれていません.ただ,広辞苑等,多くの辞書では,添え物のように,「松の内」が書き添えられています.

現在では「松の内」の意味で使う人の方が多いので,日本国語大辞典も「松の内」を意味に加えておくべきでしょうね.もともとの意味とは別に.

鳥居正博氏は

「『一月』には年の初めの月の印象がこもり,簡潔な文字からくる乾いた感覚が感ぜられ,『正月』三が日や松の内の意もこめられ,「お正月」の語にいわれるように,正月の諸行事を連想させる語感が,後世では生じている」

としています.

 

しょう‐がつ【正月】

精選版 日本国語大辞典松の内」の解説

① 一年のいちばんはじめの月.むつき.いちがつ.しょうがち.《季・新年》

※内裏式(833)元正受群臣朝賀式「今日は正月朔日の豊楽聞食す日に在」

 

しょう‐がつ 【正月】

[広辞苑 第七版]

①1年の1番目の月.いちがつ.むつき.また,松の内をいう.新年.「―気分」「―の準備」

 

 

日本国語大辞典にあるように, 833年の内裏式には,一月一日を「正月朔日」と書き表しています.正月はまさに一月の意味に使われています.

ただ,この場合,正月を「しょうがつ」と読むのか,「むつき」と読むのかははっきりしません.

より古い記述である万葉集では,「むつき」が使われています.

万葉仮名を書き起こしたときには「正月」をあてますが,もとは万葉仮名:牟都奇.

 

正月(むつき)たつ春のはじめにかくしつつ相(あい)し笑みてば時じけめやも     大友家持(万葉集 18・4137)

(たのしい万葉集

正月の春の初めに,このようにして集まって共に笑い合えば,いつもたのしいことでしょう.

天平勝宝2年(西暦750年)1月5日に,大伴家持の部下である久米広縄(の館で催された宴で詠まれた歌です.)

 

 

鎌倉時代になると「正月」と書かれますが,和歌の場合は「むつき」と読ませるようです.

「(古歌では)『むつき』の訓みのやわらかさを好んだものと思われる(鳥居正博)」とのこと.

 

正月(むつき)立つけふここのへにふる雪や衣にうけしあとをしるらん    冷泉為相(夫木抄・春・29)

 

 

明治以降の和歌では,正月をそのまま「しょうがつ」と読ませています.

 

冬枯(ふゆがれ)のすすきのなかに大富士の雪坊主一つめでたき正月    太田水穂(鷺・鵜)1933