「株主の利益優先」は,アメリカ最大規模の経済団体「ビジネス・ラウンドテーブル」が宣言したideologyだったそうです.そして,その方針の変更が,今年8月に発表されました. 「今後は利益を生むこととともに、社会的責任を果たすことにも注力すべきだ」と.この方針変更と軌を一にした日本の動き;「中小企業人本(じんぽん)経営プログラム」を報じた東京新聞の久原 穏氏の記事と,この方針変更を報道した三つの記事を載せておきます. 少しは経済のことを理解する手がかりにするために.

「会社では株主の利益が最優先される」とかなり以前から言われていたと思います.

 

 経済のことは,全くと言っていいほど知りません.とりわけ,現在の企業活動が,どのような経営理念の元に運営されているのか? そしてその根拠は何か?などについては.

 

 冒頭の「株主の利益優先」は,アメリカ最大規模の経済団体「ビジネス・ラウンドテーブル」が宣言したideologyだったそうです.そして,その方針の変更が,今年8月に発表されました.

「今後は利益を生むこととともに、社会的責任を果たすことにも注力すべきだ」と.

 

 この方針変更により,行き過ぎた「株主優先」の企業活動に由来する(ようにみえる)社会の歪みが,少しでも解消されるといいのですが----

ことはそう簡単にはいかないでしょうが.

 

 以下,この方針変更と軌を一にした日本の動き;「中小企業人本(じんぽん)経営プログラム」を報じた東京新聞の久原 穏氏の記事と,この方針変更を報道した三つの記事を載せておきます.

少しは経済のことを理解する手がかりにするために.

どの記事もほぼ同じ内容ですが,その背景等の解説は若干異なります.そこを読み解くのも頭の訓練になるかもしれません.

 

 

「人本」主義経営 優先すべきは人の幸せ  久原 穏

東京新聞 日々論々 2019.10.22

 

 「会社は誰のためにあるのか」—.

 この問いに,即座に「株主のため」と答えるのが米国流の企業経営だ.それが今,転機を迎えている.

 ゼネラル・モーターズGM),アマゾンといった全米主要企業が名を連ねる「ビジネス・ラウンドテーブル」という経営者団体がある.日本の経団連のような強力な財界ロビーだ.

八月中旬に,この「株主第一」の方針を見直して従業員や取引先,地域社会など企業に関わるすべての人の利益を尊重する経営に取り組む,と宣言した.株主第一主義は一九九七年に宣言して以来の大原則だから,歴史的な転換といえる.

 そんなニュースと軌を一とするように,東京で異色のビジネススクールの設立発表があった.「人を大切にする経営学会」(会長・坂本光司元法政大大学院教授)と千葉商科大(原幸彦学長)が共同で開講する「中小企業人本(じんぽん)経営プログラム」だ.

 人本経営とは,資力(カネ)を最重視する米国流の経営と対極をなす考え方.資本よりも,働く人々の幸せや成長を優先するので人本である.

 「人を大切にする経営学会」は二〇一四年の設立以来,企業の目的は業績ではなく,企業に関わる人の幸せを実現することだと訴えてきた.業績を目的にすると,過度のノルマや長時間労働,リストラなど社員が道具やコストのように扱われ不幸が生まれる.

 逆に社員の幸せを優先すると,モチベーションや働きがいが高まり,結果として業績も上がると主張する.「それは理想論---」という声が聞こえてきそうだが「幸せを感じながら働くと生産性は三割向上する」との米心理学者(ミズーリ大のローラ・キング氏ら)の研究結果がある.かのグーグル社が社員の幸福度を高めるため,専門の役職を置いていることも示唆に富む.

 一方,日本の大手企業経営者はどうだろう,米国流経営に傾倒し,目先の業績や株価上昇に血道を上げる,生産性を上げなければと働き方改革を唱えるが,実体は財界主導の「働かせ方改革」なので,働く人の不幸を増やしこそすれ生産性など上がるまい.

 低賃金労働があふれ,格差固定化,経済の長期低迷をみれば,日本の経営者も本気で考えを改める時にきている.

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企業は社会的責任重視を,米経済界トップが声明

2019年8月20日 / 07:35 / 2ヶ月前

[ニューヨーク 19日 ロイター]

https://jp.reuters.com/article/jp-morgan-business-roundtable-idJPKCN1V91ZR

 

米経済団体ビジネス・ラウンドテーブルは19日,米経済界は株主だけでなく従業員や地域社会などすべての利害関係者に経済的利益をもたらす責任があるとする声明を発表した.

 

「企業の目的」を表明したこの声明にはアマゾン・ドット・コム(AMZN.O)やアメリカン航空(AAL.O),JPモルガン・チェース(JPM.N)の最高経営責任者(CEO)など180を超える米企業のトップが署名した.

 

象徴的な意味合いが強いものの,約30年にわたって企業は株主の利益のために存在するとしてきた視点から大きな転換となる.

 

背景には,米民主党の大統領選候補者などから企業の責任拡大を求める声が強まっている状況がある.

 

ビジネス・ラウンドテーブルの会長を務めるJPモルガンのジェイミー・ダイモンCEOは,米国では貧富の差が拡大しており,すべての利害関係者を重視することがより健全な経済につながるとの見方を示した.

 

同氏は声明で「アメリカン・ドリームは生きているが,揺らぎつつある」とし,「大手の雇用主は従業員や地域社会に投資している.長期的な成功にはそれが唯一の方法だと知っているからだ」と指摘した.

 

声明では,公正な賃金や「重要な手当て」の提供を通じた従業員への投資,地域社会への支援と「環境保護」など5つのコミットメントを挙げた.

 

MITスローン・スクール・オブ・マネジメントのバーバラ・ダイアー教授はビジネス・ラウンドテーブルの声明について,上場企業で現在当たり前になっているさまざまな決定のベースに株主第一主義があったことを踏まえれば,非常に大きな意味を持つ可能性があると指摘した.

ただ,実際に転換点となるかは不透明で,例えば幹部報酬などの大幅な見直しが行われるかどうかは疑問だとの見方を示した.

 

 

米経済団体,「株主第一」を廃止 福利厚生や地域に注力へ

BBC News Japan

https://www.bbc.com/japanese/49403721

 

アメリカ最大規模の経済団体「ビジネス・ラウンドテーブル」は18日,数十年にわたって資本主義を推進してきた株主第一主義を廃止すると発表した.株主利益の追求はもはやアメリカの実業界の主目的ではなく,今後は利益を生むこととともに,社会的責任を果たすことにも注力すべきだとしている.

 

18日に発表された声明は「『アメリカ全国民を助ける経済』を推進するため企業の目的を再定義する」と銘打たれ,180人以上の企業トップが署名した.これにはアマゾンやアメリカン航空JPモルガン・チェースなどの最高経営責任者(CEO)も名を連ねている.

 

新たに5つの優先課題

50年近い歴史を持つビジネス・ラウンドテーブルが,株主利益を最優先としなかったのは今回が初めてだという.株主第一主義は,ノーベル賞を受賞した経済学者ミルトン・フリードマン氏が提唱し,企業活動の基礎とされてきた.

 

声明では,従業員に公正な給与や「重要な手当」を提供すること,地域社会の支援,サプライヤーに対する倫理的態度など5項目を,新たな優先課題としている.

 

企業は近年,ソーシャルメディアで高まった活動家の声や従業員からの要望など,実業界の外からもたらされた問題提起への対応を迫られている.

  

アメリカン・ドリームはぼろぼろ」

ビジネス・ラウンドテーブルの会長を務めるJPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン会長兼CEOは,「アメリカン・ドリームは生きているが,ぼろぼろだ」と述べた.

 

「大企業は従業員や地域社会への投資を始めている.それが唯一,長期的に成功する道だからだ.こうした現代的な信条は,全てのアメリカ国民の助けとなる経済を追求する,実業界の飽くなき取り組みを反映している」

 

ジョンソン・エンド・ジョンソンのアレックス・ゴースキーCEOは,「この新しい声明は,今日の企業が運営されるべき形をより反映している.経営陣が全てのステークホルダーの要望に応えようと努力した際に,企業が社会の改善で果たすことができる重要な役割を示している」

 

声明にはこのほか,ゼネラル・モーターズGM)のメアリー・バーラ会長兼CEO,フォードのジム・ハケットCEO,アップルのティム・クックCEOも署名した.

 

規制改革を遅らせる戦略?

しかし,この提案に懐疑的な意見もある.ビル・クリントン政権で財務長官を務めたラリー・サマーズ氏は,企業に運営方針を変えさせる法的要件はないと指摘した.

 サマーズ氏はフィナンシャル・タイムズの取材で,「ラウンドテーブルが言葉巧みにステークホルダーを受け入れたのは,必要な税金や規制の改革を遅らせる戦略の一部なのではないかと懸念している」と述べた.

 

(英語記事 Corporate leaders scrap shareholder-first ideology)

 

 

米経済界「株主第一主義」見直し 従業員配慮を宣言

2019/8/20 3:03 日本経済新聞

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO48745980Q9A820C1000000/

【ニューヨーク=宮本岳則】

米主要企業の経営者団体,ビジネス・ラウンドテーブルは19日,「株主第一主義」を見直し,従業員や地域社会などの利益を尊重した事業運営に取り組むと宣言した.株価上昇や配当増加など投資家の利益を優先してきた米国型の資本主義にとって大きな転換点となる.

米国では所得格差の拡大で,大企業にも批判の矛先が向かっており,行動原則の修正を迫られた形だ.

 

19日公表した声明には同団体の会長を務めるJPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)のほか,アマゾン・ドット・コムジェフ・ベゾスCEOやゼネラル・モーターズGM)のメアリー・バーラCEOなど181人の経営トップが名を連ねた.

賛同企業は顧客や従業員,取引先,地域社会,株主といった全ての利害関係者の利益に配慮し,長期的な企業価値向上に取り組むという.

 

今回の宣言は米経済の根幹を成す「資本主義のかたち」を大きく見直すものだ.

米ビジネス・ラウンドテーブルは1978年以降,定期的にコーポレートガバナンス企業統治)原則を公表し,97年からは「企業は主に株主のために存在する」と明記してきた.

JPモルガンのダイモンCEOは発表文で「アメリカンドリームは存在するが,揺らいでいる」と指摘した上で,行動原則の見直しは従業員や地域社会への投資継続を約束するものだと述べた.

 

「株主第一主義」の見直しは,米経済界に対する国民の批判をかわす狙いもありそうだ.

トランプ米政権の税制改革で企業の利益水準は押し上げられたが,賃金の伸びは鈍い.余剰資金は自社株買いに回り,米株高を演出した.恩恵を受けたのは株式を持つ資産家や,自社株で報酬を得る経営者層――.

そんな不満が富裕層増税や大企業解体などを唱える米民主党左派への支持につながっており,米経営者の危機感は強い.

 

80年代から2000年前後に生まれたミレニアル世代の存在も,行動原則の見直しにつながった.

今回の声明に加わった米運用大手ブラックロックのラリー・フィンクCEOは,投資先企業に送った年初の手紙の中で,ミレニアル世代の6割が「会社の主な目的を利益追求より社会貢献と考えている」と指摘.経営者に対して社会問題の解決に取り組むよう求めていた.

米経済界は優秀な人材の獲得や投資マネーの取り込みで,同世代の影響力を無視できなくなっている.

 

日本における株主と企業の力関係にも影響を及ぼす可能性がある.日本企業は近年,海外投資家から促される形で,株主重視経営への転換を迫られてきたからだ.

すべての利害関係者の利益に配慮した経営は,日本の経営者が長年,主張していた経営思想と重なる.もっとも日米で企業の置かれた立場は異なる.米国は行き過ぎた株主重視の結果,揺り戻しが起きているのに対し,日本は過度な株主軽視が,企業の競争力低下を招いた.