「使用済み燃料プールへのヘリコプターによる放水は,命がけの,とても大切な確認作業だった」「東電本社は,原発事故処理の最前線に応援部隊を送らなかったばかりか,事故処理の全面肩代わりを自衛隊に持ちかけていた」「福島原発事故の最悪のシナリオは,アメリカ軍,防衛省,官邸が,別々に描いていたが,政府全体で共有されて対策を考えることはなされなかった. 最悪の状況を考えて準備したり思考することが,日本(政治)の中に無い.当時も,多分現在も」NHKETV特集「原発事故“最悪のシナリオ”〜そのとき誰が命を懸けるのか」から

NHKETV特集「原発事故“最悪のシナリオ”〜そのとき誰が命を懸けるのか」(2021年3月6日,初回2020年9月17日放映)は,原発事故への政府対応について多くの方々の証言を綴っています.

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https://twitter.com/nhk_Etoku/status/1367977093024387073

https://www.nhk.jp/p/etv21c/ts/M2ZWLQ6RQP/episode/te/Y3YKKKNVNP/

 

 

「そういうことだったのか」と納得したり,「そんなことがあったの!」と驚いたりしながら,視聴しました.

驚きや納得の中から3点だけとりあげてみます.

 

 

1.

使用済み燃料プールへのヘリコプターによる放水は,命がけの,とても大切な確認作業だった.この放水が成功したことは,更なる大災害を防ぐ分岐点だった.

 

戒能一成防衛大臣補佐官付(当時 元経済産業省技官で,原発事故を研究していた)

「使用済み燃料プールが空だきになって,中の燃料が過熱して溶け始めているのなら,実は水をかけるのは大変危険です.

水蒸気爆発といいますが,高温の物体に中途半端に水をかけると,かかった水が次から次へ蒸発して,連鎖的に膨張した水蒸気が衝撃波のような形で爆発を起こすんですけど,核燃料の灰が飛んでくるわけですね.

そしてら,いった人も助からないし,人が近寄れませんから,助けに行くことすらできないような,ホントにヒドイ状態になってしまうので,まず,ヘリコプターで放水して,ちょっとだけ放水していみて,安全かどうか,水をかけても大丈夫かというのを確認知った上で,消防車でたくさん放水に意向という手順で考えて下さいっていうのをお願いしました」

「使用済み燃料プールの中の燃料は,もう加熱して溶けて落ちているかもしれない.その状況で放水に行けば,ヘリコプターが落とした水であっても,水蒸気爆発の可能性はあるわけですから,行った方はもう帰って来れないかもしれない.というのは,きちんとご説明しました」

 

3月16日,1日目の放水は,上空放射線量が高く断念したものの,翌17日の二回目の放水は成功.

 

戒能一成防衛大臣補佐官付(当時)

「ああ,爆発しなくてよかったな.とまず思いましたね」

 

廣中雅之自衛隊統合幕僚監部運用部長(当時)

「次のステップとして,重要なステップでしたから,冷却というのが可能かどうかということを試す意味でも,空中から散布をするというのは,一つの大きなテストケースではあったんで」

 

戒能一成防衛大臣補佐官付(当時)

「これは非常に大きかったですね.逆に,少しでも水素爆発の兆候があったなら,全然違うことをやらなければいけなかったので.そこは,自分で気を抜いてはいけないと言い聞かせましたけど,安心できた一瞬でした」

 

 

東電本社は,原発事故処理の最前線に応援部隊を送らなかったばかりか,事故処理の全面肩代わりを自衛隊に持ちかけていた.

 

3月18日

吉田所長

「2号だとか3号の,かなり線量の高いところに,その人たちに行けというのは,これはもう無理です.ずっと,1週間も前から人的な補強をお願いしていたんですが,未だになくて,全然抜本的な対応がなってないことを,今できるとおっしゃらないで欲しい」

 

国が使用済み燃料プールの放水に乗り出した後も,吉田所長は第一原発への人員補充を訴えていた.危機が続く三つの原子炉への注水やその監視など,強い放射線の中での作業は東京電力の責任で続けられていた.

命懸けになりかねない現場に,誰が向かうのか.

 

吉田所長

「うちの部下,みんな8日間ずっと徹夜してます.それから現場行きまくってます.注水し,点検に行き,家事を見に行き,それから油を定期的に入れにいってます.もうこれだけで,線量的にもこれ以上浴びさせられないんですよ」

 

この頃,自衛隊は,東電幹部から,予想もしない提案を持ちかけられたという.

細野豪志首相補佐官(当時)らが主催し,勝俣常久東京電力会長(当時)らが出席した,非公式会議でのことだった.

 

廣中雅之自衛隊統合幕僚監部運用部長(当時)

「東電と官邸等の会議,忌憚のない議論をしたいと,つきまして,スタッフレレベルで恐縮ですけど集まって下さいと,東電の本社に指示があったんですね.

 

まず,細野さんが,今の現状を簡単に話をされたんですね.非常にもう,アンコントロールな状況になってしまっていると.それと,次に何をしなければいけないかと言うことに関して,完全な意思疎通が取れていないと」

 

細野豪志首相補佐官(当時)

「相当疲労感も出てましたよね,このころには.もう1週間たってますし.何らか原発の中のことについて,自衛隊がやれること,東電がやれることを,少し役割分担できないかな,なんていう思いは私の中ではあったんですよね.

そしたら,私が考えてたよりもはるかに多くの要求を勝俣会長がしまして---」

 

廣中雅之自衛隊統合幕僚監部運用部長(当時)

「がれきを撤去して欲しいとか,---とかとかいう話がいっぱいあったんで,がれきの撤去だったら,別に自衛隊員を出さなくたって,できるじゃないですかという話をしたら,そこで---まあ,何ですかね,ちょっと沈黙をされて--」

 

勝俣氏が,こう切り出したという.

 

廣中雅之自衛隊統合幕僚監部運用部長(当時)

「『自衛隊に原子炉の管理をまかせます』と言われたんですよ.

自衛隊にやってくださいと言われた.私は,そんなことが,できるわけがないと.それは,我々は,そういった知識も経験もないし,役割もないと.現実に原子炉の管理なんかできるわけがないと.それは,監督官庁である経済産業省のもとで,東京電力に頑張ってもらうしかないというふうに切り返しをしたんですね」

 

福島原発事故の最悪のシナリオは,アメリカ軍,防衛省,官邸が,別々に描いていたが,政府全体で共有されて対策を考えることはなされなかった.

最悪の状況を考えて準備したり思考することが,日本(政治)の中に無い.当時も,多分現在も.

 

廣中雅之自衛隊統合幕僚監部運用部長(当時)(*)

「最悪の状況を考えるのが,まあ,上から下までですね,必ずしもそういったことを想定して,そして,その準備をしていくという思考だとか,備えるためのプラクティス(訓練)というのが,日本の中にたぶん無いんですよね.

ほとんど.今も何一つ変わってないですよね.マインドと申しますか.危機的な状況に対して国としてどうするかということに対して,何も変わってないですよね.だから,同じことが起きるんですよね.同じことが起きる」

 

* 長い肩書きですが,ご本人の説明によれば,「旧帝国陸軍海軍でいうと,大本営作戦部長のような仕事.部隊を全部動かす.それをスーパーバイズするというか,それを作戦指導する立場にあります」とのこと.

上記はこの番組最後にあった言葉ですから,特に印象に残ります.そして,発言した方は,東京電力福島第一原発事故に対処した自衛隊の作戦指導をする立場にあった方ですから,この証言は重いものです.「同じことが起きる」は,現在のコロナ危機,さらにはその渦中でのオリンピック開催における政府対応のドタバタぶりで証明されているように思います.