相模原殺傷事件2年 精神疾患措置入院 退院後支援,法整備進まず 割れる現場, “監視強化”批判も「措置入院したというだけで追跡されるのは地域社会からの排除だ」 毎日新聞   ▽精神保健福祉法改正案の問題点 1.事件の原因の取り違えによる的外れな対策 2.精神保健福祉法の目的は精神障害者の福祉増進であり社会防衛ではない(「サイコパス」なら最初から刑事処罰の対象) 3.その他:措置入院解除の遅延,警察の介入・監視による病状の悪化やプライバシー侵害の恐れ 等

もう二度と

相模原殺傷事件2年 精神疾患措置入院 退院後支援,法整備進まず 割れる現場「監視強化」批判も

f:id:yachikusakusaki:20180731200050j:plain

毎日新聞2018年7月25日 東京朝刊

 

 相模原市の障害者施設殺傷事件では,精神疾患で強制的に入院措置が取られた患者の支援のあり方に焦点が当たった.

国は退院後の支援の充実を決めたが,その根拠となる精神保健福祉法の改正はいまだにされず,対応は自治体間で分かれている.

当事者の中には,退院後支援が入院歴のある人への監視強化につながるとの批判もあり,法改正のめどは立っていない.

 殺人罪などで起訴された植松聖被告(28)は,事件前に障害者の殺害計画を書いた手紙を衆院議長公邸に持参して措置入院となり,大麻精神病などと診断された.退院後は治療から遠ざかり,約5カ月後に事件を起こしたことで,厚生労働省措置入院制度の改革に着手.退院前に患者全員の支援計画作成を自治体に義務付け,関係機関で支援の協議会を設けることを柱とした精神保健福祉法改正案をまとめた.

 

 だが,協議会に警察も参加するとした点などに,野党が「患者の監視につながる」と反発.

昨年の通常国会に法案提出されたものの廃案となり,その後は提出もされていない.

 

 厚労省が代わりに出したのが,今年3月の指針だ.退院後支援の充実という考え方は同じだが,自治体に法的義務は課さず,自治体が必要と判断し本人が同意した患者のみ支援対象とする点が,改正法案と大きく異なる.

 

 事件の舞台となった相模原市は,指針が出たのを機に取り組みを強化した.

社会福祉士ら2人1組のチームが,拒否されない限り措置入院患者全員から希望する支援内容を聞き取り,退院後も相談を受ける.担当者は「迷惑と考える人もいるので,焦らずに信頼関係を築くことを優先している」と話す.

 

 一方,千葉市は,法改正に合わせて担当職員を現行の8人から10人に増やす準備をしていたが,廃案で実現しなかった.

現在,支援対象としている患者は全体の4分の1程度.支援から漏れた人が,退院後に症状が悪化して再入院するケースも多い.措置入院手続きなどに24時間態勢で対応しているという担当者は「全員支援したいが,忙しくて手が回らない」とこぼす.

 

 法改正に否定的な自治体もある.

関東地方のある自治体の担当者は「1人で治療を続けるのは難しいから,なるべく支援を受けてほしいが,無理強いはできない.拒否する患者にも計画を作って押し付けることが支援と呼べるのか」と疑問を投げ掛ける.

 

 精神障害者の当事者らでつくるNPO法人「地域精神保健福祉機構」の宇田川健共同代表は「措置入院したというだけで追跡されるのは地域社会からの排除だ」と,法改正断念を求めている.【原田啓之,熊谷豪】

 

 

 精神保健福祉法の改正案の問題点

原昌平氏 yomiDr. / ヨミドクター(読売新聞)2017年4月28日 より,

http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2017/06/07/003452

精神保健福祉法の改正案はなぜ、つまずいているか : yomiDr. / ヨミドクター(読売新聞)

1. 事件の原因の取り違えによる的外れな対策

相模原事件の原因は精神障害ではなく,知的障害者生存権を否定する差別思想.

差別的な考え方を社会からなくしていく取り組みが肝心であり,精神障害者への対策で防ごうというのは的外れ

 

2.精神保健福祉法の目的は,精神障害者の福祉増進,国民の精神保健の向上であって,社会防衛(治安対策)は目的ではない.

精神保健福祉法の目的は精神障害者の福祉の増進,国民の精神保健の向上であり,そのために行うことは医療,保護,援助,保健予防活動.

措置入院して医療や保護を行うのは,患者本人のためがこの法律の建前(実際の運用がどうなっているかは,別として).

社会防衛(治安対策)は,目的にはまったく登場せず.

治安目的の法改正になるという批判が障害者関係の団体や野党議員から強まり,答弁に困った塩崎恭久厚生労働大臣は,その部分の趣旨説明を削除して陳謝.提出した法改正案の趣旨を審議中に削るのは,おそらく前代未聞.

しかし,法改正案の本文は変わらず.何のための法改正なのか,やっぱり精神障害者を危険視して閉じ込め,監視を強める制度づくりではないか?

 

3.その他 :措置入院の解除が遅くなるおそれ./患者の生活の安定と孤立防止策は,幅広く必要./警察に氏名や病状が伝わる可能性⇒①監視の不安は,病状の悪化を招きかねない ②精神障害の有無,その病状は,高度なプライバシー:明確な利用目的と本人の同意がない状況で情報を伝えるのは不適切) 

(少なくとも心神喪失者等医療観察法の施行(2005年7月)の後,措置入院になった患者は,重大な他害事件を起こしていない. 

 性質として凶悪な行為をする「サイコパス」なら,最初から刑事処罰の対象で,大多数の精神障害者の実像とは,まるで違う)

 

 

▽こんどの精神保健福祉法[改正]案は絶対におかしい!!

病棟転換型居住系施設について考える会、日本障害者協議会(JD)、全国「精神病」者集団、医療観察法予防拘禁法)を許すな!ネットワ ーク、

「骨格提言」の完全実現を求める大フォーラム実行委員会、こら ーるたいとう、ダルク女性ハウス、きょうされん、全国精神障害者地域 生活支援協議会(あみ)、

大阪精神医療人権センター、大阪精神障害者 連絡会ぼちぼちクラブ、兵庫県精神障害者連絡会、DPI 日本会議、日本 臨床心理学会

http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2017/06/15/004043

http://www.jngmdp.org/schedule/4150

~これは精神障害がある人々への政府からのヘイトクライムです~

 5月17日,参議院本会議において精神保健福祉法改正法案が可決され,衆議院に送付されました.

この法案は,当初の趣旨説明文にあったような相模原障害者施設における殺傷事件の再発防止に端を発した立法事実のない法案です.

政府は,法案審議中にその趣旨説明を削除するという暴挙に出ましたが,どんなに取り繕うとも,精神保健福祉法を事件の再発防止という法の目的にない治安目的で用いようとすることに変わりはなく、法治国家としてもあるまじきことです.

これは大臣が謝罪すれば済むということでなく,直ちに法案を取り下げるべきです.

このような法案が仮に衆議院でも可決されることになれば,精神障害者に対する監視が強まり,精神障害者を危険視する偏見がさらに助長されてしまうことになります.

措置入院をした人への退院後支援計画の策定は各自治体の義務となっており,当事者抜きでも可能となったままです.

また,精神障害者支援地域協議会に警察が参加し,個別の情報が警察に伝わる可能性もあります.

以上のような大きな問題点を残したまま採決が行われ,数の力で参議院においては可決されるに至りましたが,到底容認できるものではありません.

 

 

姜文江氏

朝日新聞2017年6月2日

http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2017/06/15/004043

http://www.asahi.com/articles/DA3S12967767.html

措置入院の法改正 精神障害者への人権侵害だ 

 今国会で,自傷他害の恐れがある精神障害者を強制入院させる措置入院者について,退院後支援計画の作成が義務付けられる精神保健福祉法改正案が審議されている.

法案が通れば,計画の作成に警察の参加する協議会が関わることや,個人情報に関する事項が本人同意なく転居先の自治体に通知されることが可能になる.

 近年,防犯対策や虐待防止などの観点から地域の話し合いに警察が関与することは多い.私は警察との連携自体を否定するものではないが,法案は精神障害者を虐待の被害から守る目的ではなく,加害者予備軍とみなしている.精神障害者に対する差別・偏見を助長することにならないか.

 法案は,措置入院者全員について支援計画作成を義務付けながら,計画の期限などは明記されておらず,計画作成で得られた個人情報の抹消が保障されていない.

うつ病など多くの人に精神疾患の診断名がつきうる時代.一度でも何らかの診断名をつけられて措置入院させられれば,警察が無期限に監視することが可能になる.「共謀罪」法案以上に市民の内心に踏み込み,あいまいな要件で永続的な監視を可能にする.

 審議では,計画作成に本人参加を原則とすること,警察の入る協議会では原則として個人情報は取り扱わないことなどは、運用で対応すると繰り返し答弁された.しかし,条文上明記されないのであれば,前記の懸念は残る.

 法案は,医療に対する不信感を生じさせかねない点で,適切な医療を必要とする精神障害者の医療を受ける権利すら侵害する.これらの深刻な人権侵害は,運用上のガイドラインで対応すべきではなく,法律に明記して歯止めを設けるべきである.

 法案提出の背景には,昨年に相模原市の障害者施設で起きた殺人事件があったが,精神障害と事件の関連性は認定されていない.参院の審議では,改正する根拠について批判が集中し,審議途中に厚生労働省は法案概要から再発防止に関する改正趣旨を削除した.趣旨が変わったなら法案も撤回すべきで,犯罪予防策が必要なのであれば,精神保健福祉法改正ではなく,正面からそのための法制度を提案するべきである.

 (きょうふみえ 弁護士)