歴史の古い野菜『大根』
日本は大根の一大生産国にして一大消費国. 世界の生産量・消費量の9割が日本とのこと.
http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2017/01/24/001534
(東京新聞2017年1月22日.世界の統計データは,ネット上では見つかりませんでした)
そして世界レベルでも,また日本においても,とても古い野菜なんですね.
https://www.sakataseed.co.jp/product/search/code00925002.html ダイコン [大根] - みんなの花図鑑(掲載数:3,406件)
日本大百科全書ニッポニカ ダイコン(だいこん)とは - コトバンク
によれば:
発祥には諸説あるものの,一般にはカフカスからパレスチナ地帯原産と考えられ,エジプトでは紀元前2700~前2200年ころ、ピラミッド建造の労働者の食事にダイコンが供された記録があるとのこと.
発祥地から西へ伝播(でんぱ)したダイコンは、ヨーロッパでハツカダイコン、クロダイコン、小ダイコンなどに発達して栽培され,東に伝えられたダイコンは、中国の北部と南部に分かれて入り、著しく分化・発達しました.
さらに10世紀以前には日本に伝えられて世界でもっとも多くの品種を分化しました.
近年まで日本各地で栽培されたダイコンの品種は100~120ほどに上るそうです.
古事記における“おほね”(大根)
上文では,日本への渡来を「10世紀以前」と記しましたが,古事記(712年献上)に大根の記載があることはよく知られています.
大君オホサザキ(仁徳天皇)が大后(おおきさき)イハノヒメに向けて歌った歌(なお,同じ歌が日本書紀にもみられます).
つぎふね やましろめの
こくは持ち うちしおほね
ねじろの しろただむき
まかずけばこそ しらずともいはめ
重なり根這(ねば)う山の 山代の女(ひと)が
木の鍬で 耕し作った大根(おおね)
その白い根に似た 白い腕(かいな)を
抱く前ならば 知らぬとも言えようさ
“おおねの白い根に似た,白い腕” このような比喩を用いる古代人の何とおおらかなことか.そして,なまめかしく感じてしまうのは私だけでしょうか.
また,同じ詞が,“葉”の比喩としても用いられています.
つぎねふ やましろめの
こくは持ち うちしおほね
さわさわに ながいへせこそ
うちわたす やがはえなす
さいりまゐくれ
重なり根這う(ねばう)山の女(ひと)が
木の鍬を持ち 耕し作った大根(おおね)
その葉のごとざわざわと お前が言うからこそ
長くのびた 桑の枝のごとくに
のび渡り来たことよ
なお,これらの歌が歌われた場面のあらすじを以下に記載しましたので,ご参照ください.
古事記はとても面白い!
三浦佑之・口語訳古事記(文藝春秋)からまとめたあらすじは次の通りです;
政(まつりごと)は巧みでも,女の扱いは今ひとつの大君オホサザキ(仁徳天皇).
大后(おおきさき)イハノヒメの嫉みで逃げ帰った吉備のクロヒメを追い,吉備まで行き着きます.
喜んだクロヒメは,熱々の汁を煮るために,山のほとりにはえている菜を摘んでいました.
大君はおとめのそばに来て歌を歌います.
やまがたに まけるあをなも
きびひとと ともにしつめば
たのしくもあるか
山の畠に 蒔いた青菜も
吉備の人と ともに摘むのは
楽しいことよ
クロヒメを吉備に残し,難波の都に帰った大君オホササギ(仁徳天皇)ですが,相変わらず女(おなご)には目がありません.
大后(おおきさき)イハノヒメが宴の酒を盛るミツナガシワの葉を採りに木の国へ出かけたすきにヤタノワキイラツメとねんごろになってしまいます.これを知った太后は,難波の宮に戻ろうとはせず,山代(やましろ)へ行ってしまいます.
大君は,仕える舎人,さらに丸遡(わに)の臣クチコを遣わします.
クチコが大君から伝えられて通りに,思いを伝えた歌.
つぎふね やましろめの
こくは持ち うちしおほね
ねじろの しろただむき
まかずけばこそ しらずともいはめ
重なり根這(ねば)う山の 山代の女(ひと)が
木の鍬で 耕し作った大根(おおね)
その白い根に似た 白い腕(かいな)を
抱く前ならば 知らぬとも言えようさ
歌を歌ったとき,雨が降っていましたが,クチコの臣はその雨を避けようともしませんでした.このクチコの臣の妹クチヒメが太后の側仕え(そばづかえ)として仕えていましたが,雨の中の兄を哀れんで歌を歌います.
それを聞いた太后も哀れに思い,クチコの臣の歌を聞くだけ聞いたのですが,心を変えるまでには至りませんでした.
クチコの臣,クチヒメ,そして館の主ヌリノミは,話し合い,大君と太后をじかに会わせるしかないとし,策略を巡らします.
クチコの臣が大君の元に戻って,こう言いました.
「太后のお出掛けになったわけはと言いますとヌリノミの家で飼っている虫で,ひとたびは這う虫となり,ひとたびは殻に籠もる虫となり,ひとたびは飛ぶ鳥となり,三たびも姿を変えるあやしい虫がおります.太后はその虫を見ようとお出ましになっているだけでございます.そのほかに,大君にたてつく心などございません」
「それがまことであるならば,あやしい虫にちがいない.われも,まずはその虫を見てみたいものよ」
大君は,虫を見ようと太后イハノヒメのいます殿の戸口に行って歌を歌いました.
つぎねふ やましろめの
こくは持ち うちしおほね
さわさわに ながいへせこそ
うちわたす やがはえなす
さいりまゐくれ
重なり根這う(ねばう)山の女(ひと)が
木の鍬を持ち 耕し作った大根(おおね)
その葉のごとざわざわと お前が言うからこそ
長くのびた 桑の枝のごとくに
のび渡り来たことよ
こうしてお二人は仲直りしました.