トウダイグサ科には,最近人気の園芸品種ユーフォルビア・ダイアモンドフロスト(トウダイグサ属),またタピオカの原料となるキャッサバが属しますが---
ヒマシ油の原料となり,また,猛毒たんぱく質リシンを含むトウゴマもトウダイグサ科の植物です.
トウダイグサ科 Euphorbiaceae,エノキグサ亜科 Acalyphoideae,トウゴマ属 Ricinus,
トウゴマ Ricinus communis
以下,トウゴマの利用等について,簡単にまとめてみました.
引用・参考文献は,以下の通り.
Ricinus - Wikipedia Castor oil - Wikipedia Castor Oil - StatPearls - NCBI Bookshelf https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3384204/
▽トウゴマ(ヒマ)
なかなか美しい植物で,観賞用の品種も開発されているようですが---
観賞用の品種Carmentica
Ricinus communis 'Carmencita' (Castor Oil Plant)
種子を採るために古来から栽培されてきました.
学名のRicinusは,ラテン語でダニを意味する言葉で、種子に,ダニに似たマークと先端のコブがあるためこの名が付けられたとのこと.
種子をとるための品種改良もすすめられ,現在でもインドを中心に一年に200万トンの種子が産生されているとのこと.かなりの量ですね.
ほとんどが「ヒマシ油(Castor Oil)」を採るためと考えられます.
▽ヒマシ油(Castor oil)
トウゴマの種子より搾油される植物油で,90%がリシノール酸エステル(⇨*)という珍しい脂肪酸組成をもつトリグリセリド.
長く下剤として使用されてきて(紀元前1550年のパピルスに記載がある),現在でも薬局方にその記載があり,販売もされています.使い勝手が悪く,現在はあまり使われていませんが.
現在の使用法としては,工業用が主で,石けん,潤滑油,染色助剤、乳化剤,塗料の材料等として用いられているとのこと.
⇨* リシノール酸は,オレイン酸に一つヒドロキシ基がついた反応性に富む脂肪酸.工業的な用途のいくつかはこの脂肪酸の特別な性質に由来しているようです:工業的なプロセスを調べきれませんでしたが,ニッポニカにその一端が記載されています.ひまし油とは - コトバンク
また,2012年,このリシノール酸がプロスタグランジンE2の「EP3受容体」を特異的に活性化する作用を持つことがみつかっています.
これにより,長らく不明だったヒマシ油の瀉下(しゃか)作用のメカニズムが明らかになりました.
ヒマシ油が妊産婦に忌避とされることもこの作用で説明できます.EP3受容体刺激は腸管だけではなく子宮の収縮も促進してしまう!
トウゴマの種子には,下記のように,猛毒成分リシンが含まれていますが,ヒマシ油をつくる過程で分離されるので,ヒマシ油が毒性を示すことはありません.
なお,日本版Wikipediaには「ヒマシ油にリシンが含まれている」といった間違った情報が書かれているので注意.
アメリカNIHの資料では:
“ヒマシ油は、急性および慢性的な状況下で毒性作用がほとんどなく、人間が摂取しても極めて安全です。
Castor oil is completely safe for human consumption with minimal toxic effects in both acute and chronic settings. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3384204/”
▽リシン
リシンは,トウゴマの種子に含まれる,たんぱく質でできた猛毒物質です.細胞のたんぱく質合成を強力に阻害することで,毒性が発揮されます.水溶性で,ヒマシ油の製造過程で分離されてきます.
アメリカCDCの紹介文の冒頭のみ,以下に引用しておきます.(DeepL翻訳)
リシンとは
リシンは,トウゴマの中に自然に存在する毒物です.ヒマシ豆を噛んで飲み込むと,放出されたリシンが傷害を引き起こす可能性があります.リシンは,ひまし油を加工する際に出る廃棄物から作られることがあります.
粉末,霧状,ペレット状,または水や弱酸に溶かすことができます.
通常の条件下では安定した物質ですが,摂氏80度(華氏176度)以上の熱で不活性化されることがあります.
リシンの存在場所
ひまし油の原料となるひまし油は,世界各地で加工されています.リシンは,ひまし油を作るときに出る廃棄物「マッシュ」の中に含まれています.
リシンは,がん細胞を殺すために医学的に実験的に使用されています.
リシンにさらされる可能性
リシンを作り,それを使って人を毒殺するには,意図的な行為が必要です.意図せずにリシンにさらされることは,トウゴマの摂取を除けば,ほとんどありません.
もし,リシンを部分的に精製したり,テロや戦争用の薬剤として精製したりすれば,空気,食物,水を通して人々に暴露することができます.
1978年,ブルガリア人作家でロンドン在住のジャーナリスト,ゲオルギー・マルコフは,傘を持った男に襲われ,死亡した.この傘は,毒薬リシンを皮下注射するためのものでした.
1940年代,米軍はリシンを戦争に使う可能性を実験していました.リシンは1980年代にイラクで,また最近ではテロ組織で使用された可能性があるとの報告もあります.
なお,リシンが使われたと疑われる事件の一覧がWikipediaに掲載されています.
List of incidents involving ricin - Wikipedia