土記
若者に響いたか=青野由利
毎日新聞2020年12月5日 東京朝刊
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「GoToトラベル事業が感染拡大の主要な要因だとの証拠は今のところない」.
事業のアクセルを踏み続ける菅義偉首相はそう繰り返してきた.
確かに,政府の有識者会議「新型コロナ対策分科会」が先月の提言でそう言っている.
でも,
間違えないでほしい.
分科会は「主要な要因」である証拠が「今はない」と言っただけだ.
同じ提言の中で「一般的には人々の移動が感染拡大に影響する」とも指摘している.
「主要な」要因かどうかは別として,感染拡大の一因と考えるのが筋だろう.
それに,そもそも,GoTo事業にはこれが感染拡大に影響するかどうかを検証できる仕組みがない.証拠のあるなしを胸を張って言えるはずはないのだ.
もちろん,問題はGoToだけではない.
「国内移動と感染リスク」については,今週の厚生労働省の専門家会合に,メンバーである東北大の感染症専門家,押谷仁さんが示した分析が興味深い.
まず,1月13日から8月31日に検査陽性となった人の4割弱に当たる2万5276人について,感染判明前に県をまたいで移動していたか,その後誰かに感染させたかを調べた.
すると,移動歴のある人は20代を筆頭に10~50代の若年層で圧倒的に多く,移動後に2次感染を起こした人も同年齢層で多かった.
1月13日から11月15日の分析でも,移動歴のある感染者に占める割合は20代で高い傾向がみられ,50代は夏より10月から11月にかけて高かった.一方,70代以上では移動歴のある感染者は少なく,特に80代以上はわずかだった.
ここから浮かぶのは,移動して感染を広げているのは主に若い世代だと考えられること.
とすれば,東京都と政府で決めた65歳以上の高齢者のGoTo自粛に感染拡大防止の効果は期待できない.控えてもらいたいのは,むしろ,活発に活動する若い世代の移動だろう.
さらにこのデータの背景として注目したいのは,第3波の感染拡大の一因と考えられる「見えないクラスター」の存在だ.
「東京や大阪などで若者のクラスター連鎖が起きていると考えられるが,見えていない.そこから若い世代の移動によって感染が広がり,親の世代に感染したところで顕在化しているのが今の状況だろう」と押谷さんはみる.
菅さんは4日の記者会見で原稿に目を落としつつ,既に講じた対応を淡々と述べただけ.若者に響いたとは到底思えない.
(専門編集委員)
毎日新聞2020年12月5日朝刊