ネムノキ 樹形も葉も花も,そして名前も美しい植物.ネムノキだけではなく,マメ科の植物の多くが,同じように夜に葉を閉じるそうです.「体内時計」が関与しているとか. ねぶ 合歓木 / 万葉集 昼は咲き、夜は恋ひ寝る、合歓木(ねぶ)の花、君のみ見めや、戯奴(わけ)さへに見よ  紀女郎(きのいらつめ)

ネムノキ自体は子供の頃から知っていましたが,花を見た記憶がありません.

植物にほとんど興味がなかったので,しかも夜咲く花なので,見のがしていたのでしょう.

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ネムノキとは - 育て方図鑑 | みんなの趣味の園芸 NHK出版

「ネムノキは樹高8mほどに育つ落葉高木です.枝は横に張り,夏には羽状複葉を広げて心地よい緑陰をつくります.葉は夕方になると閉じ,その姿が眠りにつくように見えるところからネムノキの名前がつきました.6月から7月に,枝先に淡紅色の長い雄しべをもつ花が20ほど集まって咲く姿は繊細でかわいいものですネムノキとは - 育て方図鑑 | みんなの趣味の園芸 NHK出版)」

樹形も葉も花も,そして名前も美しい植物.

夜,葉を閉じるのは就眠運動と呼ばれているそうですが,子供の頃不思議に思った記憶があります.沢山の画像がウェブ上で見ることができますが,一つだけお借りします.

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ネムノキの就眠運動 | パッカ 都井岬合同会社

ネムノキだけではなく,マメ科の植物の多くが,同じように夜に葉を閉じるそうです平塚市博物館).

シロツメクサ(クローバー)が葉を閉じるのは知っていましたが,多くのマメ科植物が同じなんですね.

でもネムノキだけがこの様な名前を付けられたのは,閉じた姿が美しいからでしょう.

 

ネムノキの漢字は中国名「合歓木」があてられます.(万葉集では「合歓木」と書いて「ねぶ」と読ませているようです)

「合歓」は男女が共寝すること,喜びを共にすることを表すそうですネムノキ・合歓木 - 語源由来辞典).日本語では「ねむ」と読まれる場合がほとんどですが,「ごうかん」と音読みされる場合も.合歓皮(ごうかんひ)は強壮,興奮,鎮静,鎮痛,駆虫,利尿薬作用をもつとされているとか伝統医薬データベース 合歓皮 生薬学術情報).

 

なぜ,夜に葉を閉じるのか?

「夜に放射冷却によって葉から大気中へ輻射熱が逃げるのを防ぐため」がダーウィンの仮説だそうです皿倉山ビジターセンター 博士の自然講座 森の不思議 第4話).

しかし,この様な「何故⇒理由」は証明しようにも方法がないように思います.植物にとっての利点と考えておけばよいのでしょうか.

一方,植物学者の方たちは,「どのように」閉じたり開いたりするのかを追求:

マメ科の植物の場合,葉の付け根の「葉枕(ようちん)」とよばれる部位の細胞が膨らんだり萎んだりすることで起こるとのことhttps://www.jstage.jst.go.jp/article/tigg/22/123/22_123_16/_pdf).そして,この様な膨潤・収縮運動を引き起こす覚醒物質と就眠物質が見つけられているそうですhttps://www.jstage.jst.go.jp/article/tigg/22/123/22_123_16/_pdf).

植物学にちょっと深入りしすぎましたが---.ついでにもう一つ.

就眠運動は,「植物の葉や花などが、昼夜の周期的明暗によって開閉などの運動反応を示すこと日本大百科全書ニッポニカ就眠運動(シュウミンウンドウ)とは - コトバン)」ですが,

「18 世紀には、フランスの科学者が、光の当たらない洞窟内に植物を持ち込んでも運動のリズムが数日間は残ることを発見し、この運動が生物固有の体内リズムでコントロールされていることが示された。これは、生物時計発見の端緒となった歴史的実験として知られるhttps://www.jstage.jst.go.jp/article/tigg/22/123/22_123_16/_pdf

もともとの植物のリズムが「体内時計」として内在していて,光の周期的な刺激がこのリズムの発現を調節している日本大百科全書ニッポニカ:就眠運動(シュウミンウンドウ)とは - コトバンということになりますね.

 

ネムノキは,かつて,ネムノキ科とされていたようですが現在はほぼそのままネムノキ亜科とされて,

マメ目 Fabales,マメ科 Fabaceae,ネムノキ亜科 Mimosoideae,ネムノキ属 Albizia,ネムノキ A. julibrissin.

しかし,更に最近になって,ネムノキ亜科は新たに「Caesalpinioideae(ジャケツイバラ亜科?)」に含まれる.との記載がFabaceae - Wikipedia).DNAのデータ解析に基づいた植物分類はまだまだ流動的なようです.

「Caesalpinioideae: 148 genera and ~4400 species. Pantropical. Caesalpinia, Senna, Mimosa, Acacia. Includes the former subfamily Mimosoideae (80 genera and ~3200 species; mostly tropical and warm temperate Asia and America).(Fabaceae - Wikipedia)」

 

ねぶ  合歓木 / 万葉集

昼は咲き、夜は恋ひ寝る、合歓木(ねぶ)の花、君のみ見めや、戯奴(わけ)さへに見よ  紀女郎(きのいらつめ)    (巻八 1461)

昼は咲き夜は恋ひ寝る合歓木の花君のみ見めや戯奴さへに見よ

 

折口信夫 万葉集

合歓の花は,昼は咲いて,夜は焦がれて寝る花です.あなた許りが焦がれて寝なさるわけではありません.わたしまでも,やはり焦がれています.

 

▽山田卓三 万葉植物つれづれ

ねぶの花と茅花(ちばな・つばな=チガヤ)を摘み,それぞれの歌を添えて大伴家持に送った歌の一つです.ネムノキは対生する小葉がが夜ぴったり合わさって閉じることから,中国では合歓(男女が共寝すること)木と言われています.このネムノキの性状を知った上でのやりとりです.返歌に「妹子(わぎもこ)が、形見の合歓木(ねむ)は、花のみに、咲きてけだしく、実にならじかも」とありますが,花の形はマメとは全く違うものの,マメ科特有の豆果をつけます.ネムの花は糸状で紅色の雄しべが放射状に突き出し,全体が傘上になって開きます.花は葉が閉じるころ咲き,翌日,朝日が昇る頃には閉花します.ネムノキの和名は「眠りの木」の意で葉が夜閉じること及び芽吹きが遅いことに由来しています.