新型コロナウイルスは,中国国内の野生動物に寄生していたものが発生源と考えられている.病原体にも本来の生息地があり,生態系の中で野生生物と共に進化を繰り返してきた歴史がある.カエルツボカビは日本に侵入したのではなく,日本から外来種の移送を介して世界中に運ばれ,抵抗性のない海外の両生類を絶滅の危機に追いやっている.病原菌にも本来の生息地があり,進化の歴史があった.その歴史を人間がかく乱することで病害が発生してしまった.五箇 公一 毎日新聞 2020年1月29日

病原菌にも進化の歴史 

五箇 公一(ごか こういち) 

毎日新聞 いきものと生きる 2020年1月29日

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新型コロナウィルス による肺炎の拡大が世界を騒がせている.

1970年代以降,それまでに記録のなかった新たな病原体が次々と人間社会を襲っており,それらの病原体による新型の感染症を「新興感染症」と呼ぶ.このコロナウィルスもまた最新の新興感染症となる.

 

 この新型コロナウィルスは,中国国内の野生動物に寄生していたものが発生源と考えられている.

そもそも感染症の病原体にも本来の生息地があり,彼らも生物多様性の一員として生態系の中で野生生物と共に進化を繰り返してきた歴史がある.

 

 そうした観点から国立環境研究所の我々の研究チームでは感染症生態学的研究を進めている.

研究チームのリーダーである筆者が,この分野の研究の重要性を思い知ったきっかけが両生類の新興感染症カエルツボカビ 」であった.

 

 カエルツボカビとは真菌類の一種で,両生類の皮膚にだけ感染する珍しいカビである.この菌に感染し,発症した両生類は,機能不全を起こして餌を取ることもできなくなり,最終的に死に至る.

 

 この感染症は80年代以降,急速に世界中に拡散したとみられ,中南米オセアニア などの森林エリアに生息する希少種が続々と大量死する「事件」が多発し,一部の集団は絶滅にまで追いやられた.

日本では2006年12月,海外から輸入されてペットとして飼育されていたベルツノガエルから感染が報告され,アジア初の事例となった.

 

 ついにカエルツボカビが日本にも上陸した! 日本中の両生類研究者や環境保護団体は騒然となり,「日本の両生類が絶滅の危機」とメディアも書きたてた.

たかが(と言ったら生態学者として不謹慎ではあるが……)カエルの病気ごときでここまで大騒ぎになるとは,日本にはなんとカエルを愛する人口が多いことかと驚かされた.

 

 カエルツボカビ対策に関する研究を我々の研究室が担当することになったが,カエル嫌いの筆者にとってはこの業務ほどつらいものはなかった.

研究を進める上でいやがおうでもカエルを触らなくてはならず,苦行以外の何物でもない.

 

 ところが研究を進めていくにつれ,意外な事実が分かった.

日本列島と海外から採集されたカエルツボカビ の遺伝子を分析した結果,起源は実は日本国内である可能性が高いことが判明.日本の両生類の多くはこの菌に対して高い抵抗性があり,両者の関係には長い歴史があることが示された.

 

 結局,カエルツボカビは日本に侵入したのではなく,日本からウシガエルなど外来種 の移送を介して世界中に運ばれ,抵抗性のない海外の両生類を絶滅の危機に追いやっていると結論づけた.

カエルツボカビという病原菌にも本来の生息地があり,進化の歴史があった.その歴史を人間がかく乱することで病害が発生してしまった.

 

 大嫌いだったカエルに感染症が流行したことで,感染症対策には生態学的視点に立った研究が重要であると,くしくも悟った.

 

(国立環境研究所生物・生態系環境研究センター生態リスク評価・対策研究室長)=次回は2月26日掲載

https://mainichi.jp/articles/20200129/ddm/013/040/016000c

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2008年10月15日

第2回 日本のカエルが危ない?〜カエルツボカビ症の現状|研究最前線|国立環境研究所

カエルツボカビ菌Batrachochytrium dendrobatidis(写真)が原因となる両生類の新興感染症で,近年の世界的なカエル個体群の激減をもたらしている要因の一つとされる.

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東アジアのカエルはカエルツボカビ に対する抵抗性をすでに獲得しているというシナリオが暗示される:

・日本では野外でカエルが大量に死んでいた,また野外で回収された死体から本菌が発見されたという報告はない.

・中国でも本菌による被害が大きな問題になっているという情報はない.

・韓国でも日本同様に野生カエル個体の被害はほとんど報告されていない.

 

アジアのカエルこそが世界中に本菌をばらまいた媒介生物ではないかという説も浮上してくる:

・菌の運び屋とされるアフリカツメガエルより,日本国内の方が,カエルツボカビの遺伝的多様性は高い

・日本同様に韓国でも在来種個体から,問題となっているAタイプも含めて多数のカエルツボカビ系統が検出されている.

以上 第2回 日本のカエルが危ない?〜カエルツボカビ症の現状|研究最前線|国立環境研究所

 

 

海外では依然としてカエルツボカビ菌が猛威を振るっているようです.

例えば;

The Fungi Decimating Amphibians Are Worse Than We Thought | WIRED

両生類を激減させている「ツボカビ」の猛威は、想像をはるかに超えていた:研究結果|WIRED.jp