日本の歴史上最大の危機は,「2011年3月15日」だった――と三重県在住の樋口英明さん(68)が指摘している. 膨大な放射性物質がまき散らされ,東京を含む「東日本壊滅」に至らなかったのは奇跡のたまもの.古賀攻/毎日新聞  震災関連死の申請今も  原発絡みか福島が8割 河北新報  除染が全く行われない場所が生じる可能性も出ています.国は,除染をせずに避難指示を解除できる,新たな制度を作りました. NHKスペシャル

水説

そこにあった「壊滅」=古賀攻

毎日新聞 2021/3/10 東京朝刊

水説:そこにあった「壊滅」=古賀攻 | 毎日新聞

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 日本の歴史上最大の危機は,先の大戦でも,蒙古襲来でも,ましてや今のコロナ禍でもない.それは「2011年3月15日」だった――と三重県在住の樋口英明さん(68)が指摘している.

 

 14年5月,「3・11」以降で初めて原発大飯原発3,4号機)の運転差し止めを命じた福井地裁判決時の裁判長だ.

 

 その日,福島第1原発で4号機の使用済み核燃料プールが干上がり,ベント不能な2号機では格納容器が大爆発する危機が同時に訪れた.だが4号機は水素爆発で逆に注水が可能になり,2号機は原因不明のまま圧力が下がった.

 

 膨大な放射性物質がまき散らされ,東京を含む「東日本壊滅」に至らなかったのは奇跡のたまもの.それが樋口さんの結論だ.実際に当時の首相官邸原発から250キロ圏の任意移転を覚悟している.

 

 17年に退官後,出身地に戻り,頼まれれば各地へ出向いて講演を重ねてきた.今月,その講演録をもとに「私が原発を止めた理由」(旬報社)を出版した.

 

 樋口さんが目を光らせたのは耐震設計基準の甘さだ.地震の強さは加速度を示す単位ガルが重視される.日本の原発は基準改定後も600ガルから1000ガルとなっているが,国内では1000ガル以上の地震が何度も起きている.

 

 仮に原子炉が耐えても,制御に必須の水と電気を送る配管・配線がやられたら原発は暴走する.だから耐震700ガルの大飯原発は「パーフェクトに危険」となる.

 

 電話を入れると「原発推進派はゼロリスクを求める判決だと批判しましたが,3000ガルの耐震性があったら私も目をつぶるかなあって誘惑に駆られましたよ」.

 

 最高裁は13年から原発関連の裁判を「複雑困難訴訟」と呼ぶようになった.高度に専門的な内容だから慎重にという含意がある.しかし,福井地裁判決後も,運転差し止めや再稼働停止を認める判決・決定は6件出ている.

 

 福井地裁の判決は「国富」への言及でも関心を呼んだ.「豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活していることが国富であり,これを取り戻すことができなくなることが国富の喪失である」と.

 

 経済産業省などは原発の停止による化石燃料の輸入量増加を「国富の流出」と言い募ってきた.将来のしかかる巨額の廃炉コストを意図的に省いた世論誘導だった.それが通用しなくなると,今度は「カーボンニュートラル実現のために原発が必要」と言い出す.

 

 エネルギーが国の基盤であるのは確か.だが,ごまかしの上では長続きしない.

(専門編集委員

 

 

NHK スペシャル「徹底検証 “除染マネー”」より

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更に,除染が全く行われない場所が生じる可能性も出ています.

費用対効果などを考慮した国は,去年12月,地元との協議の上除染をせずに避難指示を解除できる,新たな制度を作りました.

 

除染が進んでいない飯舘村長泥地区.

住民はこの制度を受け入れれば,安心して立ち入れない状況がこの先も続くと危惧しています.

「16軒ばかりたた残してよ.国のやり方はわかんねえ.

きれいにしてもらって,孫たちがまず,お墓参りさくらい来られるやり方をやってもらわなくてはだめだ.孫たち,線香上げに来られないようでは.そういう状態が,もう10年続いているのよ.

そんな簡単に思われちゃ,とんでもねえ話だ」

福島市の寺に,故郷が帰還困難地区に指定された人たちの遺骨が安置されています.

除染が進まない中で,この地域で暮らしていた住民の,少なくとも1割,2900人余りが,帰還を果たせぬまま亡くなりました.

 

原発事故から10年.除染マネーの終わりは,いまだ見えません.

 

 

震災関連死の申請今も 20年度,被災3県で32件

河北新報 2021年02月08日

https://kahoku.news/articles/20210207khn000024.html?format=slide&page=3

 

 東日本大震災の発生から10年目となる2020年度,岩手,宮城,福島3県で震災関連死の申請が計32件あり,10件が関連死と認定されたことが7日,河北新報社の調査で分かった.

申請は東京電力福島第1原発事故の避難が続く福島県が8割を占めた.岩手県で昨年7月に亡くなった人が関連死とされたケースがあるなど,死亡時期にかかわらず認定が続いている現状が浮き彫りになった.(震災関連死取材班)

 

原発絡みか福島が8割

 調査は1月下旬~2月上旬,関連死がこれまで1人でも認められた被災3県の71市町村を対象に実施した.本年度の申請,審査状況は表の通り.関連死は制度上,申請期限がなく,死亡時期にばらつきがある.20年度の申請には,発生1カ月以内に死亡した事例もあった.

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 福島県は27件の申請があり,自治体別では富岡,双葉,浪江3町が各6件.南相馬市5件,葛尾村3件,楢葉町1件と続いた.いずれも原発避難に絡む申請とみられる.

 地震津波被害が中心の岩手,宮城両県は計5件.大船渡市では震災で障害を負った人が昨年7月に死亡し,今年1月に関連死に認められた.他市町では不認定の判定を不服とする再申請や,制度を知らずに申請が遅れた事例があった.

 河北新報社の集計によると,1月末現在の関連死者数は全国3773人.県別では福島2318人(61・4%)が最も多く,宮城929人(24・6%),岩手470人(12・5%)と続いた.

 復興庁の最新データ(昨年9月末現在)によると,被災3県の死亡時期別の推移はグラフの通り.

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岩手,宮城は1年以内の死者が計1344人(96・1%)で大半を占めた.福島は1年以内に亡くなった1406人(60・8%)が関連死と認められた一方,5年目でも100人を超すなど,震災から時間がたっても認定が続いている.

 

 死亡時期を巡っては「発生から半年」が一つの目安とされる.新潟県中越地震(04年)で同県長岡市が「半年以上は関連死でないと推定」とする基準を作った.「長岡基準」と呼ばれ,東日本大震災でも各自治体が参考にした.ただし被害規模や原発避難の実態とそぐわない面が多々あり,個別事情を踏まえて審査している自治体が少なくない.

 福島県内4市町村で審査委員を務める今野順夫福島大名誉教授(社会保障法)は「原発避難の場合は数年後に自宅の様子を見に行ってショックを受けたり,避難生活の中で急に精神的な孤立が強まったりする.死亡時期で形式的に切らず,避難の実態を踏まえて常識的な判断をすることが大事だ」と強調する.

 

 震災と原発事故による関連死は全国3773人に上る.地震津波から一度は助かった命を救うため何ができたのか.自治体に開示請求した資料の分析や関係者の思いを随時掲載し,関連死の実相に迫る.

 

[震災関連死]建物の倒壊による圧死や津波による溺死などの直接死ではなく,劣悪な避難環境や医療機関の機能停止など間接的な原因による死亡.国は「災害による負傷の悪化などで死亡した災害弔慰金の支給対象者」と位置付ける.市町村は遺族の申請を受け,医師や弁護士らで構成する審査会で関連死に該当するか判定する.認められれば最大500万円の災害弔慰金が支払われる.

 

 

 

【震災】あす10年 死者 行方不明者「関連死」含め2万2200人に

NHK NEWSWEB 2021年3月10日 20時08分

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210310/k10012907171000.html

 

東日本大震災の発生からあす11日で10年です.

これまでに確認された死者と行方不明者は1万8425人,また,避難生活などで亡くなった「震災関連死」は3700人以上で,「関連死」を含めた死者と行方不明者は2万2200人にのぼります.

福島県茨城県では「震災関連死」で亡くなった人が津波など震災の直接の影響で死亡した人の数を上回っています.

 

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