おおいぬ座とシリウス5 ギリシャ神話ではシリウスは神または女神として描かれることがあります.ティターンのアトラースの娘マイラ(マエラ),英雄イーカリオスの犬マイラ-----.また,焼け付く熱と真夏の日照りの源シリウスが,ケオス島に日照りをもたらしたとき,アポローンの息子アリスタイオスに導かれたケオス島の民がゼウスとシリウスに供物を捧げ,暑さは和らぎます.

おおいぬ座シリウス5 

シリウスは単独で神格を与えられていた.

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 星座図鑑・おおいぬ座

 

1. シリウス"thr Dog-Star"が先.この星の名をもとにおおいぬ座が星座として描かれた.

 

一昨日のブログ

yachikusakusaki.hatenablog.com

の繰り返しになりますが---,改めて整理すると:

 

太陽を除く恒星で最も明るく見える星シリウスは,英語でthe Dog-Star.

古代ギリシャでも,シリウスギリシャ語ではSeirio)は早くから“オリオーンの犬”(ホメーロス 紀元前8世紀?), “Kyon Aster=the Dog-Star”(アルカイオス 紀元前620年頃 - 紀元前6世紀の詩人)などと呼ばれ,このとき,おおいぬ座はまだ成立していなかったと考えられています.

シリウス"thr Dog-Star"が先にあって,この星の名をもとにおおいぬ座が星座として描かれた」ことは,ほぼ間違いないと思われます.

 

[Richard Hinckley Allen, Canis Major in "Star Names and Their Meanings," London: 1899]

ホメーロスは,何回も [Kyōn](犬)を作品中に使っています.しかし,彼の[Kyōn](犬)は,疑いもなく.シリウスに限定されていました.古代人の間では一般的にそのようであって,正確な時期は不明ないつの日か,この星座が今の形に形づくられました.実際,その後もずっと, the Dogは隠喩として使われますが,それが星座なのか,その中の最も明るい星なのか私たちにはよくわかりません.

(拙訳 sirius | Origin and meaning of sirius by Online Etymology Dictionary)

 

 

2. 神格扱いされていたシリウス

ギリシャ神話ではシリウスは神または女神として描かれることがあります.

 

the Theoi Project,Siriusの解説

SIRIUS (Seirios) - Greek God of Dog-Star

は下記の通りです.

シリウスの解説であるにもかかわらず, おおいぬ座のものとも考えうる内容.

“the Dogは隠喩として使われますが,それが星座なのか,その中の最も明るい星なのか私たちにはよくわかりません”

というRichard Hinckley Allensirius | Origin and meaning of sirius by Online Etymology Dictionaryの意見に合点がいく内容ですね.

 

SIRIUS (Seirios) - Greek God of Dog-Star

シリウスは,おおいぬ座の最も明るい星,"the Dog-Star"の神または女神でした.太陽の軌道上に夜明け前に昇ることから,焼け付く熱と真夏の日照りの源と信じられていました.

神話では,シリウスは沢山の外観で現れます.彼または彼女は,ティターンのアトラースの娘マイラ(マエラ),英雄イーカリオスの犬マイラ,オリオーンの猟犬ライラプス,ゼウスの黄金の猟犬Kyon Khryseos等として描かれます.

また,西の巨人ゲーリュオーンの牛の番犬オルトロス(朝の薄明かり)と結びつけられることもあります.この星は,多分,犬を愛する女神ヘカテーに関連づけられます.ヘカテーは"the Destroyer(破壊者)"ペルセースと"the Starry one(星の人)"アステリアーの娘になります.

 

SEIRIOS (Sirius) was the god or goddess of the Dog-Star, the brightest star of the constellation Canis Major. The pre-dawn rising of the star in the path of the sun was believed to be the source of the scorching heat and droughts of midsummer.

Seirios appears in many guises in myth. He or she was variously described as Maira (Maera) daughter of the Titan Atlas, Maira the dog of the hero Ikarios (Icarius), Lailaps (Laelaps) the hound of Orion, and Kyon Khryseos the golden-hound of Zeus. It may also have been associated with Orthros ("Morning Twilight") the hound of Geryon, giant of the west. The star was no doubt also connected with the dog-loving goddess Hekate who was the daughter of Perses "the Destroyer" and Asteria "the Starry One." SIRIUS (Seirios) - Greek God of Dog-Star

 

 

3. 焼け付く熱と真夏の日照りの源シリウス

ギリシャローマ神話におけるシリウスは,ヘーシオドス,ホメーロスの時代から,たびたび書き記されています.神や犬などに擬せられない形で.

ヘーシオドス,ホメーロスの時代からさらに下ったヘレニズム時代の叙事詩アルゴナウティカ(アポローニオス 紀元前3世紀)では:

シリウスはケオス島(ケア島 ミノス文明が栄えた)に日照りをもたらし,アポローンの息子アリスタイオスが,ゼウスと共にシリウスにも供物を捧げることで,それを鎮めたとされています.

シリウスが神と同列と見なされていた例ともみなせるのでは?

 

アポロニオス アルゴナウティカ 岡道男訳 講談社 より

 

言い伝えによれば,昔の人間の世のこと,キュレネという娘が

ペネイオスの沼地の傍で羊を飼っていた.処女のままの,

汚れなき臥所(ふしど)が彼女の気に入ったからだ.だが,アポロン

川のほとりで羊の番をする乙女を掠い(さらい),

ハイモニアから遠く離れた土地のニンフに,リビュアのミュルトシオン山の傍に棲む者たちに預けた.

そこで彼女はポイポス(アポロン)にアリスタイオスを生んだ.かれを

畑に富むハイモニア人はアグレウス(狩人)とも,ノミモス(牧人)とも呼んでいる.

神は乙女を愛し,その地で,長い生命を保つ

狩のニンフにした.生まれたばかりの息子は

ケイロンの洞穴に連れて行って育てさせた.

子供が成長したとき,女神ムーサたちはかれに

縁組をとりもった.そして,医療と予言の技を教え,

アティアのアタマンティオン平野で,

またけわしいオトリュスのあたりやアピグノス河の清流のほとりで彼女らが飼う

羊の番をさせた.

天からシリウスがミノスの島々を照りつけ,

長いあいだ住民がいかなる手立ても持たなかったとき,

かれらは遠矢の神(アポロン)の指示に従って,悪疫を防いでくれるアリスタイオスを呼び寄せた.彼は父神の命でプティアをあとにし,

リュカオンの血を引く,パッラシアの住民を集めて

ケオスに移り住んだ.

そして,雨を司どるゼウスに壮大な祭壇をしつらえ,

山中でかのシリウス星と,とりわけクロノスの御子ゼウスに

申し分ない贄(にえ)を捧げた.それゆえ,

四十日のあいだ,ゼウスから送られる季節風が大地の熱をさます.

そして今なおケオスでは神官が

シリウスの昇る前に贄の儀をとり行う.

このように,語り伝えられている.

 

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