“コロナ危機“ マルクス・ガブリエルの言葉
BS1スペシャル シリーズ コロナ危機「グローバル経済 複雑性への挑戦」より
[BS1]
2020年4月18日(土) 午後7:00~午後8:50(110分)
https://toyokeizai.net/articles/-/344417
https://www2.nhk.or.jp/hensei/program/p.cgi?area=001&date=2020-04-18&ch=11&eid=18683
ナレーション:資本主義からサブカルチャーまで,時代の本質に鋭く切り込み,注目を集める哲学者マルクス・ガブリエル.ドイツ・ボンの自宅近くの森でインタビューに応じてくれた.
「現在(3月24日撮影),ドイツでは,集団の大きさは法律によって二人ないしは家族とされています.
現在の状況はドイツ社会にかつてないほどの大きな影響を与えています.ドイツのこれまでのいかなる独裁政権すら,3人以上の集会を禁じたことはありません.
ですから,これはドイツで展開された最も思い切ったやり方です」
「新型コロナウィルスCOVID-19は,現代の世界秩序の発展(development 展開/推移)を完全に形づくります.これまでのモダニティ(近代性)の中で目の当たりにしてきたとの出来事とも異なります.
私の予測では,我々が現在目の当たりにしているのは,いわゆる新自由主義の終焉です.
新自由主義は,連帯や国家,制度的組織の構造を,純粋な市場戦略によって支配させるシステムに置き換えることが出来るという基本的経済概念でした.
そのシステムが,まさにコロナウイルスに直面して,ひどく機能不全になるんです.
というのも,生物学的な構造は,経済学的構造と完全に異なるモデルに依存するからです」
「今,ヨーロッパで見られる反応は,新たな形の結束というものです.しかし,この結束は完全に空虚なものです.だれも完全には理解していない疑わしいデータが含まれる生物学的モデルに基づいているからです.ですから,この新たな結束というのは,一瞬の幻想にすぎません.
新しい形の暴力の噴出が,これから起こってくると思います」
「グローバル資本主義には,加速によって破滅に向かうとの認識があります.完全な破滅です」
「社会とはなんでしょうか.
社会とは,社会学的にいうと社会経済取引の最大の仕組みを意味しています.ですからドイツの社会は,小さなグループ,大きなグループにかかわらず,ドイツ人が行う全てのことなのです.
すでに我々は社会を異なるローカルのシステムに分割しているわけですから,社会はもちろんすでに変化しています.その影響を我々は決して忘れることは出来ません.ですから,社会はすでに完全に変化しています.
そして,我々は,ちょうど今,ヨーロッパで自由民主主義の価値を捨てようとしています.というのも,人々は現在の生物学的危機を,自由民主主義の手段を使って解決できるとは思っていないからです.
自由民主主義の問題を解決するために,我々が展開している,まさにその事実,方法,独裁政権の特徴というものは,我々の政治家が,自由民主主義を信じていないということを意味しています」
「デジタルの変革を加速させるべきという考え方に心から異議を唱えます.
例えば,学習システム.従来型の大学での学習システムをオンライン学習に取り替えるだとか,人間のコミュニケーションを遠距離通信に取り替えるべきという考え方です.
これらは,人類にとって悲惨なものになります.また,それは機能しないでしょう」
「我々は,我々をつなぐ物質的宇宙の単なる一部だけではありません.そこには変化をもたらしうるのです.
人類の真の進歩は,物質レベルでは起きません.物質的なレベルでの近代の論理は,単なる技術の発展しか意味せず,人間の存在にとって脅威でしかないのです.
啓蒙なき近代というのは,必然的にサイバー独裁制に向かいます.
ですから,もしグローバル化とデジタル化への道を,まさに我々が1990年以降,目の当たりにしてきた形で進めば,必然的に全世界が北朝鮮の形になってしまいます.
問題は,我々がそれを望むかです.
我々は,自身のことをウイルス学的モデルで考えるのか.それはつまり完全なる支配や監視,行動の制御のもとに置かれることになります」
「そこには,この問題に関する,現代の社会の考え方において,常にある思考様式があり.それは,マルクス主義への批判を思い起こさせます.
“ほら,理想の国家はうまくいかなかった”と,皆さんは言うでしょう.
私は,マルクス主義者ではありませんが,気をつけないといけません.マルクスのイデオロギーは,世界で最大の国,中国を動かしているのです.
共産主義は失敗したという考え方も,ひどい誤りです.
中国がうまくいっているというのではありません.私が申し上げているのは,現在のところ,マルクス主義は終わっていない,ということです.
また,明らかに忘れてはいけないのは,冷戦は決して終わっていないということです.
そして,唯一の本格的な代替案としてあるのは,現在の中国のイデオロギーです.
ですから,習近平の社会に対する見方が,現在世界を征服しつつあります.
ヨーロッパは,人類の歴史で初めて,完全に中国の先例にならっています.我々がとっている対応策は,中国のものです.人々は中国を模倣すべきだと言っています.注目すべき初めてのことです.
これは,近い将来新しい超大国,中国の存在感の立証です.
我々は,アメリカ化を目の当たりにしてきました.そして,これからは西洋と東洋の異議を同等に取り入れていくでしょう」
「ですから,我々には自身を理解するための新しいモデルが必要なのです.
もしそれを望まなければ,中国の毛沢東のイデオロギーが,他のイデオロギーよりも優れているという結論に到るかもしれません.
しかし,我々は少なくとも,これがすべき正しいことかどうか,真剣に議論すべきだと思います」
「カミュが示したのは,我々は現実には一人だということでした.“死ぬときは皆一人だ”と.これが古典的な実存主義の標準的な仮定です.
しかし,重要な反論があります.いつの時代も最高の政治哲学者の一人,ハンナ・アーレンとの出生の概念です.未来が存在するという事実を我々は考える必要があります.今の瞬間,深く未来を形作れるはずなのです.私の新実存主義が,そのことを教えてくれます.
未来は根源的に開かれています.“すでに未来は決まっている” その思い込みと戦わなくてはいけません」