雷を詠んだ短歌 暑くなると覚悟していたところ,午後から激しい雷雨.雷を表す日本語としては,古くは「いかずち」もしくは「なるかみ」が一般的だったようです. 雷神(なるかみ)の少し響(とよ)みてさし曇り雨も降らぬか君を留めむ 柿本人麻呂  逢ふことは雲居はるかに鳴神(なるかみ)の音に聞きつつ恋ひわたるかな 紀貫之  鳴神(なるかみ)の鳴らす八鼓(やつつみ)ことごとく敲(たた)きやぶりて雨晴れにけり 正岡子規  岩根ふみ天路(あまぢ)をのぼる脚底ゆいかづちぐもの湧き巻きのぼる 斎藤茂吉

大暑のほぼ中日の今日8月1日.

昨日までと同様,暑くなると覚悟していたところ,午後から激しい雷雨.東京は正午頃よりとのことでしたが,

https://tenki.jp/forecaster/deskpart/2023/08/01/24498.html

鎌倉は午後2時過ぎから1時間以上,稲妻と大雨に見舞われました.

 

8月1日は関東各地で雷雨となった.

都心では26日ぶりのまとまった雨で,午前中に33.2度まで上がった気温も午後は22〜23度台まで下がり,9日ぶりに猛暑日を逃れた」(https://www.tokyo-np.co.jp/article/267152 

とのこと.

 

漢字「雷」は

角川字源によれば

「雨と、音符畾ライ|ルイ(田は省略形)とから成る.『かみなり』の意を表す意味」です.

 

一方,

「雷」を表す日本語としては,

日本国語大辞典によれば,

古くは「いかずち」もしくは「なるかみ」が一般的だったようです.

辞典では「いかずち」「なるかみ」ともに漢字として「雷」があてられていますが,他の表記法も様々あります.

日本国語大辞典の語誌によれば

「音の側面を強調するナルカミ・ハタタガミや光の側面のイナヅマ・イナビカリ,あるいは落雷を表わすカムトケなどがあり,イカヅチは神格化された雷の総称として,音や光の区別なく用いられた.やがてナルカミ,さらにはカミナリが雷の総称として用いられるようになる.」

とのこと.

「かみなり」は11世紀以降の呼び名で,一般的に用いられるようになったのはさらに後のことかと思われます.

 

 

いかずち いかづち【雷】(「いか(厳)つ(=の)ち(霊)」の意)

日本国語大辞典

①魔物.たけだけしく恐ろしいもの. *書紀(720)神代上(水戸本訓)「上に八色やくさの雷公イカツチ有り」

②かみなり.かみ.なるかみ.かむとけ. *仏足石歌(753頃)「伊加豆知イカヅチの 光の如き これの身は」 *万葉(8C後)三・二三五「大君は神にしませば天雲の雷いかづちの上にいほりせるかも 右或本云〈略〉伊加土イカづち山に宮しきいます」 *枕(10C終)一五三「いかづちは名のみにもあらず,いみじうおそろし」

語誌

⑴本来,恐ろしい神の意で,①の記紀の神話に見える例は,鬼や蛇のようなものと考えられていたことを示す.また,②の仏足石歌の例は「是身無常,念々不住如㆓電光㆒」など仏典によるもので,生命の短いことのたとえに用いられている.一方,「いかづち」を名とする「建御雷タケミカヅチ」 「賀茂別雷カモノワケイカヅチ」などは雷神か.

⑵雷に関する語には,音の側面を強調するナルカミ・ハタタガミや光の側面のイナヅマ・イナビカリ,あるいは落雷を表わすカムトケなどがあり,イカヅチは神格化された雷の総称として,音や光の区別なく用いられた.やがてナルカミ,さらにはカミナリが雷の総称として用いられるようになる.

 

なる‐かみ【鳴神・雷】

日本国語大辞典

一かみなり.なるいかずち.いかずち.らい.《季・夏》

*万葉(8C後)一一・二五一三 「雷神なるかみのしましとよもしさし曇り雨も降らぬか君をとどめむ」  *太平記(14C後)一〇 「太刀を打振て,鳴雷ナルカミの落懸る様に,大手をはだけて追ける間」

 

かみ‐なり【雷】

日本国語大辞典

一〘名〙 (「神鳴り」の意)

①電気を帯びた雲と雲との間,あるいは,雲と地表との間に起こる放電現象.また,それに伴ってごろごろととどろく大音響.雷鳴.強い上昇気流のある所などに発生する.いかずち.《季・夏》

狭衣物語(1069−77頃か)三 「げに,にはかに風あらあらしく吹て,空の気色も,『いかなるぞ』と見えわたるに,神なりの,二度ふたたびばかり,いと高く鳴りて」

②雷神.かみなりさま.雲の上におり,虎の皮のふんどしをしめ,連鼓を背負ってこれを打ち鳴らす神で,人間のへそを好み,へそを出していると取りに来ると言い伝えられている.なるかみ. *虎明本狂言・神鳴(室町末−近世初)「私も随分いがくを仕たれ共,今までかみなり殿のれうじのいたしやうをならはなんで御ざる」

③(雷鳴がやかましいところから) がみがみと頭ごなしにどなりつけ,叱り責めること.また,そのような口

 

 

雷(いかづち/らい)鳴神(なるかみ)を詠んだ短歌

(古今短歌歳時記より)

 

雷神(なるかみ)の少し響(とよ)みてさし曇り雨も降らぬか君を留めむ  柿本人麻呂 万葉集三・二三五

(雷が少しばかり鳴って、曇ってきて、雨でも降らないかしら。あなたさまを引きとめたいの。 楽しい万葉集

 

逢ふことは雲居はるかに鳴神(なるかみ)の音に聞きつつ恋ひわたるかな  紀貫之 古今集

 

鳴神(なるかみ)の鳴らす八鼓(やつつみ)ことごとく敲(たた)きやぶりて雨晴れにけり  正岡子規 子規歌集

 

虻は飛ぶ,遠いかづちの音ひびく真昼の窓の凌霄花(のうぜんかづら)  佐佐木信綱 新月

 

岩根ふみ天路(あまぢ)をのぼる脚底ゆいかづちぐもの湧き巻きのぼる  斎藤茂吉 赤光

 

遠天(おんてん)にかすかに雷(らい)の鳴るゆふべおそらくわれはひとり死ぬらん  吉井勇 天彦

 

もろこしのそよぎすずしきくれ近みいかづちをふくむ雲のあらわれ  加藤克巳 雲の六月

 

うち敷きて藺草(いぐさ)刈り干す野のたひら時のたひらを霹靂神(はたたがみ)ゆく  安永蕗子 藍月

 

使者の中に死者の時間は流れをり落雷の火は宇宙(そら)より垂るる  新井貞子 生命祭

 

わたくしの想ひは象(かたち)なさぬまま遠ざかり行く秋のいかづち  来嶋靖生 雷