さらに問題なのは容疑者の優生思想である.何故このような考え方に共鳴したのだろうか. / 障害者を子どもにもつ親たちは声高に言わなくとも,一人ひとりと話すと皆一様に,他人よりも身内による悲しい差別に遭っている.葬式に連れてくるな,結婚式に連れてくるな等--- 鬼塚留美子さん(1) 障害者家族 

「生きたかった 相模原障害者殺傷事件が問いかけるもの  大月書店」より

f:id:yachikusakusaki:20170512163756p:plain

相模原事件の根底にあるもの (1)

鬼塚留美子  障害者家族,かしはらホーム(福岡県福岡市)親の会

 

事件から2ヶ月あまりが経過した.かしはらホームでは,事件の影響も感じられず,いつものように穏やかな生活が営まれている.

かしはらホームは知的障害者の入所施設として二〇〇三年に開所した.現在四八名の仲間が生活している.この施設の開設までに,仲間,職員,親たちが協力して毎年バザーを開き,資金づくりをしながら建設にこぎつけた大切な施設である.親は高齢化で平均年齢は七十歳を超えているが,仲間のために生きている限り,この施設を守っていかなければならない.

 

事件が親たちの間で話題になることもなかったのは,口にすることが憚(はばか)られるほどの惨事であったからだ.それにしても,平成になって最悪の大量殺人であり,それも障害者が標的にされたのに,この国のトップはいまだに何らメッセージを出さないのも寂しいことである.

 

仲間と生活時間を共にし,仲間達がもっとも頼りにする職員が加害者だったことが,親にとってもっともショックが大きかった.この容疑者は恵まれた環境で育ち,大学で教員免許を取得し,教育実習では児童生徒に人気があったということである.希望の職種に就けず,介護の職場についたのは食べるためであり,人が人を介護するという職業倫理観はさらさらなかったのであろう.障害者をお世話する仕事は,障害への理解と覚悟がないと困難な仕事である.その故か,社会福祉の世界は常時人手不足であり,なかなか人材が集まらない.職場の研修も十分になされていたのか,大きな疑問である.

 

さらに問題なのは容疑者の優生思想である.学校や職場,地域で時間をかけて人権教育を長年受けてきたにもかかわらず,何故このような考え方に共鳴したのだろうか.日本における障害者差別思想は,ハンセン病患者への差別,部落差別等,さまざまな人権差別とつながっていると感じる.地方へ行けば,障害者が生まれると家の奥に閉じ込め外に出さない家もいまだあると聞く.臭いものには蓋をする.家の恥は隠すといった,日本独特の差別思想の風土が根強く残っている.

障害者を子どもにもつ親たちは声高に言わなくとも,一人ひとりと話すと皆一様に,他人よりも身内による悲しい差別に遭っている.葬式に連れてくるな,結婚式に連れてくるな等,----

 

以下続く.鬼塚留美子さん(2) 障害者家族 - yachikusakusaki's blog