「思いでぽろぽろ」 全編を彩るベニバナの花の美しさ!高畑勲監督作品の中で一番好きなアニメです.ベニバナによる紅染めはかつては高貴な人しか着ることを許されず,京都の西陣織のような高級な着物にだけ使用されました(紅花の歴史文化館) 紅(紅花)/ 万葉集 紅(くれなゐ)の,八(や)しほの衣(ころも),朝な朝な,馴(な)れはすれども,いやめづらしも 作者不詳

「ベニバナ(紅花)」と聞いて---

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仙台・宮城観光キャンペーン推進協議会公式サイト

初めに思い出すのは,スタジオジブリ作品「思いでぽろぽろ」.

高畑勲監督作品では,一番好きなアニメ.ジブリ作品では,多くの場合,出てくる女性に魅力を感じるのですが,「紅の豚」と「思いでぽろぽろ」は例外.農家の息子トシオの優しさや農業にかける思いの強さに惹かれました,そしてアニメ全編を彩るベニバナの花の美しさ!

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今年の5月4日朝日新聞デジタル

「おもいでぽろぽろ,四半世紀でロケ地激変 紅に花作り続く」と題した記事が.

digital.asahi.com作品のモデルになったのは山形市高瀬地区.トシオの運転する車で橋(下渡戸橋)をわたると峠道の先に広がるのがベニバナ畑.

しかし,当時約30軒あったベニバナ農家は,14軒に減り,生産は縮小の一途とのこと.

「それでも,高瀬地区はベニバナを作り続ける」と田中記者は書きます.

「思いでぽろぽろ」の制作に当たって高畑監督を案内した故井上市郎さんの長男清市さんの言葉:「当時の集落を完璧に再現していて、タイムカプセルのような作品」「力強く咲く紅花の美しさは言葉に出来ない。あの風景は、今も地区の自慢です」

7月の「山形紅花まつり」には,作品をきっかけに、紅花に興味を持った人が県内外から多く訪れるということです.

 

山形県県花はベニバナ

山形大学の「紅花の歴史文化館」紅花の歴史文化館トップページ:山形大学附属図書館は充実した資料をそろえています.興味のある方は是非訪れてみて下さい.

簡単な解説は「紅花豆知識紅花の歴史文化館: 紅花の豆知識 )」植物分類はこの資料とは現在異なっていますが⇒下記).

 

紅花の栽培の歴史について一部引用させていただきます.

紅花の原産地と日本への伝来

「原産地は不明ですが,

紅花の栽培はインドやエジプトなどで数千年前から行われていました。エジプトでは紀元前2500年のミイラの着衣から紅花の色素が認められ,その頃には既に紅花の利用も始まっていたようです。

中国では3世紀には既に栽培されており,伝来に関しては漢代に僧・張騫が中央アジアからもたらしたという伝承があります。東南アジアなどにもかなり早い時期に伝来していたようです。日本にはおそらく中国から,6世紀頃には伝来しています」( 紅花の歴史文化館: 紅花の豆知識

「日本への紅花の伝来は,中国の工人が染色技術とともに紅花の種を持ってきたのが始まりとも,推古天皇の時代に朝鮮半島から日本へやってきた僧・曇徴がもたらしたともいわれています。

平成元年に奈良県生駒郡藤ノ木古墳(6世紀)の石棺内にベニバナの花粉と顔料らしいものが発見されました。このため古くから日本に伝来していたことは分かったのですが,伝来の時期については現在も定かではありません」紅花の歴史文化館: 紅花の豆知識

 

紅花染め

「紅花の花には黄色と赤の二種類の色素があり,染めにもそれぞれを使った二種類の染めがあります。

黄染めは水溶性の色素を使用するため容易で,紅餅作りの時に生じる黄汁などから庶民の染め物としてよく利用されました。一方,紅染めはかつては高貴な人しか着ることを許されず,京都の西陣織のような高級な着物にだけ使用されました」( 紅花の歴史文化館: 紅花の豆知識

「紅染めは,一般には紅餅を使用します。

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紅餅から紅の色素を取り出し,布を染めるのですが,簡単にできる黄染めと異なり,紅染めにはいくつかのコツがあります。

一つは黄汁を抜くことで,この黄汁を抜かないと鮮やかな紅にならないといいます。このため紅餅をぬるま湯につけ,麻布などでよくしぼりしっかりと黄汁を抜きます。

次に色素を染め液に溶かします。ただの水では紅色素は溶けないため,灰汁などを加えて液をアルカリ性にして溶かします。

十分に色素が染め液に溶けてきたら,最後に酸性の液でこれを中和します。江戸時代の製法ではクエン酸を多く含む梅酢などを使用しました。特に烏梅(うばい)という完熟した梅の実を燻蒸した黒い玉が最も良い媒染剤として用いられたそうです」紅花の歴史文化館: 紅花の豆知識

 

紅花染めの体験ができる所も幾つかあるようで,ネットでもすぐ見つかります.例えば

紅花染のハンカチがきれいに染め上がりました! | 新着情報 | 染織工房わくわく舘

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また化学実験として行う方法を公開しているサイトも.らくらく化学実験_ベニバナ染め

「紅花の紅色・黄色と藍で大きく6色の染色が可能」だそうです.MUJIキャラバン

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MUJIキャラバン

 

ベニバナは,

キク目 Asterales,キク科 Asteraceae,アザミ亜科 Carduoideae,ベニバナ属 Carthamus,ベニバナ C. tinctorius

ベニバナ - Wikipedia Safflower - Wikipedia

赤い色素はカルタミンという物質.らくらく化学実験_ベニバナ染め

アザミやヤグルマギクと近縁の植物で,ベニバナ染色が化学染色に取って代わられた現在,主な用途は紅花油(サフラワー油)の原料.

 

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Asteraceae - Wikipedia キク科 - Wikipedia

 

万葉植物事典(山田卓三,中島信太郎著 北隆館)によれば,

万葉集で「くれない 紅,呉藍」がベニバナ(紅花)に該当.万葉集では植物そのものより,紅花のような色をさしていることが多い.「くれない」は呉の地方から入ってきた染色植物という意味の「くれ(呉)のあい(藍)からきている.

とのこと.

 

紅(くれない)紅花 / 万葉集

紅(くれなゐ)の,八(や)しほの衣(ころも),朝な朝な,馴(な)れはすれども,いやめづらしも  作者不詳 (巻十一 2623)

 紅の,八しほの衣,朝な朝な,馴れはすれども,いやめづらしも

 

折口信夫 万葉集

紅の色の深い着物ではないが,朝々毎に出会うので,段々慣れていくというものの,何とも思わなくなるか,というとそうではなく,益々あの人が可愛く,目立って来ることだ.