「すべての古代ギリシャ・ローマの神々の中で最も広く尊敬され,影響力をもった一柱」(ブリタニカ)とされるアポローンは,予言と神託,音楽,歌と詩,弓術,癒し,疫病と病気,若者の保護など多様な役割を司るオリンポスの神.
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音楽の神としてのアポローンのシンボルは竪琴で,ムーサイ(ミューズ)とともに曲を奏でる場面もしばしば描写されます.
またよく知られた物語に,サキュロスのマルシュアースとの音楽合戦があり,アポローンのよく知られた12の神話の5として紹介します.
MARSYAS - Satyr of Greek Mythology
この逸話を紹介しているギリシャローマ神話原典は数多くあるようですが,その内の二つを以下に.
1. 偽アポロドーロス ビブリオテーケー
アポローンはまたオリュムポスの子マルシュアースを殺した.彼はアテーナーが顔を醜くすると言うので投げ棄てた笛をみつけて,アポローンと音楽上の争いをしたからである.
勝者が敗者を思うがまま処分するという条件に同意した後,勝負が行われるやアポローンは竪琴を逆にして加わり,マルシュアースに同じようにすることを命じた.
彼にはできなかったので,アポローンが勝者と判定された.
彼はマルシュアースを一本の高い松の木に吊して,その皮を剥いで殺した.
2 偽ヒュギーヌス 神話集Fabulae
(ヒュギーヌス ギリシャ神話集 松田 治・青山照男訳 講談社学術文庫)
アテーナーは初めて鹿の骨から笛を作り,神々の宴にいって奏でた,といわれる.へーレーとアプロディーテーは,灰色の目をして頬をふくらませているアテーナーをあざ笑った.演奏中にひどい形相になり,あざけられたアテーナーはイーデー山の森の泉におもむいた.そこで笛を吹き水に映るわが姿をみて,嘲笑されるのも当然であることを知った.そのため,笛をその場に投げ捨て,誰であれ笛を拾い上げた者はきびしい罰を受けよ,と呪った.
この笛をアイアグロスの子,サキュロス(山野の精)のひとり,羊飼いマルシュアースがみつけ,熱心に稽古して,日ごとにより甘美な音色を出すようになり,ついにアポローンに対し,競技で竪琴を弾くよう挑戦するに至った.競技の場にアポローンがやってくると,彼は学芸女神(ムーサ)たちを審判にした.
マルシュアースが勝利者として,いままさに立ち去ろうとしたとき,アポローンは竪琴を上下逆さまにして同じ旋律を奏でた.これはマルシュアースが笛でなし得ないところであった.かくして,アポローンは敗れたマルシュアースを木に縛りつけ,一人のスキュティア人に引き渡して,彼の手足の皮を引きはがさせた.残った死体は,埋葬のため,(マルシュアースの)弟子のオリュンポスに引き渡した.マルシュアース川は彼の血からその名を得ている.