うどんの起源③(うどん7)  “索餅(さくべい)”は菓子か?そうめんの前身か? 後者なら,奈良時代に登場した日本最古の麺,と考えられますが---.いくつかの根拠をあげ,石毛直道氏はそうめんの前身と考えています.▽中国では後にそうめんにあたる“索麺” の名が登場する.▽平安時代の宮廷では節会(せちえ)のさいの宴会の料理の一つとして供している.▽醤・未醤・酢が調味料として使われている.▽再現実験から,索麺はコムギ粉,米粉,塩を混ぜてつくった手延べ麺である可能性が高い.

うどんの起源③

『麺の文化史』 石毛直道 講談社学術文庫 をテキストとして,うどんの歴史をまとめようとしています.悪戦苦闘しながら.

 

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過去2回のブログの内容は---

うどんの起源①(前々回)

:“うどん”という言葉が,室町時代には使われていた”

 

その根拠となるものは:

室町時代になると,餛飩,餛飩という文字で「うどん」「うんどん」「うとん」と読ませる例が現れるが,この頃になると,いまの麺類にあたる食品をさすことにまちがいがない」(『麺の文化史』).

例えば,

▽親元日記‐寛正六年(1465)一二月二五日「御供衆点心 うとん」(日本国語大辞典

 ⇒麺の文化史によれば,嘉元記1352年が,うどんの初出.

また,

▽『江家次第』(11世紀はじめに書かれた宮中行事の記録)には, “饂飩”  “索餅(さくべい)”の記述がある.(『麺の文化史』)

 ⇒この“饂飩(うんどん)”が,「“うどん”らしき言葉」(『麺の文化史』)の初出.

 

うどんの起源②(前回)

:「麺の分類」の紹介

 ⇒“うどん”は,「切りめん系列」の麺

 参考:うどんの定義(日本国語事典)

 「小麦粉に少量の塩と水を加えてこね,薄く伸ばして細く切ったもの」

 「茹でて汁に付けたり,汁と共に煮たりして食べる」

 

:中国における最古の麺は?

 ⇒ “水引餅” :中国で麺の祖先といって間違いがないもの

 ⇒ “索餅”:正体不明とされるが,麺である可能性があり,もしそうだとすれば,最古の麺,

 

 

前二回を受け,今日取り上げるのは,

『江家次第』(11世紀はじめ)で,うどんらしき言葉“饂飩”と併記されていた

 “索餅(さくべい)” .

中国の文献にも日本の文献にも現れている食品名です.

“索餅”とは何か?に関しては,様々な論者が意見を出してきました

様々な説が出されてきて,大別するの次の二つ.

 

(1)菓子か?

(2)そうめんの前身か?

 

石毛直道氏の考えは(2)のそうめんの前身.

そうだとすると,奈良時代の文献に登場することから,奈良時代に,すでに「そうめんの前身」があったことになります.そして,索餅が最古の麺ということに!

 

そうめんの前身とする主な論拠は以下の通り.(そのほかにも,微に入り細を穿つ説明があります)

 

▽中国の記述から

名前のみで手がかりなし.ただし,後にそうめんにあたる“索麺” の名が登場することから,そうめんである可能性が考えられます.

 

後漢〜唐代に“索餅”の名前が現れるものの,名前のみで,手がかりを得られる記述は中国には一切なし.

・ただし,そうめんにあたる“索麺”が,『居家必用事類全集』(宋末〜元初)に出てくることから,索餅はそうめんを指している可能性がある.

 

▽日本の記述から

・“むぎなわ”と呼ばれる食品と同じもの.

麦縄⇒麦は「小麦粉でつくった」,縄は「縄のように長い食品」を意味すると考えられます.

⇒『新撰字鏡』(日本最初の漢和辞典 898-901年) “索餅”の和名として“牟義縄(むぎなわ)の文字をあてている.

⇒“索餅” “むぎなわ(麦縄)”は,奈良時代鎌倉時代の文献にあらわれ,この二つは同じ食品と考えられる.

(この縄という字から,太く作った菓子を連想する向きもあるが,「索」は縄の意味があることから,“むぎなわ”は索餅の直訳と考えられる.また,索餅は乾燥して長期間保存可能な食品で,太いはずがない)

 

平安時代の宮廷では節会(せちえ)のさいの宴会の料理の一つとして供していることから,菓子というより,料理食材で主食的性格を持つ食べ物.

・醤・未醤・酢が調味料として使われ,アズキが調理材料として使われていることから,ゆでてから,塩気のある調味料や酢で和えて食べたり,アズキ汁で食べたものらしい.

延喜式(927年)にある索餅作りの材料・道具をつかった再現実験から,索麺はコムギ粉,米粉,塩を混ぜてつくった手延べ麺である可能性が高い,