木枯らしを詠んだ短歌1  古くは秋の風も木枯らしと呼ばれたとのこと.しかし,木枯らしの語感は,冬の木々の葉を吹き散らす寒風に,よりふさわしいですね. こがらしも今は絶えたる寒空よりきのふも今日も月の照りくる 斎藤茂吉  こがらしの音やむらしも.向(むか)つ山.山にむかひて居る 心はも 釈迢空  呼吸(いき)すれば,/胸の中(うち)にて鳴る音あり./凩(こがらし)よりもさびしきその音! 石川啄木

昨日は

「全国的に今シーズン最も低い気温を観測し,東京に木枯らし一号が吹いた」

と報じられていました.

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231113/k10014256671000.html

木枯らし一号とは,

冬型気圧配置になって吹く北寄りの冷たい強風で,そのシーズンで初めてのもの.

細かな数値も決められています.

 

木枯らし一号

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 https://kotobank.jp/word/木枯らし一号

晩秋から初冬にかけて冬型気圧配置になって吹く北寄りの冷たい強風で,そのシーズンで初めてのもの。

気象庁では ,10月中頃から 11月末までの間で西高東低の冬型気圧配置(→西高東低の気圧型)のとき,北から西北西までの風が 8m/s以上で吹き,前日よりも気温が 3℃以上下がった場合に,木枯らし一号と発表する。

なお,木枯らし一号は東京と大阪について発表される。

 

 

「木枯らし」

「秋の末から冬の初めにかけて吹く、強く冷たい風」という意味ですが,

「冬の木々の葉を吹き散らす寒風」という語感があります.

 

語感

(Japan Knowledge 季節の言葉 https://japanknowledge.com/articles/kkotoba/12.html 

「木枯らし」は,古くは,冬以外に,「秋の訪れを知らせる風」の意でも用いられていました.

(「こがらしは秋冬の風,木枯らしなり.ただし,木枯の秋の初風とも詠めり--- 『八雲御抄』 古今短歌歳時記)

次第に「冬の季語」に収斂し,定着したとのこと.

その理由は

「木枯しということばの持っている語感が,冬の木々の葉を吹き散らす寒風に,よりふさわしいこと」と

「冬の木々の葉を吹き散らす寒風という意味で木枯しを使った優れた作品が,俳諧の時代に入って,つぎつぎに作られたため」

と推測されています

意味

国語辞典では,「秋の末から冬の初めにかけて吹く、強く冷たい風」日本国語大辞典の意とされています.

 

しかし,ほとんどの日本人が「木々の葉を吹き散らす寒風」という語感を含めた意味を持つ言葉と考えているのではないでしょうか.

 

実際,「木枯らし」で検索される画像は,全て,風に舞う木の葉を写した画像です.

https://www.google.com/search?木枯らし

木枯らしは日本の秋から冬に入る季節の風を的確に,情景・情緒も含めて描き出した言葉と言えますね.

研究社和英中辞典では,木枯らしを"a cold wintry wind"と英訳していますが---

https://ejje.weblio.jp/content/木枯らし

" cold wintry wind"で検索される画像は雪景色!

 

木枯らしを詠んだ短歌1

(古今短歌歳時記より)

 

木枯らしの音はすぎにし時なれどときはにつねに松にふく風  作者未詳 古今六帖

 

山里は秋の末にぞ思ひ知る恋しかりけり木枯の風  西行 山家集

 

明けがたもまだ遠山の木がらしにあられ吹きまぜなびく村雲  藤原定家 拾遺愚草

 

色々にちりし紅葉も音たえて月影さむし木がらしの空  藤原隆信 夫木抄

 

こがらしも今は絶えたる寒空よりきのふも今日も月の照りくる  斎藤茂吉 白桃

 

こがらしの音やむらしも.向(むか)つ山.山にむかひて居る 心はも  釈迢空 水の上

 

呼吸(いき)すれば,/胸の中(うち)にて鳴る音あり./凩(こがらし)よりもさびしきその音!  石川啄木 悲しき玩具

 

 

 

庭の孔雀アスター.秋の終わりを飾つています.