”新3.11万葉集 詠み人知らずたちの10年(NHK BS1スペシャル)”
https://www.nhk.jp/p/bs1sp/ts/YMKV7LM62W/episode/te/KXWYZ43J56/
より
2020年3月11日(震災9年目)
「おはようございます」
取材者「ご無沙汰しております.7年ぶり」
斎藤梢さん.
「震災があって,日めくりをめくりはじめたんだけど」
(日めくりカレンダーの3月10日を破って)
「ここに書いてある.『東日本大震災の日』」
3.11.あの日から彼女は短歌を詠み続けている.
悲しみの 遠浅をわれはゆくごとし 十一日の度(たび)のつめたさ
「また来たっていう感じ.ここを越えないと,何か,先に進めない感じです」
—3.11万葉集(2014年放送)—
(東日本大震災から3年後,番組を作った.五七七五七七.三十一文字に想いを吐きだした,詠み人知らずたちのドキュメンタリー
海風がみちびく
一艘 また一艘 この空をゆく
おかへりみんな
—9年後の斎藤さん宅に戻って—
取材者「おかへりみんなって」
斎藤さん「自分が作った歌ではない感じですね.天から降ってきた感じ.みんなの声が,こう,私に浸透したような感じ.うん」
「何だか,閖上に今日行くっていうのが,やっぱり10年--これから10年目に入るんですよね.あの町が,今,どうなっているんだろう」
「あ,あれがマンション」
「マンション見えます?」
「うん,あっち.あっちですね」
閖上漁港 呑み込みていま マンションに 喰いつきてくる 津波ナニモノ
(映像: 震災直後の閖上地区.津波が去った後の何もない地肌が続く遠景にマンションの建物のみがみえる)
2011年3月11日.午後2時46分.東日本大震災発生.その日,梢さんはこのマンションにいた.
あの道も あの角もなし 閖上一丁目 あの窓もなし あの庭もなし
梢さんは,ぽつんと残ったマンションで,毎日,津波で何もなくなった町をながめながら,短歌を詠んだ.カメラのシャッターを切るように.
(閖上の海岸)
「先生,こんにちは」「こんにちは.あれ,何で?」
桑山紀彦さん.7年前の番組で取材したとき,梢さんが通っていた心療内科の医師.
「いやいやいや.何か,フリーズしてしまって,すいません」
—3.11万葉集(2014年放送)—
震災が いつの間にやら 心災となりてゐるかも 人には聞けず
(映像:桑山さんに診察を受ける斎藤さん)
斎藤さん「何か,ふとした時に,こう,理由もなく,呼吸ができなくなったり,こう,ガタガタする.
まだ,自分のほんとうの苦しさを詠んでいないような.出してもいいのだろうかっていうか」
桑山さん「そうですね.出さねばいけない時期にきたかなと」
—9年後の閖上の海岸に戻って—
桑山さん「2時46分は,どこで迎えるんですか?」
斎藤さん「どこにしようかなと思って」
「うちらは,黙とう,ここで1分やりますけど」
「なかなかね.大勢の中に入るっていうのは」
「難しいですか?」
「難しいんですよ.まだ」
「そうですよね」
「うん.ずっと一人でうちにいて.黙とうしてたんですけど」
「そうですか.ここに今日いらっしゃることが,すごく,何歩も先へ進んでらっしゃると思いますけど」
(浜辺に一人斎藤さん)
2時46分.閖上に3.11のサイレンが鳴る.
https://www.nhk.jp/p/bs1sp/ts/YMKV7LM62W/episode/te/KXWYZ43J56/
取材者「9年後の3.11---」
斎藤さん「まだ終わらない--- 雨,ちょっと---雨降ってきた.え〜,すごい.
あ,虹!え〜びっくり!虹がある.すごい虹です」
(帰りの車中.ノートに短歌を書き記す斎藤さん)
この海の 彼方にはまた 海がある 震災9年 虹の入口
今日の海の向こうにはあの日の海がある.
おかえりみんな.
そして,虹の中に帰って行く.