感染拡大の阻止と,社会経済活動の両立をどう図るのか.今問われているのは,出口戦略です.
しかし,自治体と政府の間で,判断基準などを巡って,混乱が続いています.
世界の国々も,出口戦略を試行錯誤しています.
中国は,国家が個人のデータを掌握し,管理することで,社会活動を再開させました.
オランダは,独自に子どもの感染傾向を分析.学校を優先的に再開することを決めました.
オーストリアは,政府が具体的な道筋を示し,段階的な制限の緩和を試みています.
長期化を余儀なくされる新型ウイルスとの闘い.私たちをどのような戦略で立ち向かえば良いのか.その方策を探ります.
新型コロナウイルス 出口戦略は(1)
「新型コロナウイルス 出口戦略は」 - NHKスペシャル - NHK
5月10日(日) 午後9:00~午後10:00
5月16日(土) 午前10:00~午前11:10
WHOシニアアドバイザー 進藤奈那子
国際部デスク 虫明英樹,アナウンサー 合原明子
「感染の拡大を抑えながら,どう社会・経済活動を再開すれば良いのか.今,まさに世界各国が,いわゆる出口戦略を模索しているわけですが,何が最適な答えなのか,見極めるのは大変難しく,国や地域によっても,事情は大きく異なります.
今日は感染症対策,経済,そして政治の専門家とともに考えていきます」
「4月7日に緊急事態宣言が行われてきてから,一ヶ月余り.今月7日には新規感染者が100人を切り,今はここです.
緊急事態制限が更に延長されたことで,待ったなしの状況に追い込まれているのが,経済です.
企業の倒産はすでに125件にのぼり,失業者数は,年末までに100万人増えるという予測(ニッセイ基礎研究所)もあります」
「明確な出口戦略が見通せない中,比較的体力があるとされる大企業も先行きの見えない深刻な事態に陥っています」
(映像)羽田空港;閑散としている中,「感染を疑われる方は,ご搭乗をお断りすることがあります」のアナウンス.
— 緊急事態宣言の延長で,今,羽田空港では,重苦しい空気が漂っています.
空港内の一画で,ANAの社員が手作りしていたのは,入手が困難になったフェイスシールド.
-----中略
国際線は全ての路線で運休・減便.
ANAは国内線55路線から6路線に.一ヶ月で1000億円の収入が失われたと見られている.
片野坂ANAホールディング社長「最初は,収束は5月末と一回置いたんですよ.----次は8月末.航空会社にとっては,7月8月のお盆はコロナが収まっていないとかなり悲観的に見ている見方なんです.
収束がなかなか見えていない中で,航空需要についても予想が立たなわけですね」
-----中略
どう耐えしのぐのか.ANAは必死の模索を続けています.
-----中略
一時的な休業の対象は,当初6400人でしたが,今月末にはグループ全体の9割にあたる4万2000人にまで拡大します.
-----中略
片野坂ANAホールディング社長「国際線を見ていただければ,ネットワークは世界中にありますが,やはり感染者数とか各国の体制にばらつきがあると思いますので,いきなり全世界同時に,国内同時にという復活はないだろう.
しかし,こういう非常に厳しい環境の中で,社員が一生懸命頑張っている.このコロナの危機において,自分たちの足で立っていける生き残っていく覚悟でいます」
「まず,経済の視点から,矢島康英さんにうかがいます.
矢島さん,日本では緊急事態宣言によって,人の動きが大きく制限される中,人や物が動くことで成り立っている航空業界は,特にダメージが大きいと思うんですが,この影響,一体どこまで広がっているんでしょう」
矢島「人の移動が止まった航空業界は特にダメージが大きいと思うんですが,自粛や休業要請を強く受けた企業は,足元の売り上げが,8割から9割減という,見たこともないような事態に陥っています.
5月末に緊急事態宣言解除を前提に,民間エコノミストが出しているGDPの予測ですけれど,4-6月期で前よりマイナス20〜30%,今まで一番大きなマイナスはリーマンショックの時の17.8%でしたが,それをはるかに超える,戦後最大のマイナスを予測しています.
経済で足元に甚大なダメージが出ていると思います.
これ以上の延長というのは,倒産や失業が急増するということが避けられない状況になってますので,日本経済の体力にとっても,今,ギリギリの状況だと言えると思います」
「そして新型ウイルスの問題ですけれど,日本の状況がかりに落ち着いたとしても,世界の感染状況次第では,引き続き経済へのダメージがあると思います.
企業自体は,出口戦略をどう考えれば良いのでしょうか」
矢島「今,企業にとって悩ましい問題は---.先々悪いことが予想されていても,その時期や程度が予想できれば,企業っていうのは前倒しで対応できるんですね.
しかし,今回の不況というのは,自分の製品を安く作って需要を掘り起こそうにも,コロナの収束をやってる限りにおいては,経済活動をするなという風に言われてますから,何もできない状況に陥ってます.
今,各国・日本の出口の議論では,企業や家計が,先をある程度イメージできるということが,必要条件になると思います.時期であったり,その時に自分たちがどういう範囲で経済活動ができるのか,具体的な数値やロードマップ,これが確実に必要になってくると思います」
「企業の道しるべとなるようなものが必要だということですね.
そうした,社会・経済活動を再開していくためにも感染拡大の収束が重要です.
日本は検査態勢などが不十分な中,中国からのウイルスの第一波をクラスター対策などで押さえ込みましたが,その後,欧米などからの帰国者によるものとみられます第二波が拡大.
医療現場が一気に逼迫したため,緊急事態宣言がだされ,接触の8割削減などを打ち出しました.その効果が出ていると,専門家は分析しています」
「ここから先,世界中がこれまで経験したことがない,出口戦略が求めらる中,日本でも現場での模索が続いています」
国の対策チームで,国内の感染状況の分析を行ってきた,東北大学大学院の押谷仁教授です.
今後どのように社会・経済活動を再開させていくのか.
今月1日,経済産業省の産業構造審議会の部会で,議論が交わされました.
(映像)テレビ会議システムで話をする押谷教授
押谷「これから,経済的な活動を戻していくにあたってもですね,例えば,飲食店に,“これだけ守っていればいい”というようなガイドラインは存在しません.
基本的な考え方は示す必要がありますけど,それぞれの飲食店で,どうしたら,最大限,感染が防げるのか,ということを,一人一人が考えていかなければいけない」
(映像)インタビューに答える押谷教授.
押谷「社会・経済の影響を最小限にしながら,ウイルスの拡散を最大限制御していくための解除の方法というのは,流行が拡散していくのを抑え込むよりも,はるかに難しい判断を迫られる.
部分解除しても,ある程度,感染は起こります.ゼロリスクはないウイルスなので.
じゃあ,それをどうやって判断するのか.誰が判断するのか」
これは,各国の死亡者数を比較したグラフです.
今,日本では,人口十万あたりの死亡者が0.4人.感染爆発の起こった欧米と比べると,1/10以下に止まっています.
(data: John Hopkins University)
https://coronavirus.jhu.edu/map.html
しかし,専門家たちは,医療機関の負担は,未だにギリギリの状況だと分析していました.
中でも深刻なのは,人工呼吸器が必要となる,重症患者の受け入れ体制です.
重症の患者は,入院が長期化する傾向があるため,新規の感染者数が減っても,全国で人工呼吸器が必要な患者の数は,すぐには減っていかないのです.
医療体制を崩壊させないために,対策チームが国や自治体に提言してきたのが,人と人との接触の8割削減でした.
緊急事態体制下で,この目標は達成されたのか?