足元が揺れる
東京新聞 本音のコラム 2020年3月11日
私たちの足元は,どうやら十年に一度ぐらいの頻度で揺れることになっているらしい.
ひと月前には,東日本大震災の追悼祭が軒並み中止に追い込まれるなど誰も想像しなかったはずだ.
大震災の十年前,二〇〇一年には米国同時多発テロ,約二十年前の一九八九年にはベルリンの壁崩壊で世界中が揺れた.
そのたびに私たちは平常心を失うが,やがて記憶は風化し日常に戻る.
〈感染症の流行も「自然災害」である〉と石弘之「感染症の世界史」はいう.
国際災害データベース(EM-DAT)は災害を気象災害,地震災害,生物災害などに分類しており,感染症は生物災害に含まれるのだそうだ.
〈感染症の流行と大地震はよく似ている.周期的に発生することはわかっても,いつどこが狙われているかわからない〉
同書によると,一九〇〇年から二〇〇五年までの約百年で,洪水などの気象災害は約七十六倍,地震などの地質災害は約六倍,生物災害は八十四倍に増加した.災害一件当たりの被害規模も大きくなった.
大地震にともなう東京電力福島第一原発の事故はそのもっとも忌まわしき例だろう.
だから,戦争や政治的な動乱に似るのである.
権力はそこにつけ込む.
緊急事態だ非常時だという文言は魔の囁(ささや)き.
注意した方がよい.
(文芸評論家)