人事めぐる事前調整「なかった」 山極前会長が首相答弁に反論<学術会議の任命拒否>
東京新聞 2020年11月7日 05時50分
政府と日本学術会議の間で人事の事前調整がなかったのが,会員候補6人の任命拒否の理由だとする菅義偉首相の国会答弁を巡り,当時会長だった山極寿一・京都大前学長は東京新聞の取材に応じ,
「事前調整というのは,相互が話をして調整するもの.私は(杉田和博官房副長官と)直接会うことも電話で話をすることも,事務局長を通じて断られた.話し合いたいとの官邸からの誘いもなかった」
と反論した.
大西隆・元会長ら歴代幹部も調整を否定するなど,菅氏の発言に批判が相次いでいる.
(望月衣塑子)
◆官邸が「うわさ」として注文,山極氏「忖度したくない」
「以前は正式な名簿の提出前に,内閣府の事務局などと会議の会長との間で一定の調整が行われていた」と発言,「(任命拒否があった)今回は推薦前の調整が働かず,結果として任命に至らない者が生じた」
と述べた.
会議による候補推薦の法的位置付けについても
「推薦を尊重しつつも任命権者として判断する」
と,首相に裁量の余地があるとの認識を示した.
これに対し,山極氏は
「(内閣府日本学術会議事務局の)事務局長は105人の(推薦者)名簿を提出前に杉田さんに見せていると思う」
と指摘.その上で
「(官邸側から)何か言われたとの話が伝わってきたが,直接言われていない.
官邸側が『うわさ』として注文を付けて,こちらが名簿の構成を変えれば,官邸は『何も言っていない.会議が自主的にしたことだ』と言うだろう.そんな忖度はしたくない」
と,会員の選定人事に介入しようとした官邸側の姿勢を批判した.
◆大西氏も「事前に調整したこと一切ない」
一方,菅氏から「一定の調整が行われていた」と指摘された大西氏も取材に応じ,
「官邸に事前説明はしたが,要望を受けて選定過程も含め,事前に何かを調整したということは一切ない」
と反論,
「2016年の補充人事では官邸が難色を示したが,選考委員会で議論し『官邸の要望は受け入れられない』と判断したまで.調整をしたとは思っていない」
と回答した.
大西氏と同時期に選考委メンバーだった別の幹部も
「首相は,調整は会長と『内閣府の事務局』との間で行われたと言っているが虚偽だ.会長と事務局が人事で実質的なやりとりをすることはあり得ず,相手はあくまでも杉田副長官.杉田氏を表に出さないために『事務局など』と姑息な説明をしている」
と指摘した.
東京新聞2020年11月7日朝刊
17年には学術会議側と事前協議 首相,候補者の推薦前に<任命拒否問題>
東京新聞 2020年11月7日
菅義偉首相は6日の参院予算委員会で,日本学術会議の新会員任命に関し,会員の半数が改選された2017年には,同会議が候補者を推薦する前に,政府との間で事前協議を行ったことを明らかにした.
事前協議について,首相は「任命にあたっての(政府の)考え方を話し,意見交換を行った」と説明.加藤勝信官房長官は「意見交換を踏まえて学術会議が自身の判断で推薦名簿を出した」と述べた.
日本学術会議法は会員の人選について,同会議の推薦に基づき,首相が任命すると定める.質問した共産党の小池晃書記局長は「(推薦への)政治介入そのもので,学術会議の独立を脅かしている」と批判した.
首相は前日の5日の参院予算委で,20年の会員任命では事前協議がなかったと説明し「推薦前の調整が働かず,結果として任命に至らない者が生じた」と主張した.(山口哲人)
◆除外の理由かたくなに説明せず,拒否の根拠も不明確なまま
6日まで4日間にわたった衆参両院の予算委員会は,日本学術会議の新会員任命拒否問題が主要な論戦のテーマになった.会員の人選を巡る背景や経緯で判明した部分もあるが,菅義偉首相は6人除外の理由をかたくなに説明せず,任命を拒否できる根拠も不明確なままだ.
「人事に関することなので答えは差し控える」
首相は答弁でこのフレーズを連発した.6人が安全保障関連法など,政府の政策に異論を唱えていたこととの関連性は否定したが,任命拒否の理由についてはゼロ回答に終始.立憲民主党の枝野幸男代表は「壊れたレコード」と皮肉った.
一方,人事の検討過程の一端は明らかになった.首相は会員の半数が改選された2017年,学術会議が推薦リストの提出前に政府と事前協議を行ったと説明.「今回は推薦前の調整が働かず(6人の)任命に至らなかった」と述べ,官邸側の意向を聞き入れなかった学術会議に責任があるとの認識をにじませた.
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東京新聞2020年11月7日朝刊
官邸,「反政府先導」懸念し拒否
学術会議,過去の言動を問題視か
KYODO 2020/11/8
https://this.kiji.is/697913867179312225?c=113147194022725109
首相官邸が日本学術会議の会員任命拒否問題で,会員候補6人が安全保障政策などを巡る政府方針への反対運動を先導する事態を懸念し,任命を見送る判断をしていたことが7日,分かった.
安全保障関連法や特定秘密保護法に対する過去の言動を問題視した可能性がある.複数の政府関係者が明らかにした.
菅義偉首相は国会審議で6人の任命拒否に関し「個々の人事のプロセスについては答えを差し控える」と繰り返し答弁.拒否理由は今回の問題の核心部分となっていた.
日本学術会議法は会議の独立性をうたっており,政治による恣意的な人事介入に当たるとして,政府への批判がさらに強まる可能性がある.
東京新聞2020年11月8日朝刊