エロース(Eros)
性と愛をつかさどる神.エロース - Wikipedia
原初神 (神々の系譜の中で最も古い位置にいる神)としては,
初めの四人に含まれているとされたり---.
なんと,ニュクス(夜)が置いた卵から生まれた優美な神にして,「エロースが世界の要素をまとめてはじめて,他の神々が存在するようになった」と位置づけられたり.
http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2018/03/30/000925
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しかし何と言っても,キューピッド(クピードー Cupidoの英語読み)の名でよく知られ,「多くの愛の物語を生み出すきっかけを,その弓矢でつくった神」.
どのような物語にエロースの弓矢の力が関与しているか,手元にある二冊の本から,ざっと抜き出してみると---
まず,トマス・ブルフィンチ ギリシア・ローマ神話(角川文庫)から
いずれもよく知られたラブストーリーですが---
アプロディーテーまでも,エロースの矢の傷が元で恋していたとは知りませんでした.
▽アポローンとダプネー
(既に一度取り上げましたが---- アポローン(アポロン)1 牧畜と預言の神,また竪琴の名人で,芸術の守護神.弓の名人で医者.光明の神であり,真理の神で,ローマ時代にはすっかり太陽神と. この万能の神が初めて恋したのが月桂樹になったダフネ.月桂樹はアポローンのシンボルになり,芸術家や勝者の頭を飾ることに. - yachikusakusaki's blog)
File:Carlo Maratta - Apollo Chasing Daphne - WGA14044.jpg - Wikimedia Commons
アポローンはエロースに向かってこう言いました.
「おい,いたずら坊主,おまえはそんなあぶない武器をどうしようというのだ?そういうものは,それを持つにふさわしい者に渡すがよい.このおれはその弓矢であの大蛇を退治したのだぞ.おまえなぞは,炬火(たいまつ)で満足していればよいのだ,坊主!そしてその恋の火とかいうものを,好きにつけまわっているのがいいのだ.おれの武器に手出しすなんかするんじゃない」
アプロディーテーの息子は,この言葉を聞くと答えました.
「アポローンさん,あんたの矢は全てのものを射貫くかもしれませんが,僕の矢はあんた自身だって射貫くでしょうよ」
そう言うとエロースはパルナッソス山の岩の上に立って,箙(えびら 矢を入れて背負う道具)から,それぞれ異なった作りの矢を二本抜き取りました.一本は恋をそそる矢で,もう一本は恋をはねつける矢です.前者は黄金でできていて,鏃(やじり)は鋭くとがっていました.そして後者は鏃も鈍くしかも鉛でできていたのです.
エロースはこの鉛の矢で,河の神ペーネイオスの娘ダプネーというニュンペー(ニンフ,妖精)を射貫きました.それから黄金の矢でアポローンの胸を射貫いたのです.
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▽ペルセポネー
https://www.greekmyths-greekmythology.com/myth-of-hades-and-persephone/
ゼウスとその兄弟たちが,ティーターン神族を打ち破ってかれらを冥界(タウタロス)に追放してしまうと,また新しい敵が反抗して立ち上がりました.巨人属(ギガンテス)です.しかし,彼らも結局はアイトナ山(エトナ山)の下に生き埋めにされてしまいました.そしてここで彼らはいまでもときどき,自由な身になろうともがき,島ぜんたいを地震でゆり動かすのです.そして,彼らのはく息はアイトナ山を突き抜けて立ちのぼり,いわゆる火山の噴火となっているのです.
こうした怪物たちが落ちてきて大地を振動させるので,ハーデース(冥界の王)はびっくりして,自分の王国が日の光にさらされはしないかと心配しました.そうした懸念から,ハーデースは真っ黒な馬にひかせた二輪戦車に乗ってあちこちと視察してまわりました.
アプロディーテーはエリュクスの山の上に座って息子のエロースと遊んでいたのですが,ハーデースの姿を目にすると息子にむかってこう言いました.
「ねえエロース.誰をだって,たとえ相手がゼウスだって,打ち負かすことができるおまえの矢をつがえて,あそこにいるあの暗黒の王の胸に一本射込んでおやり,冥界の国を支配しているあの男の胸にね.あの男だけがおまえの矢から逃れるなどということはないはずだからね.この機会を利用しておまえの領土と私の領土とを広げるのです.
おまえにはまだわからないかもしれないが,天上においてさえ私たちの力を見くびるものがいるのだからね.知恵の女神のアテーナーや狩りの女神のアルテミスなどは,私たちをばかにしているのです.それにまたあのデーメーテールの娘(ペルセポネー)ときたら,あの小娘までがこの二人の真似をしようとしているのです.さあ,矢を射っておやり,もしおまえがおまえ自身の利益と私の利益とを大切に思うのなら,あの娘とハーデースを結びつけておしまい」
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すっかり用意がととのうと鏃(やじり)にさかとげのついた矢を,狙いたがわずハーデースの胸に射込んだのです.
エナンの谷には湖があって,それをこんもりとした森がとりかこんでいます.
しっとりとした地面には草花がいちめんに咲き乱れて,春の女神が一年中そこを支配しているのです.こうしたところにペルセポネーは友人たちとたわむれながら百合やすみれの花を摘んで籠や前掛けをいっぱいに満たしていました.
そのときハーデースはこのペルセポネーの姿を見つけて,たまらなく好きになり,彼女をさらっていってしまいました.
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▽アドーニス
https://www.greekmyths-greekmythology.com/myth-aphrodite-adonis/
アプロディーテーは,ある日,息子のエロースと遊んでいるうちに,エロースのもっていた矢で自分の胸を傷つけてしまいました.彼女はすぐにわが子を押しのけたのですが,傷は思ったよりも深いものでした.
そしてその傷がまだ癒えないうちに彼女はアドーニスを見てしまったのです.するとたちまち彼のとりこになってしまいました.
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皆に愛されている物語「エロースとプシューケー」の冒頭でもエロースの矢が登場します.
このお話はまた後日.