一人暮らしに向けて,一矢さんは,去年夏から,定期的にヘルパーと過ごしている.施設で暮らしてきた一矢さん.食事を自分で選べる生活ではなかった.一矢さん「これ」 ヘルパー「前は言わなかった自分の意思を,やりとりする場面が出てきたりしているみたいですよ」 自立に向けて〈point 本人の意思を確かめるのが難しい!〉〈point “一人暮らし”の理解,選択が難しい.⇒まず体験させる〉〈point 子ども時代から“ヘルパー付き自立”を体験〉NHKEテレ/バリバラ 障害者殺傷事件3年 まちで暮らす 2

NHKEテレ/バリバラ 障害者殺傷事件3年 まちで暮らす 1 ( + NHK首都圏ネットワーク「やまゆり園」運営法人見直しへ)

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相模原市の障害者入所施設で19人が殺害される事件が起きた.3年がたち,障害のある人は事件をどう思っているのか?

 

重傷を負った尾野一矢さん.ある決断を迫られている.「施設に戻ることは考えていない?」「ないです.ぜひ,一矢にも健常の人と同じようなね,暮らすことをさせてあげたいな」ここへは戻らないことにした尾野さん.

実は2年前に取材したときには,全く逆の考えだった.

父・尾野剛志さん「とにかく一度(もとに施設に)返して下さい.一矢が命をまっとうするまで,苦労なく暮らしてくれることが一番だから」 

今,施設から出すことにしたのは,ある映画との出会いからだ.

今年公開の映画「道草」(宍戸大裕監督).

主人公は,一矢さんと同じ重い知的障害のある.そんな彼らが,まちなかで,一人暮らしをしている様子を描いた映画だ.

こうした生活を可能にするのが,重度訪問介護という制度.

〈重度訪問介護 重度の知的・身体障害者らが,自宅などで生活できるよう,長時間ヘルパーを派遣し,費用を給付する国の制度〉

行動障害がある人にも,常にヘルパーが付き添い,行きたい場所へも自由に行けるのだ.

映画には,一矢さんも登場.

施設に戻るまでを撮りたいと始まった取材.そこで,監督から,一人暮らしができると聞かされたのだ.

尾野剛志さん「『一矢さんなら,絶対大丈夫.尾野さんどう?挑戦してみない?』って言われて.えっ.それこそ寝耳に水.頭たたかれた感じ.そんな制度,あるんだって」

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 NHK バリバラ | 番組紹介

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NHKEテレ/バリバラ 障害者殺傷事件3年 まちで暮らす 2

尾野さんは,映画に登場するヘルパー派遣の事業所に相談.

一人暮らしに向けて,一矢さんは,去年夏から,定期的にヘルパーと過ごしている.

(映像 ファミリーレストランで,メニューを見る尾野一矢さんとヘルパーさん)

ヘルパー「どれにしましょう」

30年以上,施設で暮らしてきた一矢さん.食事を自分で選べる生活ではなかった.

一矢さん「これ」

ヘルパー「これ?---これは大丈夫.ハンバーグ入ってる.卵も」

ヘルパーの助けを借りて選んだのは----

(一矢さん,別のものを指さす)

ヘルパー「これにする?グリルランチ.ハンバーグも入ってるね」

(隣の席でにこやかに見守る一矢さんの母)

 

店員「お待たせしました.山盛りポテトです」

先に番組スタッフのポテトが到着すると.

(一矢さん.自分の前にお皿を引き寄せる)

スタッフ「一緒に食べますか?」

(とりつかれたように,ポテトに手が出る一矢さん.自分のグリルランチが来ても---)

一矢さん「ハンバーグやめとく〜」

ヘルパー「えっ,やめとくの?」「ハンバーグやめとくの」

スタッフ(ポテトが)いいんですね」

ヘルパー「気に入ったのね」

一矢さん「アイス」

ヘルパー「何て言った?」

一矢さん「アイス」

ヘルパー「アイスか」

(一矢さん.メニューを指さす)

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ヘルパー「おっ,これいった.チョコレートパフェ」

自分の思いを安心して表し,やりたいことを実現できる.そんな経験を積み重ね,一矢さんの意思表示ははっきりしてきたという.

(パフェをスプーンでとり,ヘルパーの口に入れる一矢さん)

ヘルパー「ありがとう」

 

ヘルパー「『あそこに行きたい』とか,園(施設)の中でも,やりとりする場面が出てきたりしているみたいですよ.前は,言わなかった自分の意思を,人に.だから,この状態であれば,アパート暮らし,問題ないですね」

 

山本シュウ(番組MC/おせっかい運動推進中・ラジオDJ)「へえ〜.あずみん,どう見ましたか?」

東佳美(自立生活支援センター職員)「いや,今の方,全然,重度じゃなくないですか」

山本シュウ「あっ.そうか」

東佳美「そもそも.---っていうか.何をもって重度ってやるんやろって思います」

山本シュウ「意思疎通,できてるもんね」

東佳美「そうそう.大体,メニューだって選べてるし,『アイス.これっ』って,ちゃんと言えてるし」

玉木幸典(バリバラご意見番/障害者相談支援専門員)「一矢さんも,選ぶとか決めるとか,そういう体験を奪われてきた.

面白かったのが,ポテトとったやろ.ちょっと食べてみておいしかったんやろな.ほな,『これがええわ』.

ただ,『別のテーブルや,お客のとこに行くのはやめようね』とか」

山本シュウ「びっくりするよな」

玉木幸典「やりながら,ルールを説明していけたら,多分,いい経験ができる」

 

大西瞳(番組MC/義足のパラリンンピアン)「今日は知的障害のある人の自立支援に20年以上取り組んでいる櫻原(さくらはら)雅人さんにお越しいただきました」

山本シュウ「櫻原さん,よろしくお願いします」

櫻原さん「よろしくお願いします」

山本シュウ「VTRごらんになって,いかがでしたか?」

櫻原さん「障害のある当事者と,家族が孤立してきたという背景があって,家族と暮らせなくなったときに,入所施設を選ばざるをえない状況がある.

その選択肢として,入所施設か,まあ,今で言えば,グループホームという所はあるけれど,僕らが普通に生活をするときに,当たり前に選ばれる選択肢(一人暮らし等 by yachikusakusaki)が,提案されていないというのは,やっぱり問題なんだろうなっていうふうに思っています」

山本シュウ「そうですよね」

 

ちなみに,

入所施設に暮らす知的障害者は全国で12万人.

その多くは,重度と言われているの.

施設入所は誰が決めたのか?ある調査大阪市障害者等基礎調査/回答者の87.5%が知的障害者では,自分で決めたという人が5.1%しかいなかったの.

 

東佳美「そもそも,自分の意志があるんかどうか?っていう,その偏見があるんやろうなって思いました.でも,知的障害があるからといって,自分の意志がないかって言われると,そうじゃないし,絶対,自分で『一人暮らししたい』『施設は嫌だ』って思ってる当事者も絶対いるはずやなって,改めて思いました」

山本シュウ「ただ,現実には,やはり難しいところはあるみたいですね」

櫻原さん「そうですね.あの〜,僕たちが20年前に,その自立生活を始めようというふうにして,その自立生活をすすめていくときに,そのメンバーの中で,

『いや,本人は自立生活したいって言ってないよね.家族,お父さんお母さんが大好きで,家族と一緒に暮らしていて,まわりが勝手に自立生活って言ってるだけじゃないか』っていう話があったんです」

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山本シュウ「要するに,本人の意思かどうかというのを,こっちが受け取るのが,まず,難しいっていうのが---」

〈point 本人の意思を確かめるのが難しい!〉

 

どうすれば,意思を伝えるのが難しい人も,自分で暮らし方を選べるのか.

そのヒントをもらってきたわよ.

 

映画「道草」(宍戸大裕監督)に登場する亮祐さんの父,岡部耕典(こうすけ)さん.

知的障害の重い息子が自立したいと言い出すのは難しいと考え,高校卒業後,まず,一人暮らしをさせてみたんだって.

〈point “一人暮らし”の理解,選択が難しい.⇒まず体験させる〉

 

岡部耕典さん「ちょっとしたら,逃げて返ってくるんじゃないか,とかね,思ったこともありましたけど,全然無かったし--」

スタッフ「出たかったかもしれない?」

岡部耕典さん「そうですね.出たかったかどうかも分からない.だけど,出てみて悪くないなと感じたのかな」

 

たまたまうまくいったように見えるけど,岡部さん,実は大事な準備をしてきたの.

9歳の頃からヘルパーをつけ,放課後など,自由に過ごす体験をさせてきたんだって.

〈point 子ども時代から“ヘルパー付き自立”を体験〉

 

岡部耕典さん「家族と同居していても,半分ぐらいは自立,ヘルパーといるときは,自立していた.だって,親と離れて,好きなことをやっていたわけだから.

だから,耕典は,もしかしたらまあ選んだ,『自立したい』という思いがあったのかもしれないけど,あるとすれば,やっぱ,他の生活を体験したからですよ.親以外の生活をね.

そういう選択肢があることっていうかな,当事者が選ぶためには,ある程度,(周りが)その方向付けをしないと,選択肢があることすら本人は分からない」

 

一人暮らしを選んだ後,実際,どうやって生活を作っていくのか?

 

続く