チャイロニワシドリ.精巧なあずまやを作り,メスを呼び寄せます.
鳥の巣研究所 info_2 第377回「密林で発見! 謎の小屋」 ─ ダーウィンが来た!生きもの新伝説 NHK
http://www.bbc.co.uk/nature/life/Vogelkop_Bowerbird#intro
初めてその映像を見たときに,ビックリ.このブログでも取りあげました.
ニワシドシやカイツブリを思い出しました NHKダーウィンが来た- yachikusakusaki's blog
このニワシドリが作ったあずまやは「アート」と呼べるのか?
進化生物学者ジャレット・ダイヤモンド博士の講義http://www4.nhk.or.jp/diamond-hakushi/x/2018-01-19/31/10343/2753023/ では,この「異性へのシグナル」としてのあずま屋は,人が作ったアートの原初の姿にとても近い「動物アート」.
そして博士の結論は,
「この『動物アート』に近い『人が作った初期のアート』は,異性へのシグナルとしてつくられたのではないか」というものでした.
www4.nhk.or.jp番組当初,ジャレット博士は,難しいと言いながらも,一般的なアートの条件として,次の3点を提示していました.
①アートには人が生きていくために必要(生活に必要,繁殖に貢献等)な機能がない.ただし,この条件にはグレーゾーンがある.
②アートは美的欲求を満たす.
③アートは生まれてから習得するもの(遺伝子に組み込まれていない).
動物の鳴き声は遺伝したものですから,③の条件に合いません.
そして,「動物が作ったアート」と呼べる可能性がある例を二つ示しました.
どちらも手の込んだ制作物であり,制作する習性は,鳴き声などと異なり,恐らく遺伝子には組み込まれていない.(番組ではこの点は曖昧にしていました.遺伝子に組み込まれている可能性もあるのでしょうか?)
と同時に,
「メスを引き寄せるための「シグナル」(賢い,強い,等)」となっている点を,ジャレット博士は強調します.
1.アマミホシゾラフグのオスが,メスを引き寄せるために作ったサークル.
かごどん | 鹿児島の楽しい情報を世界に配信するウェブサイト
Pufferfish 'crop circles' - Life Story: Episode 5 preview - BBC One
2.アオアズマヤドリがつくったあずま屋
アオアズマヤドリはチャイロニワシドリと同じニワシドリ科の鳥で,同じようにあずま屋を作って,メスを引き寄せます.青いもので飾るのがとても面白いですね.
Ptilonorhynchus violaceus - Google 検索 https://www.hbw.com/ibc/species/satin-bowerbird-ptilonorhynchus-violaceus "What's wrong with the primitive hut?" explores architecture's origins | News | Archinect
では,ヒトのアートの場合はどうなんでしょう?
ヒトのアートと,動物アートのつながりはあるのでしょうか.
博士は初期のアートとして三つを例示しました.
ラスコー洞窟の壁画,ファーレ・フェレスのヴィーナス.そして最古のアートとして提示したのが,モーリタニアで出土した石斧.
Lascaux - Wikipedia ホーレ・フェルスのヴィーナス - Wikipedia
この石斧は,左右対称に美しく作られた手間のかかった作品です.しかし,両刃のため,手に持って何かを切ることができません.自分の手を切ってしまうからです.
道具とは言えないのです.
では,何のために作られたのでしょうか.
博士は,「ヒトのアートも動物と同じように,異性へのシグナルを発信することから始まり,次第にその機能を越え,崇高な芸術となった」と考えています.
とても面白いアプローチの仕方から,興味深い結論を導いていました.
一定の説得力はありますね.
余談 素人がとても気になる疑問「進化や動物生態を語る方々は,優生学の素地を作っていないか?」
進化論や動物生態学には全く疎い私ですが,時にとても興味をひかれます.この講義もその一つでした.
ただ,時々私をしらけさせるのは,「優れた遺伝子が選ばれて進化する」「メスは優れた遺伝子を持つオスを選ぶ」という,セオリーのように語られること(以下「セオリー」)が進化論や動物生態学の話の節目節目に出てくる事です.この番組も例外ではありません.
この「セオリー」を外れる事は,進化学や動物学の本流から外れてしまう事を意味しているかのようです.
この「セオリー」に合致する例はあるでしょうが必ずいつもそうなのでしょうか?多くの人の考え方に知らず知らず摺り込めれた思い込みに過ぎない可能性もあるのでは?
オスがメスをめぐって争う例は確かに多いようです.しかし,メスがそのすきに別のオスを選ぶ例もよくみられるのでは?.
例えば,イエネコのミュウは,「鳴き合い」に勝った強いオスのクロモを避けて,強いか弱いか分からないオス・シンノスケを選びました.まるで,ただ好きになったからのようにみえました.
第481回「潜入!秘密のネコワールド」 ─ ダーウィンが来た!生きもの新伝説 NHK
yachikusakusaki.hatenablog.comhttp://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2017/11/12/001058
動物生態学者に言わせれば,遺伝子の多様性を守るための事例と言われるのかもしれません.そんな事をネコが考えるのでしょうか?そして,例え動物生態学者の説が合っているとしても,「強い」事が選ばれる主因ではない事例と言えるでしょう.
マンドリルの群れでは,乱暴な「強い」オスが嫌われ,面倒見の良いオスがメスに優遇されている例もあるようです.
https://www.nhk.or.jp/docudocu/program/1855/2527228/index.html
そして,この様な進化論・動物生態学の「セオリー」がとても気になる第1の理由.
それは,進化論や動物生態学が,自然科学の衣をまとって,ナチスドイツがユダヤ人・身障者の殺害の根拠とした「優生学」を生み出す素地を作り出し続けているように見える事.
ただし,「『ダーウィン進化論』自体は,直接,優生学と結びつかない」ことは押さえておく必要があるでしょう.「生き物はすべてひとつであり、生き物には上下など存在しない」という論理がダーウィン進化論とのこと.