リコリス(ヒガンバナ属)の美しい園芸種が沢山開発されて,欧米で人気:昨日のブログで報告しました.
ヒガンバナはその中の一品種ラディアタとして.
http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2017/09/18/021723
園芸種はやや派手すぎると思われる方々も,スイセンやヒガンバナの仲間(ヒガンバナ亜科)の花たちが美しいことに異存はないのでは?
長い間,広く愛されている花も沢山あります.
幾つか集めてみました.
ヒガンバナ - Wikipedia 水仙(スイセン) ハマユウ - Wikipedia クンシラン属 - Wikipedia キツネノカミソリ - Wikipedia
ナツズイセン - Wikipedia スノーフレーク (ヒガンバナ科) - Wikipedia スイセン属 - Wikipedia アマリリス - Wikipedia タマスダレ - Wikipedia
これらの花々(ハマオモト属のハマユウ 〜 タマスダレ属のタマスダレ)は,皆,ヒガンバナ亜科(ラテン語直訳ではアマリリス亜科)に分類されています.
これらの植物は,皆,「有毒植物」!
実は,上に掲載した画像は,
「公益財団法人 日本中毒情報センター 保健師・薬剤師・看護師向け中毒情報
http://www.j-poison-ic.or.jp/ippan/M70211.pdf 」の記事中にある植物名を抜き出して画像を探し載せたもの.
ということは,
これらの花たちは,ヒガンバナと同じように猛毒?
いえいえ,「ヒガンバナと同じように」までは合っていますが---
その毒は「猛毒ではない」んです.
「重篤な中毒はまれで,成人が球根 1 個以下を摂取した場合,消化器系症状を生じる程度」とのこと.
http://www.j-poison-ic.or.jp/ippan/M70211.pdf 医薬品情報21 » 2009 » 1月 » 04
「ヒガンバナも含めて」「消化器症状を生じる程度」の毒性なんですね.
死には至らないものの,厚生労働省のサイトでは「悪心、嘔吐、下痢、流涎、発汗、頭痛、昏睡,低体温など」の症状が出る恐れが警告されています.
しかし,一番重そうに見える「昏睡」は可能性であってそのような症例は報告されていません.
犬の実験でも記載なしで,吐き気と嘔吐のみ.それも二時間半後には回復
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21055413.
他の文献も合わせて読んだ限りでは,「吐き気・嘔吐・下痢」が主症状ですね.
以前は「嘔吐剤」として用いられたこともあったそうです.
http://www.e-yakusou.com/sou/sou316.htm
「そうは言っても,ヒガンバナだけは---」と思われる方のために
もう少し専門的なデータを探し出してみました.「もう結構」と思われる方は,ここで読むのをストップして下さいね.
①食べたことが直接の原因で死に至ることはない.スイセンでもヒガンバナでも.
ヒガンバナ亜科の毒性の主成分は「リコリン」という物質とわかっています.
スイセンとヒガンバナ.主な毒性成分リコリンの量は,ほとんど変わりません.
http://www.city.fukuoka.lg.jp/data/open/cnt/3/25273/1/35-p089.pdf
食べて死に至ることがあるのでしょうか?
球根が100グラムあるとして ⇒球根1つで15ミリグラム=0.015グラムのリコリン.
実験に使ったマウスの半分を殺すリコリンの量(半数致死量)として,
「体重1キロあたり10.7グラム」とのデータがあるそうです.http://www.j-poison-ic.or.jp/ippan/M70211.pdf
言い換えれば
「体重1キロあたり10.7÷0.015(球根一つ分)=約710個の球根」
マウスと人間.体重は違いますが,どちらでも,とても食べきれない量の球根が死ぬためには必要!
「食べても,直接の原因となって死ぬことはない」と言い切れますね.
半数致死量のデータは信頼性がやや?と思いましたが,たとえ二桁まで違っていたとしても,結論は変わりません.
そして,他の中毒情報に次のような記載も
「ヒトでは殆どの場合、初期に嘔吐するため、消化器症状程度に止まる」 医薬品情報21 » 2009 » 1月 » 04
死に至った例がヨーロッパで.ただし,タマネギに混ざっていた球根を食べ,「気管、細気管支に吐瀉物を詰まらせて」亡くなったそうです. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21055413
②江戸時代から明治時代,食糧として利用していた地域がいくつもあった.「猛毒であれば,たとえ飢饉でも食べることはない」といえるでしょう.
ヒガンバナの民俗・文化誌-3 http://www5e.biglobe.ne.jp/~lycoris/higanbana-minzoku.bunka-3.html
1. 江戸時代後期の享和3年(1803)に小野蘭山が著した『本草綱目啓蒙』、天保8年(1837)の遠藤泰通著『救荒便覧』、天保14年(1843)小野識孝著『救荒本草啓蒙』、そして弘化4年(1847)の小野蘭山著『重修本草綱目啓蒙』に勢州粥見(三重県松坂市飯南町粥見)で食用すること、阿州一宇(徳島県美馬郡一宇)の山地の住人が葛粉を採る要領で球根からデンプンを集め水粉と呼んで食べることが記されている.
2. 牧野富太郎は昭和6年の論文に「土佐の国では明治年間頃、ところにより其球根を農家で食用していましたが、今日でも僻地の山間では、なおその風が存していると思います」と記し、さらに友人から聞いた話として、高知県長岡郡新改村(高知県美香市)の貧しい農家はこれを常食としていたと書いている。牧野自身も「明治10何年といふ頃、私は高岡郡鳥形山に採集にいったことがあったが、その山下の長者村字泉で一農家の傍らの水の落ちるところに其球根を搗き砕きて布袋に容れ晒してあったことを見受けたことがあった」と報告している。
3. 高橋道彦(1980)は高知県土佐山村中切(高知市土佐山中)には当時でも伝統的なヒガンバナの調理法を受け継いでいるご婦人がいることを報告してしている。(そして,水晒しによる毒抜きを経て)集めたデンプンに少量の小麦粉と砂糖・塩を添加して焼き上げたものを試食した高橋は、「ヒガンバナ特有の味と風味を持ち、代用食として充分に食することができた」と記している。
以上の様にしつこく書いても,「ヒガンバナ」の毒性と縁起に対する迷信はなくなることはないのでしょうね.残念ながら.
多くの方々が,そのような話を望んでいるのですから.信じたい話を信じる.根拠のない心霊スポットの話と同じ.(つい最近NHKでも心霊スポット特集を放映していました.皆作り事という.)
ヒガンバナについてのまとめサイトで,「毒?薬?食べ物?~彼岸花は実はすごい万能植物だった」と一見良心的な事実を報じているかに見える記事でも,
毒?薬?食べ物?~彼岸花は実はすごい万能植物だった - NAVER まとめ
毒性に関しては
「球根一つに15mgのリコリンが入っており、ネズミだと1500匹の致死量に相当するというのです」
と記載.一体どこから? 出典「知識の宝庫!目がテン!ライブラリー」だそうですが,
これだけは外せない記載事項なのでしょうか?十分な広告料を稼ぐためには?
それでも,心ある方が少しでも増えていって下さることを願います.そして,気分を害する方を気にすることなく,ヒガンバナをどこにでも飾れるようになって欲しいものです.
最後に:
直接の原因となって,死ぬことはないとはいえ,嘔吐・下痢は苦しいもの.
乳幼児や高齢の方なら,喉を詰まらせることもあるでしょう.
面白さ目当てで食べることは論外としても,ヒガンバナ亜科の植物は注意が必要です.
それは,近縁のネギ亜科の植物が世界中で食べられているからです.
特に日本では,山菜としてノビルなどのネギ属にも人気があるので要注意.球根や葉をネギ属の植物と間違えて食べてしまう方々が絶えることはありません.
http://www.j-poison-ic.or.jp/ippan/M70211.pdf 医薬品情報21 » 2009 » 1月 » 04 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21055413