「あしたのジョー 時代と生きたヒーロー」
NHK アナザストーリーズ 運命の分岐点 初回放送日: 2022年1月25日
視点3 女性が見つめたあしたのジョー(2)
1967年に漫画雑誌で連載が始まり、コミックスの発行が累計2千万部を超える不朽の名作。強者に敢然と立ち向かうジョーの姿は学生運動の若者たちに勇気を与えた。
劇作家の寺山修司はジョーのライバル力石の死を受けて葬儀を企画、その死の意味を問いかけた。
作家の角田光代はジョーに孤独の物語を見て、マラソン選手の有森裕子はジョーと自身を重ね五輪を2度走った。人々の心を動かしてやまない“あしたのジョー”とは何者か。
ライバル力石を失い、一度は落ちぶれていったジョー.しかし,不屈の闘志で,再びロングに舞い戻ってきます.そんなジョーを最後まで見守り続けたヒロインがいます.白木葉子.再び立ち上がり,真っ白になるまで戦い続けた男の姿に,彼女は何を感じたのでしょうか.
それぞれの道を究めた2人もまた,ジョーに心を奪われ,その戦いを見守ってきました.
あしたのジョーから受け取ったメッセージは,やがて彼女たちの人生にも影響を与えていきます.
女性が見たジョーの魅力に迫るアナザーストーリーズ.
角田「ジョーの魅力いって,やっぱり,ちっとも幸せそうじゃないってところですよね.彼が求めているのは幸せなんかじゃないってところかな.そういう人間,人物像ってあんまり見ないじゃないですか.幸せってほんとに人それぞれのもので,それを探してかなきゃいけないし,既成の幸せみたいなものに頼っちゃいけないんだっていうのを,多分,学んだような気がします」
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一方,有森裕子にとってジョーの物語といえば,
「あしたのジョー 時代と生きたヒーロー」 - アナザーストーリーズ 運命の分岐点 - NHK
あのシーンが象徴的だという.それはジョーの最後の試合.
(画像 ホセ・メンドーサ)
世界王者,ホセ・メンドーサとの一戦だ.無敵のホセに対し,ジョーはボロボロになりながらも,何度も立ち上がる.結局、試合には敗れたのだが、ジョーは全てを出し切った.
「燃えたよ.真っ白に---燃え尽きた----」「真っ白な灰に--------」.
そして.このラストカット.
https://www.buzzfeed.com/jp/ryosukekamba/joe
有森「ラストシーンの燃え尽きるっていう,燃え尽きるって言葉に,本当,憧れましたね,あの当時.そこまでやるんだ.そこまでやれるっていうことに,ものすごく憧れたし,そこまで追い込むことにすごく憧れましたね」
ジョーと出会ったのは小学生の頃.きっかけは,同級生の男の子だった.
有森「たまたま,私が小学校から、思いを寄せてた子がいて,その子が,小学校卒業するときに,あるじゃない,卒業アルバム,あれに将来の夢って書くところがあるんですけど,ボクサーになりたいって書いてある,ボクサーかって憧れて,わたしの従兄弟のお兄ちゃんが,漫画をすっごい持ってたんですよ.その中に,あしたのジョーがあって,で,あしたのジョーを読むようになったっていう」
その後,高校時代に長距離競技を始めたが,全国的には無名だった.思うように結果が出ない中でも,ひたすら走り続けた有森.社会人となってようやく頭角を現し,オリンピックのマラソン代表に選ばれた.
そして迎えた,1992年のバルセロナオリンピック.
解説者「辛抱ですよ.ここが辛抱ですよ」
アナウンサー「有森については,ここが一番苦しいところだと思います.現在,先頭,有森とエゴロワ」
前評判は高くなかった有森だが,優勝候補の1人と最後までデッドヒートを繰り広げる.
アナウンサー「大きな歓声を受けました.競技場に入りました.有森頑張れ.その差が縮まるかどうか.今,エゴロワがゴールイン」「笑顔が」「銀メダル.有森が銀メダルを獲得.第2位.よく頑張りました.」
有森「もうやった〜って感じでしたね.夢みたいだったんで.監督も,元々想像していなかった結果だったから---」
この時,脳裏に浮かんだのは,あの,真っ白になったジョーの姿だった.
有森「その時は多分--,やっぱ,あのラストシーンは,彼は死んだシーンなんですよ.私の中では.死ぬ.あそこまでやって燃え尽きた.だから私もそうであろうっていう.燃え尽きる.燃え尽きるっていうのは死んでもいいっていうね.そのくらいの勢いでっていう想いで,多分,あのバルセロナはあったんだと思うんですね」
日本女子マラソン史上初となるオリンピックでのメダル獲得.しかし,周囲の反応は意外なものだったという.
有森「まあ,メダルを取るっていうことは,その次にね,ステップアップっていう,皆と違う何かスペシャルなことを勝手に想像してたんですよね.自分の中で,こうなるんじゃないっていう感じでいたのに,言えば言うほど,天狗になってるとか,なんかわがままになったんじゃないとか,まあ,仕方ないよね,メダル取ってるからっていう,なんかそういうトーン,空気感」
達成感とはほど遠い,複雑な気持ちを抱いた有森.次のステップへと動き出したものの,足のけがで走ることができなくなり,入院を余儀なくされた.
有森「誰一人見舞いに来ないから.監督も来なかったですね.来たマネージャーは,いつ,引退する?っていう話をし,いやいやいや引退しない---.いや〜あの当時は,悔しさしかなかったですね.なんでメダル取ってこんな状態の自分がいるんだろう---」
それでも,再び立ち上がる.
有森「もう一度,私が人生,正しかったかどうかを知るにも,肩書き持たなきゃ.それの最たる肩書きと実績は何かというと.もうね,スポーツ選手は,悲しいかな,オリンピックしかないんですよ.オリンピックに出て,オリンピアンになって,メダルストになること.何色でもいい」
この頃,有森のもとに,思わぬものが届いた.有森がジョーのファンだと知ったちばてつやが,激励の色紙を送ってきたのだ.そこにはジョーに託したメッセージが.
“To Yuko. Have a nice run. I will run beside you at Atlanta. Love Joe.”
「一緒にアトランタの舞台を走ろう」
「もう----うれしかったですね.確か,ジョーの横顔だったと思うんですけど.大好きな,うん.生き生きとした眼の」
そして,何とかつかんだ、二度目のオリンピック.
ジョーとともにアトランタの舞台に挑んだ.
有森「よく,止めなかったですねって言われます.なんであきらめなかったんですか?っていうから,いや諦める理由はなかったからっていうふうに私は言えちゃうんですよね」
アナウンサー「さあ,ここで,有森裕子が満を持したようにスパートしました」
レース中盤まで,2位集団につけていたが,30キロ過ぎで,スパートをかける.
アナウンサー「もう足音が聞こえています.後ろに誰かがついてきたことは,しっかり感じています」「分かっているんでしょうか」
その後,一人の選手にかわされるも,何とか食いさがった.そして,
「有森,バルセロナの銀メダルに続いて,メダルは間違いない」
「あと5メートル.二大会連続のメダル.見事にフィニッシュ」
メダルは,前回の銀には及ばなかったが,全てを出し切っていた.
有森「メダルの色は,銅かもしれませんけど,終わってから,なんでもっと頑張れなかったんだろうというレースはしたくはなかったし,今回は,自分でそう思ってないし,初めて自分で自分を褒めたいと思います」
この時,思い浮かべたいたのも,ジョーのラストシーン.しかし,バルセロナの時とは違って見えたという.
有森「バルセロナ終わったら,ほんとになにか,気持ち死んじゃって,あれ,そうじゃダメなんだっていうことに気づき,あたふたして,結局,道に迷いっていう自分がいたことに気づき,アトランタ終えたときに,死んじゃダメなんだといおう,だから,死んだように見えるけど,あそこから,彼はもしかしたら別のシーンを想像してもいいのかもしれない.別のシーンになったのは確かです.ゴールしたら生きてなきゃ,しっかりと.しっかりと生きる先が見えなきゃ」
世代を超え,男女を問わず多くの人びとから愛された不朽の名作「あしたのジョー」.
今日がダメでも明日のために.ジョーが見せてくれた不屈の魂は,時を超え,困難な時代を生きる私たちにも勇気と希望を与え続けています.
東京,江戸川区.ここにジョーの名を冠したパン屋がある.
幼い頃からジョーに憧れていたという店主の間々田雄一.新型コロナウイルスは,多くの飲食店や小売店を直撃した.
間々田の店も一時は休業に追い込まれた.
それでも,なんとか営業再開にこぎ着けた.ジョーの生き様が,コロナ禍の困難に立ち向かわせたのだ.
間々田「あしたのジョーってタイトルにもあるように,あしたのために,あしたのために,っていう言葉がすごいいっぱい出てくるとおもうんですけど,先が見えない今みたいな世の中だからこそ,あしたのために何ができるかっていうのを考えながら,生きていかなきゃいけない時代なのかな〜って思いますよね」
どんな時代が来ようとも,ジョーが生きようとしたあしたが未来を灯し続けてくれることだろう.