桃の実を詠んだ短歌2  モモは,遅くとも漢の時代には栽培化されていました.日本へは,遅くとも奈良時代初頭には渡来.現在のような大きくて柔らかいモモが市場に出回るようになったのは明治以降. みづみづしき木のいのちかな淡緑(うすあを)き小さき桃の実風に吹かるる 吉野鉦二  袋しろくしづまる中にみちてゆく桃無尽にてはや甘きかな 生方たつゑ  桃の木は懈(たゆ)くしづけし秋の日に実の捥(もぎ)られし後を立ちをり 宮柊二  桃一つ妻とわかち食ふ二上の木陰に畝火耳成を見て 小市巳世司

今日は,雨もやみ,夕方には晴れまも.

ただし,富士は見えず.

 

昨日購入した桃の残りを来客とともに食べ終わりました.見栄えはそれほどでもなかつたのですが,ちよひめ?or日川白鳳?かなり美味しい早生桃でした.

日本へは,遅くとも奈良時代初頭には渡来.初めはケモモと称され,モモは山桃(楊梅)を意味する言葉だったというのが定説になりつつあります(改訂新版世界大百科事典,ニッポニカ https://kotobank.jp/word/モモ )

モモは,中国黄河上流域原産とされ,遅くとも漢の時代前漢 紀元前206年 - 8年,後漢 25年 - 220年)には栽培化されていたとされています(ニッポニカ,改訂新版世界大百科事典https://kotobank.jp/word/モモ )

なお,日本では弥生遺跡からの出土があり,また,中国殷の遺跡からもモモの核の出土があることから(ニッポニカ),日本渡来や中国での栽培は,もっとさかのぼることができることはほぼ確実.

実際

土師 岳らは,「桃は,わが国には縄文時代後期または弥生時代に渡来したと考えられている」とし,

土師 岳ら 植探報 Vol. 20: 53~59, 2004 https://www.gene.affrc.go.jp/pdf/publications/plant-exp_2003(20)_p53.pdf

 

英語版ウィキペディアによれば,

https://en.wikipedia.org/wiki/Peach

「栽培は紀元前2000年頃に始まったと考えられていたが、最近の証拠によると、中国の浙江省で紀元前6000年頃には栽培されていた。最古の考古学的桃の化石は、杭州近郊の郭橋遺跡から出土したものである」としています.

 

 

 

上記のように古くから日本人が食べてきた桃は,遅くとも江戸時代には日本でも栽培化されますが,硬く小さいものでした.

明治時代,フランス・中国からの大果のモモ(天津水密,上海水密)の導入以降,現在のような大きくて柔らかいモモが市場に出回るようになり,現在では日本全国で100種以上の品種が栽培されています.https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/1905_06/spe2_01.html

 

なお,モモは,現在食べられている沢山の果物が属するバラ科Rosaceae / モモ連(サクラ連)Amygdaleae  / サクラ属(スモモ属)Prunusの植物.

サクラ属(スモモ属)は,いくつかの亜属,さらにはSectionに分けられるとされていますが,まだ確定はされていないようです.下にS.Shiらによる系統樹を示します.

https://en.wikipedia.org/wiki/Prunus_subg._Prunus#Sect._Amygdalus

https://www.researchgate.net/figure/Phylogenetic-relationships-of-Prunus-sl-based-on-a-concatenated-dataset-of-chloroplast_fig1_255954651

様々な食用果物・種実の中で,モモに一番近いとされているのがアーモンド.モモとアーモンドの分岐は600万年前とされています.Almond and Peach Genomes Explain Differences of Fruits 

https://en.wikipedia.org/wiki/Peach

https://en.wikipedia.org/wiki/Almond

一方,ネクタリンは,モモと同一種.

モモの中で皮に光沢があり,毛がないものがネクタリンとして分離されてきた歴史があります.

https://en.wikipedia.org/wiki/Peach

 


桃の実を詠んだ短歌2

(古今短歌歳時記より)

 

くれなゐの色きはまれる桃一顆(いつくわ)最後のを取ればわが眼より失す  松村英一 松村英一全歌集

 

白桃の香にたちゐるを購はむおごりごころもなくて立ち去る  鹿児島寿蔵 麦を吹く嵐

 

みづみづしき木のいのちかな淡緑(うすあを)き小さき桃の実風に吹かるる  吉野鉦二 山脈遠し

 

袋しろくしづまる中にみちてゆく桃無尽にてはや甘きかな  生方たつゑ 青粧

 

桃の木は懈(たゆ)くしづけし秋の日に実の捥(もぎ)られし後を立ちをり  宮柊二 多く夜の歌 

 

桃一つ妻とわかち食ふ二上(ふたがみ)の木陰に畝火耳成を見て  小市巳世司 ほやの実