震災23年目 教訓を疑え(全5回)【3】商業復興 再起に欠かせぬ柔軟発想(商業地としての戦略性と商店主のこだわりをいかに両立するか)  【4】震災障害者 実態把握,支援策に課題(支援からもれている被災者がいないか.阪神・淡路での苦い経験を糧に,不断の検証が求められている)

阪神・淡路大震災から去る1月17日で23年が経ちました.

この間,この震災を丁寧に見つめ振り返り続けて来た神戸新聞の連載記事「教訓を疑え(全5回)」のうち【1】〜【4】を2回に分けて転載させていただきます.

なお,記事の一部は割愛させていただき,また,その結果分かりづらくなった部分は加筆・書き換えも行っています.ぜひ原文のご一読を.

震災23年目 教訓を疑え(全4回) 【1】住宅提供(「借り上げ住宅」/「みなし仮設(借り上げ型)」) 経験則超えた支援策を.【2】生活再建(自宅や店の再建など) 不備露呈,公的支援の限界  yachikusakusaki's blog

(昨日は「全4回」と書きましたが,1月19日,改めてウェブサイトを確かめたところ,シリーズの第5回として,「情報 整理・分析、提供法を模索」という記事が加わっていました.機会があればこれも転載したいと思っています)

 

神戸新聞 連載・特集 阪神・淡路大震災

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神戸新聞NEXT|総合|阪神・淡路大震災から23年 「あの日」を胸に祈りの朝

 

震災23年目 教訓を疑え(全5回) 【3】【4】

https://www.kobe-np.co.jp/rentoku/sinsai/23/rensai/P20180112MS00128.shtml

www.kobe-np.co.jp

 阪神・淡路大震災から17日で23年.復興や備えは進んだが,歳月を経て露呈した課題もある.「教訓」に盲点はないのか.問い直す.

 

【3】商業復興 再起に欠かせぬ柔軟発想

 神戸市長田区の新長田駅南再開発地区の一角.2019年6月,兵庫県と神戸市の税務部門を集約,約90億円をかけた9階建て合同庁舎が完成する.一帯は,阪神・淡路大震災で壊滅的な被害を受け,中高層ビルが整然と立ち並ぶ街に生まれ変わった.人口は震災前の1・4倍に増えたが,商業地のにぎわいは乏しい.

 庁舎は約千人の県市職員や来庁者の経済効果を見込んだ活性化策.近くの飲食店主らが「活気が出るのはいいこと」と歓迎する一方,大正筋商店街振興組合前理事長の伊東正和さん(69)は「行政は本質に向き合っていない」と冷ややかだ.

 

 新長田再開発地区では市が整備した広大な商業床の多くが売れ残り,商業低迷は「復興に便乗した,行政主導の過大開発の失敗」とも語られてきた.だが,伊東さんは「問題はこの街の硬直性だ」と言う.

 再開発ビルの完成に際し,市は床の賃借を許さず,商店主の多くはローンで床を購入せざるを得なかった.時代や客層の変化にもかかわらず店舗構成は固定したまま.店主らは年齢を重ね,閉店した店主も多い.資産価値の下がった床は売ろうにも売れなかった.

 「需要に合わせ店がどんどん変わっていける街でないと生き残れない」 11年の東日本大震災後,東北から相次いで訪れた視察団に,伊東さんは「教訓」を語り続けた.

 13年秋,宮城県女川町の商店主らが新長田を訪れた.その2年後,商業復興の先陣を切って,女川駅前に全店テナントの商店街「シーパルピア女川」がオープン.

しかし,需要に応じた店舗の代謝が期待できる全テナント式は,商店主にとって,被災前はなかった家賃などの固定経費が重荷となる.採算を不安視して出店を諦めた地元店主もいる.誘客の戦略もあって,シーパルピア女川は,27区画の半数がUターンを含む町外からの出店となった.

 運営会社「女川みらい創造」の近江弘一専務(59)は「今後は復興とともに増える町民の生活需要にも対応したい」と語る.

 

 一方,新長田では商業者に再起の場と安全な街を用意することが最優先.目的は果たされた.

商業地としての戦略性と商店主のこだわりをいかに両立するか.二つの震災の教訓を踏まえた課題が浮かび上がる.

 低迷が続く限り“反面教師”でしかない新長田.伊東さんは「庁舎に90億円を費やすなら,抜本策を」と訴える.求めるのは,市が再開発ビルの床を商店主から買い戻すこと.テナント方式で街の一新を図る「再・再開発」だ.

 

 「商業地に問われるのは『ここにしかないもの』.長田らしい長屋情緒のある街につくり直すべきだ」

(森本尚樹 2018/1/15 https://www.kobe-np.co.jp/rentoku/sinsai/23/rensai/201801/0010898503.shtml )を短縮・一部書き換え by yachikusakusaki

 

 

 

【4】震災障害者 実態把握,支援策に課題

 阪神淡路大震災よろず相談室(神戸市)は災害で障害を負った人らを支援するNPO法人だ.理事長の牧秀一さん(67)は昨年10月,東海大熊本キャンパス(熊本市)を訪ねた.一昨年4月の熊本地震熊本県阿蘇村で倒壊したアパートの下敷きになり,右脚を切断した東海大2年の梅崎世成(せな)さん(21)=福岡県大牟田市=に会うためだ.

 熊本には支援団体がなく,梅崎さんは「心のよりどころができた」と喜ぶ.支援を約束した牧さんは「同じような状況は災害のたびに繰り返される」と嘆く.

 震災障害者が支援の網から外れている問題は阪神・淡路大震災で浮き彫りになった.同法人は「阪神・淡路では2千人超はいる」と推測する.

 当時飲食店を経営していた岡田一男さん(77)=神戸市中央区=は同市東灘区で,崩れたビルのがれきに埋まった.救出されたのは約18時間後.歩行に障害が残った.しかし,知人に教えられるまで身体障害者手帳を申請することさえ知らなかった.「行政から支援情報を得られず,悩みを抱え込んだ」

 兵庫県と神戸市が震災障害者の実態調査に乗り出したのは震災の15年後のことだ.349人の存在を確認し,県は相談窓口を設けた.岡田さんは思った.「僕らは見捨てられとったんや」

 

 同法人は昨年2月,「支援には把握する仕組みが必要」と,手帳の申請書類に記す障害の原因欄に「自然災害」を加えるよう厚生労働省に求めた.同省は3月末,都道府県などに追加するよう通知を出した.

 牧さんの活動に加わった岡田さんは「一歩前進」と評価する.ただ,東京都などが通知を反映しておらず,将来起こりうる首都直下地震の対応に不安が残る.

 同法人は併せて,災害障害見舞金(最大250万円)の支給要件緩和も要望.対象は両脚切断や両目失明など最重度の障害で,現状では梅崎さんや岡田さんは受けられない.牧さんは「家や仕事を失い,後遺症の苦しみが続く震災障害者への支援が手薄」と訴える.

 

 さらに実態把握が難しいのが,震災が原因で知的・精神障害を負った被災者だ.手帳申請で一律に把握する仕組みがない.

 神戸市灘区の自宅で被災した城戸洋子さん(37)=同市北区=は当時中学3年だった.ピアノが頭部に直撃し言葉が出にくくなるなど高次脳機能障害に.家族の指摘で専門医を見つけ,病名を知るまでに6年を要した.知的,精神,身体障害の手帳を持つが,申請はその都度,支援者がサポートした.

 母美智子さん(65)は「気付いてほしい,助けてほしいの一心だった」と振り返る.同法人は近く,震災を起因とする知的・精神障害について手帳の申請書類で把握できるよう国に要望する予定だ.「もう震災障害者の存在を『知らない』では済まされない.阪神・淡路の教訓を生かして」と美智子さん.

 

 支援からもれている被災者がいないか.阪神・淡路での苦い経験を糧に,不断の検証が求められている. 

(小林伸哉2018/1/16 https://www.kobe-np.co.jp/rentoku/sinsai/23/rensai/201801/0010901286.shtml )を短縮・一部書き換え by yachikusakusaki