秋の夜を詠んだ短歌  秋の夜のつめたき床にめざめけり孤独は水の如くしたしむ 前田夕暮  白玉(しらたま)の歯にしみとほる秋の夜の酒はしづかに飲むべかりけり 若山牧水  秋の夜の/鋼鉄(はがね)の色の大空に/火を噴(は)く山もあれなど思ふ 石川啄木  あたたかに香のたつミルクのみながら仰ぐ幾万年の秋の夜の空 鹿児島寿蔵  秋の夜も雑念なかなかしづまらず厨(くりや)の黄なるもやしに似たり 前川佐美雄  秋の夜はおもひきり憂愁にひたるべし友よもうすこししづかにのもうよ 加藤克巳

夕ぐれの鎌倉由比ヶ浜.入日の光は覗いているものの,空は雲で覆われていました.

 

八幡通を通って帰宅.夜が迫ってきました.

 

二ノ鳥居まで戻ってきたときには,既に夜.

 

秋の夜を詠んだ短歌

(古今短歌歳時記より)

 

今造る久邇(くに)の都に秋の夜の長きにひとり寝るが苦しき  大伴家持 万葉集巻八 一六三一

大伴宿祢家持が安倍女郎(あべのいらつめ)に贈った歌一首

新しう出来た,久邇(恭仁,久迩)の都で,秋の夜の長い自分に,独り寝するのがつらいことだ 万葉集 折口信夫

 

秋の夜の明るくも知らず鳴く虫は我がごとものや悲しかるらむ  藤原敏行 古今集

 

睦言もまだ尽きなくに明けにけりいづらは秋の長してふ夜は  凡河内躬恒 古今集

 

長しとて明けずやはあらん秋のよはまてかし槙のとばかりをだに  和泉式部 後拾遺集

 

もろともにおきゐる露のなかりせばたれとか秋の夜をあかさまし  赤染衛門 後葉集

 

秋の夜を書(ふみ)よみをれば離れ屋に茶をひく音のかすかに聞ゆ  正岡子規 子規歌集

 

秋の夜のつめたき床にめざめけり孤独は水の如くしたしむ  前田夕暮 収穫

 

白玉(しらたま)の歯にしみとほる秋の夜の酒はしづかに飲むべかりけり  若山牧水 路上

 

秋の夜の/鋼鉄(はがね)の色の大空に/火を噴(は)く山もあれなど思ふ  石川啄木 一握の砂

 

あたたかに香のたつミルクのみながら仰ぐ幾万年の秋の夜の空  鹿児島寿蔵 麦を吹く嵐

 

秋の夜も雑念なかなかしづまらず厨(くりや)の黄なるもやしに似たり  前川佐美雄 搜神

 

秋の夜はおもひきり憂愁にひたるべし友よもうすこししづかにのもうよ  加藤克巳 青の六月