横山晃久さんへのインタビュー（３）
保坂展人（ほさかのぶと）
第２章障害当事者は事件をどう受け止めたか」より ）
相模原事件とヘイトクライムの通販/保坂展人 岩波ブックレット - 紙の本：honto本の通販ストア
私が区長を努める世田谷区には，障害のある人たちが数多く住んでいます．事件後最初に会いたいと思ったのは，横山晃久（よこやまてるひさ）さん（「自立生活センターHANDS世田谷」理事長）でした．
横山晃久さんへのインタビュー（１） 親の意識という問題
横山晃久さんへのインタビュー（２） 入所施設とはどんなところか
横山晃久さんへのインタビュー（３）
障害者間の連帯に向けて
保坂 相模原事件の特異な点は，植松容疑者が，声をかけて応答できる人は殺さず，出来ない人を狙って殺したということです．この様な事件は今まで日本では起きたことはありませんでした．やまゆり園は知的障害者の施設です．障害者差別解消法は，身体，知的，精神，発達［障害の］，全ての差別を解消する社会を目指していますが，知的障害の人たちが置かれている環境をどう思いますか？
横山 僕は世田谷区の自立支援協議会に身体障害者の代表として入っていますが，精神障害，知的障害の当事者が入っていないことを非常に悔しく思っています．当事者の話を聴かなければ何もわからないと僕はずっと言ってきました．
身体障害者は六〇年も運動をやってきたので，サービスもそれなりに勝ち取ってきました．これに対して，精神障害の運動はまだ二〇年です．だから支援者ががんばっています．
何をもって支援者というかが問われます．僕は車椅子を押してくれる人がいないとどこへも行けませんが，精神障害者や知的障害者はひとりでどこへでも行けます．ですが，区役所から来る文書の内容がわからない．そのとき，僕が彼らを支援しています．こうした助け合いが大切です．身体障害者の運動を，精神障害，知的障害，それから難病の人たちとどう分かち合っていくか—．僕の経験を三障害統合に有効に生かしたいと思います．
僕の友だちの四割は精神障害者です．昔は八割が身体障害者でしたが，今は四割が精神障害者，三割が知的障害者です．今回の事件への対応も含めて，どう連帯していったらいいのかな，と考えています．僕のつき合っている精神障害の人たちは頭がいい．頭が回りすぎて困っているんです．その人たちは，問題を起こしそうだなと思ったら，自分から措置入院を希望する．自分でコントロールできるんですよ．容疑者のようなエセ精神障害者とは絶対に違います．
保坂 容疑者が精神障害者かどうかはまだわからないのですが［二〇一六年九月から鑑定留置中］，今回の事件についてはその前提で議論している面があります．
横山 なぜ彼を精神障害（傍点）者だと言うのでしょう．障害をめぐっては，かつては障害者に問題があるとされていましたが，一九八〇年代以降は障害者に問題があるのではなく，障害を受け入れない社会を変えていこう，という方向に変わりました．僕は気が楽になりました．
僕は昭和二九［一九五四］年大阪生まれです．「昭和二九年」と「大阪」がキーワードです．そう，森永ヒ素ミルク事件が起こったのです．被害者はいまだに自分たちを「患者」と言っている．なぜかというと，森永によって身体を壊されたからです．彼らは森永を憎んでいる．でも，僕らを憎む相手がいません．僕の相手は社会全体です．彼らとはよくこういう話をしました．病気と障害は全然違うのです．
