長期化を余儀なくされる新型ウイルスとの闘い.私たちをどのような戦略で立ち向かえば良いのか.その方策を探ります.
http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2020/05/15/000500
矢島「日本経済の体力にとっても,今,ギリギリの状況だと言えると思います」
押谷「経済的な活動を戻していくにあたって“これだけ守っていればいい”というようなガイドラインは存在しません」「解除の方法というのは,流行が拡散していくのを抑え込むよりも,はるかに難しい判断を迫られる.部分解除しても,ある程度,感染は起こります.ゼロリスクはないウイルスなので.じゃあ,それをどうやって判断するのか.誰が判断するのか」
新型コロナウイルス 出口戦略は(2)
5月10日(日) 午後9:00~午後10:00
5月16日(土) 午前10:00~午前11:10
医療体制を崩壊させないために,対策チームが国や自治体に提言してきたのが,人と人との接触の8割削減でした.
-----中略
緊急事態体制下で,この目標は達成されたのか?
対策チームに民間の企業が加わり,人と人との接触がどれだけ減ったのか,具体的に解析しました.
携帯電話のビッグデータを独自の数式に当てはめます.
一定のエリアでの人がどれだけ減ったのかを示す値.そして一人が他人との接触をどれだけ減らしたのかを示す値.
二つをかけ合わせたものに相当する値を評価しました.
渋谷駅の周辺半径1km圏内.
10代20代同士の接触頻度は8割近く減少(-78%).
しかし,30代どうしの接触頻度は,3割程度の減少(-36%)にとどまっていました.
さらに,首都圏の東京との間における人の移動の実態も,初めてその詳細が分かりました.東京に隣接する3県では,3割から4割しか減少していなかったのです.
神奈川-41%,千葉-40%,埼玉-35%.
中村一翔(ALBERT)「まだテレワークの普及が十分に行き届いていない印象を受けています.会社の存続がかかっているので,業態によってはテレワークの実現は余り現実的ではないケースもあると思うので,削減幅が限定的だったのではないかというふうに考えています」
対策チームで数理モデルを使ったデータ分析を担う北海道大学大学院の西浦博教授です.
(映像)テレビ会議システムでの検討会
西浦教授「社会経済活動再開のプロセスを評価するシミュレーションの背景にあるメカニズムについて検討しましょう」
この日は,対策チームのメンバーと出口戦略の参考になるシナリオの検証を行いました.
西浦さんたちが,一定の条件のもとでシミュレーションしたある地域の患者数の推移を示す簡易モデルです.
(映像)グラフ
5月いっぱいで,自粛前の生活に戻すと,再び増加.およそ一ヶ月後には新規患者数が4月のピーク時を超えてしまいます.
しかし,5月末まで,現状の対策を続け,その後は集団感染が起こりやすい環境での人との接触を回避し,二次感染を自粛前の半分に減らせば,低い水準を維持できるとしています.
西浦教授「この一年間,しばらくこの感染症とつきあわないといけないので,一人一人,工夫を積み重ねて提案をしてデザインされていく状況,そういう工夫の積み重ねを皆さんとやっていければなと思っています」
対策チームは,国や自治体が出口戦略を決めるためのデータの提供も担っています.
西浦教授が喫緊の課題と考えているのが,子どもについてのデータの分析です.
西浦教授「流行が始まって,本当に学校が開いていた時期はないんです.ずっと閉じちゃってるんですよ.開いたときに,リスクとしてどれぐらいあるかを定量的に知るのがすごく難しい設定条件です」
海外の論文では,子どもが重症化する可能性は少ないものの,大人と同様の感染リスクがあると示しています.
西浦教授は,どのようなデータを示せばよいのか,模索を続けています.
西浦教授「“教育がない状態が続いてしまうというリスク”と,
“低いながらも感染して一定のレベルで重症化してしまうリスク”を
天秤にかけた上で,再開を判断してもらわなければいけないのですが,
私たち疫学のデータを扱っているものにできることは,そういう点のベースになるエビデンスをためるところまでだと思っています」
「ここからは,専門家会議副座長尾身茂さんからもお話を伺います」
----中略
「-------都内の患者数減ってきていると思うんですけど,30人なのか,20人なのか,なにか,判定の根拠っていうものはあるんでしょうか?」
尾身「いろんな事考えますけど,そもそも,この緊急事態宣言を出したときの理由が,オーバーシュートを一度さげて,医療の崩壊をさげて,クラスターの封じ込めができる,クラスター対策ができるレベルまで,下げるということが,大きな理由でしたので,そういうことも考慮して,最終的な目安を決めていく.ただ,一つの目安だけで決めることはありませんので,いろんなことを総合的に,判断して決めたいと思っております」
続く
付録
1.
緊急事態宣言,解除目安は「拡大前の水準」 10万人当たり0.5人―専門家会議
時事ドットコムニュース 2020年05月14日22時38分
緊急事態宣言、解除目安は「拡大前の水準」 10万人当たり0.5人―専門家会議:時事ドットコム
新型コロナウイルス対策を議論する政府の専門家会議(座長・脇田隆字国立感染症研究所長)は14日,緊急事態宣言解除の目安とした感染者数について「東京で言えば,感染拡大が生じる前の3月上・中旬ごろの水準」に該当することを明らかにした.当時はクラスター(感染者集団)対策などが十分実施できていたといい,同日公表した提言に盛り込んだ.
感染状況で全国を3区分することも提言し,宣言解除の39県は3区分で感染リスクが最も低い「感染観察」地域に入った.
政府は宣言解除時の感染状況について「直近1週間の10万人当たりの感染者数が0.5人以下」とした.この水準なら,地域でクラスター感染を追跡することで二次感染の拡大を防げるという.同会議は直近1週間の新規感染者数が,その前の1週間を下回ることも目安にした.他には,医療提供体制が逼迫(ひっぱく)していないことや,感染者数の再拡大に備えたPCR検査体制の確立も条件に求めた.
東京新聞:<新型コロナ>緊急事態39県解除 特定警戒8都道府県 21日検討:政治(TOKYO Web)
14日夜に記者会見した同会議の尾身茂・副座長は「複数の国では対策緩和後,すぐにクラスターが発生した.宣言解除後もマスク着用や手洗いの徹底,『3密』回避が重要だ」と強調した.
専門家会議は,各都道府県で感染状況に応じた対策が必要として,現行の「特定警戒」に「感染拡大注意」と「感染観察」を加え3区分することも提言.
「感染者、着実に減少傾向」…専門家会議が全国を3区分し対策提言 : 政治 : ニュース : 読売新聞オンライン
「特定警戒」では,人と人との接触の8割削減を引き続き目指し,イベントやライブハウス使用などの自粛を続ける.公園や図書館などは感染防止策があれば開放もあり得るとした.
「感染拡大注意」は,新規感染者数が「特定警戒」の半分程度の地域とした.マスク着用などの「新しい生活様式」を徹底し,都道府県をまたぐ不要不急の移動などを避けるよう要請.
「感染観察」は新規感染者が一定程度確認されるが,「感染拡大注意」に当たらない地域と定義.「感染観察」地域間の移動や参加者100人以下の小規模イベント開催も可能だが「身体的距離の確保などの基本的な対策を講じることが前提」とした.
【動画】再度「宣言」なら感染者少ないうちに 専門家会議の「総意」 | nippon.com
2.「緊急事態」解除,数値目標で政府と専門家に隔たり 重症患者減り医療体制は余裕も
毎日新聞2020年5月14日 21時52分(最終更新 5月14日 23時31分)
新型コロナウイルスの感染拡大を受け全国に拡大した「緊急事態宣言」が39県で解除されたが,解除の目安となる新規感染者数の数値目標を巡っては,政府と専門家との考えに隔たりがあった.
一方,もう一つの目安である医療提供体制では,人工呼吸器などを使う重症患者が減り,病床にも空きが増えるなど余裕が出てきたことが解除を後押しした.
14日,新たに17人の新型コロナ感染者が確認された愛媛県.確認されたのは松山市の病院で,13日夕までに職員2人の感染も確認され,クラスター(集団感染)とみられる.緊急事態宣言の解除を巡り,政府専門家会議が示した目安は「直近1週間の新規感染者数が人口10万人あたり0.5人未満程度」.「17人」はこの目安を超える.
14日の政府の基本的対処方針等諮問委員会でも,緊急事態宣言の対象地域から愛媛県を外すかどうかを巡って議論が起きた.中村時広知事は警戒レベルを上げたまま対応すると表明し,感染経路も追えている.こうした点から解除は妥当との判断に至った.
富山県や石川県でも「0.5人未満」の目安を上回るものの,感染経路を確認できている点などを考慮された.
専門家会議が示した「0.5人未満程度」という目安は,3月前半の時点でクラスター対策が機能していた東京都の感染状況を参考に導き出した.
ただ,目安を作る際,政府と専門家の考えには隔たりがあった.医療提供体制や保健行政のキャパシティーは地域によって異なる.大都市と地方では医療機関の数も違う.このため「数値による全国一律の線引きは難しい」という意見が専門家の大勢を占めた.
それでも政府は宣言解除の際の数値基準にこだわった.一部の専門家が「直近2週間の新規感染者数が10万人あたり0.2人未満」という目安を示しても,政府側は「直近2週間で2人未満」とするなど,双方の間で綱引きがあった.
結局,政府側が「直近2週間で1人未満」と譲歩し「直近1週間で0.5人未満」に落ち着く.
ある専門家は「感染動向が5月末まで判然としない大都市に配慮し,直近の1週間で見ることにこだわったのだろう」とみる.
政府の基本的対処方針は宣言の解除について,直近1週間の累積報告数が10万人あたり1人程度以下の場合でも減少傾向を確認するなどして「総合的に判断する」としており,なるべく早く全都道府県で宣言を解除したい思惑も浮かび上がる.
専門家会議は宣言の解除について,新規感染者数のほか,直近1週間の報告数がその前の週の報告数を下回っていることや重症者が減少傾向であること,検査システムが整っていることなどを総合的に判断すべきだとしている.
今後も,再流行のリスクがある.
専門家会議は宣言はできるだけ避けるべきだとしつつ,再流行した際の再指定の考え方も示した.いずれも直近1週間で
▽人口10万人あたりの累積感染者数▽累積感染者数が倍になるのに要する期間
▽感染経路不明の割合の推移――などを踏まえると強調.
政府には,最初の緊急事態宣言が出された時より「迅速な指定」を求め,「数値のみによる一律の判断は避ける必要がある」とくぎを刺している.【金秀蓮,原田啓之,松本晃】
感染者減,病床に余裕も
多くの自治体で緊急事態宣言が解除されたのは,新型コロナウイルス感染症の重症患者が減り,自治体が確保している病床など医療提供体制に余裕が出てきたことも背景にある.
「これ以上重症患者が増えたら,救急患者の受け入れを制限しなければならなかった」.岐阜市民病院で新型コロナ対策本部長代理を務める篠田邦大医師はこう振り返る.
4月16日に「特定警戒都道府県」に指定された岐阜県の同病院では,新型コロナ患者の入院に備えて3月中に専用の病床を確保した.
院内感染を防ぎ通常の診療も維持したが,4月中~下旬には入院患者数がピークを迎え,重症患者もいたため「ギリギリだった」(篠田医師).大型連休中からは入院患者の多くが退院し,13日には2人にまで減った.太田宗一郎院長は「感染者が減ってホッとしている.今後は通常体制に戻しつつ,いつでも再流行に対応できるよう長期戦に備えなければいけない」と気を引き締めた.
新型コロナの入院患者数は減少している.
政府専門家会議の提言によると,全国の入院患者は4月28日の5627人から5月7日には4449人に減少.病床は1日時点で約1万6000床が確保されており,専門家会議は「患者数に対して十分な病床数だ」と評価した.
専門家会議は緊急事態宣言の解除に向け,重症患者数も重視した.重症患者の多くは人工呼吸器や人工心肺装置「ECMO(エクモ)」を使用し1カ月程度の長期入院が必要で,医療体制が逼迫(ひっぱく)する要因となる.
提言では「3月下旬以降に起こったような感染者数の拡大が生じても医療崩壊を生じさせない体制の確保が不可欠」とし,「重症者数が減少傾向で,医療提供体制が逼迫していないこと」を解除の基準として示した.
重症者は4月28日に全国で381人いたが,5月7日には341人に減った.宣言が解除された茨城県は13日時点で2人で,重症患者用の病床の稼働率は約7%.県は「感染が制御できている状態」と評価する.福岡県も4月28日の21人から,5月7日には13人におよそ半減した.
ただ宣言が解除された自治体でも,再流行する可能性は拭いきれない.
専門家会議は,再流行に備えて病床や人工呼吸器の稼働状況を迅速に把握するシステムの構築や,感染防護具の確保を求めている.
国際医療福祉大の松本哲哉教授(感染症学)は「宣言が解除された自治体の医療機関では少しずつ余裕が出てきているので,解除のタイミングは妥当だろう.ただ,院内に感染者が入るリスクはあるので,検査体制の強化は必要だ.再流行に備えて一般の病床まで空けておくことは病院の経営を圧迫するので,政府や自治体による支援が欠かせない」と話す.【小川祐希,御園生枝里】