スミレ 春を告げる花.日本では万葉集にも詠まれています.ではギリシャ神話では? かなり見つかりますが,ほとんどが後世付け加えたものらしい.古代ギリシャの話としては,スミレのベットで,蛇にハチミツを食べさせてもらった「イアモスの誕生」の話が見つかりました.

三寒四温の日々ですが,もう確実に春.

春を告げる花は数多く,各人各様に思い浮かべる花は違うかもしれませんが---

スミレを挙げる方がいれば,野山の草花が大好きな方でしょう.私は単純に梅,その後の桜と言ってしまう都会育ちですが.

その都会でも,山野草を愛でる方々はかなりいらして,近くのフラワーショップでは,スミレを並べてくれています.

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小さなポットの割に高額ですが,思い切って二つ買い求めました.

以前購入してあった株は,面倒見が悪くなった昨年,途切れさせてしまったので.何年間か元気で,ポット一杯に育っていたのですが--.

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スミレとアカネスミレの名前がついていました.

スミレは,日本人が古くから愛してきた植物.

万葉集にはスミレを詠んだ歌が四首.万葉集: 菫(すみれ)を詠んだ歌 .もっとも,当時は「菫を摘む」のは,主に食べるためだったようですが---.

しかし,斎藤茂吉

「赤人的な晴朗な調べの歌である----.本来すみれを摘むというのは,可憐な花を愛するためでなく,その他の若草と共に食用として摘んだものである.

しかし,ここは,直ぐ食用にしている野菜としてのすみれを連想せずに,第一には可憐なすみれの花の咲きつづく野を連想すべきであり---」(万葉秀歌)

としたのが,次のよく知られた歌.

春の野に,すみれ摘みにと,来し(こし)われそ,野を懐かしみ,一夜(ひとよ)寝にける 山部赤人 万葉集 第八巻 1424)

は特に有名.

私も好きな歌で,このブログで引用するのは3回目!

http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2017/12/19/002827

http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2017/02/17/024301

yachikusakusaki.hatenablog.com

 

それでは,昨日まで取りあげてきたギリシャ神話では,どのように扱われているのか?

と思って調べてみました.

 

花言葉のいくつかのサイト,及びこれを引用したと思われるサイトには,スミレが登場するような物語が,ギリシャ神話としてよく知られた場面を含めて,記載されていました.(例えば,花のギリシャ神話  Legend of the Violet | Herbe Rowe

しかし,そのうちの多くは,古代ギリシャのストーリーではなく,新しくつくられたものと考えてよさそう.Legend of the Violet | Herbe Rowe

新しい話の中には,例えば,「雌牛に変えられたイーオーが食べるための草として,ゼウスがスミレをつくり出した」といものもあります.しかし,古代ギリシャでスミレと言えば,薬草/毒草のニオイスミレである可能性が高い(後述).より近世の者が考え出した話である証拠?

 

われわれ一般人が知っているギリシャ神話の主流となっている(?),神統記(ヘーシオドス)やイーリアスホメーロス),さらには,良く引用される変身物語(オウィディウス)には,スミレはほとんど採り上げられていないようです.

ホメロース風讃歌(ホメーロス風讃歌 - Wikipedia)には,冥界に連れ去られる前のペルセポネー(後の冥界の女王)がニンフ達と摘む花の中にスミレの記述があるとのこと.PLANTS & FLOWERS OF GREEK MYTH 2

また,一般の方々には多分余り知られていない,私が知らないだけかもしれませんが,古代ギリシャの詩人ピンダロス(英語名Pindar)の詩にスミレが登場します.

この詩人は,オリンピックの祝勝歌で有名で,「2004年のアテネオリンピックでは表彰メダルの表に彼の祝勝歌が公式に採用され彫りこまれている」ピンダロス - Wikipediaそうです.日本でも研究書は多いようですが,専門家以外の日本人にはほとんど知られていない?

 

PLANTS & FLOWERS OF GREEK MYTH 2 EVADNE & IAMUS (Euadne & Iamos) - Arcadian Princess & Seer of Greek Mythology https://www.jstor.org/stable/4477161?seq=1#page_scan_tab_contents Iamus - Wikipedia Legend of the Violet | Herbe Rowe 

などに,物語のあらすじが.

頑張ってそのうちの一つを日本語化してみると(自信はありません).

 

アモスの誕生

アモスは,アポローンとニンフのエウアドネー(ポセイドーンの娘)の息子でしたが,生まれた時に母親から見捨てられてしまいます.彼女はイアモスをスミレのベッドに寝かせ,アルカディアギリシャの一地域)の荒れ野に置き去りにしました.イアモスはその地で蛇にハチミツを食べさせてもらいました.

ようやく通りかかった羊飼いに発見され,羊飼いは,彼をスミレ(ion)のベッドに因んで,アイモス(Imos)と名付けました.

Birth of Iamos. PLANTS & FLOWERS OF GREEK MYTH 2

Iamos was a son of Apollon and the nymph Euadne. He was abandoned by his mother at birth. She left him lying in the Arkadian wilds on a bed of violets where he was fed honey by serpents. Eventually he was discovered by passing shepherds who named him Iamos after the violet (ion) bed. (Source: Pindar)

エウアドネー - エウアドネーの概要 - Weblio辞書 の脚注から,この物語は,ピンダロス『オリュムピア祝勝歌』第6歌29行-49行に描かれているようです.

 

またPLANTS & FLOWERS OF GREEK MYTH 2では,

ここで採り上げられている植物はVioletとし,学名としてViola odorata の名をあげています.

このスミレは,日本では「ニオイスミレ」と呼ばれている種

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ニオイスミレ - Wikipedia

 

http://benesse.jp/kyouiku/201503/20150309-6.htmlで,

“(スミレは)山菜として,花の二杯酢,葉の和え物,浸し物,煮物,天ぷら,スミレ飯などがあります.

ただ,ニオイスミレの種と根には毒が含まれていて,非常に危険なので,食べるときは花と葉だけにしておきましょう”

と指摘された要注意植物.

 

ニオイスミレ - Wikipediaには,

種子や根茎には神経毒のビオリン等があり,嘔吐や神経マヒを発症することがある.反面,薬草として古来より活用されてきた.ヨーロッパでは咳止めや消炎剤,目薬として利用されている.古代ギリシアでは花に含まれる鎮静作用が知られており,怒りを鎮めたり就寝時に使用した.

アテネの周囲にはニオイスミレが群生していたため「ニオイスミレの都」と呼ばれていたという[マーガレット・B・フリーマン著 遠山茂樹訳『西洋中世ハーブ事典』、八坂書房]

 

古代ギリシャにゆかりのある,かなり重要な植物だったんですね.鑑賞用ではなく,薬として.

そして,これを知ると,上記の「アイモスの誕生」が,なかなか良い話,と思えてきました.