3月14日.東京でじわじわと感染者が増え始めていた.「オーバーシュートが起こりうる」「感染爆発の重大局面」3月下旬,怖れていた欧米などからの第二波による感染拡大が現実のものになろうとしていました.分析では,第一波の震源地中国武漢からの感染者は11人.これに第二波が加わったことで,海外からの感染者が200人以上に.「流行が制御できない可能性が非常に高いと判断して,緊急事態宣言,法に基づく緊急事態宣言をするということを提言」NHKスペシャル 感染拡大阻止最前線からの報告2

NHKスペシャル 

新型コロナウイルス瀬戸際の攻防 — 感染拡大阻止最前線からの報告2

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https://www2.nhk.or.jp/hensei/program/p.cgi?area=001&date=2020-04-11&ch=21&eid=08383&f=46

2020年 4月11日(土) 21:00

アナウンサー 合原明子, 国際部デスク 虫明英樹

 

中国からの第一波を押さえ込み,国内での爆発的な感染拡大を食い止めた対策チーム.

3月14日.警戒していた事態が起きようとしていました.

人口1400万の東京で,じわじわと感染者が増え始めていたのです.

 

押谷「東京(で感染経路が不明の患者を)つなげないといけない」

メンバー「我々が思ってたよりもつながっていました」

押谷「だけどまだつながっていない」

メンバー「30位と思ってたら20.たくさんだすけど」

押谷「20はでかい」

 

対策チームが懸念していたのは,感染経路が不明な,孤発例と呼ばれる感染者の存在でした.それは,背後に未知のクラスターが潜んでいる可能性を意味しています.

これを放置すると,2−3日で,累計の感染者が倍増していくオーバーシュートを引き起こす恐れがありました.

 

押谷「ポツン,ポツンと出るやつがあちこちに出るっていうことは,その裏にあるものを僕らは見ていない事になるので,そういう意味で非常に危険な状況になっているということになる」

 

3月19日

押谷さんたちは,花見の時期を迎える3連休を機に,ウイルスの感染が拡大することを怖れていました.

対策チームは分析した情報を,政府や国の専門家会議に提供.助言を行う役割も担っています.

国内の感染者が1000人に迫ろうとしていた3月19日に行われた,国の専門家会議.

感染経路の分からない患者が継続的に増加する地域が全国に拡大すれば,大規模流行につながりかねないと,強い警鐘を鳴らしました.

 

尾身副座長「ある日,突然,爆発的に患者が急増するオーバーシュートが起こりうる」

 

しかし,東京の感染者の急増は止まりませんでした.

対策チームは,東京都にも感染者数の予測データを提示し,人々の行動を変える強い措置を取るべきだと助言しました.

 

そして,3月25日,東京都は感染爆発の重大局面として,週末の外出自粛を初めて呼びかけたのです.

 

小池都知事「感染爆発の重大局面と捉えていただきたいと存じます.この週末はお急ぎではない外出は,是非とも控えていただくようお願いを申し上げます」

 

この頃対策チームは,孤発例についての情報を少しずつつかみ始めていました.

多くの孤発例が生まれる場所として,浮かび上がってきたのだ,繁華街で接客を伴う夜間営業を行っている飲食店でした.

対策チームは,感染者の属性や前後の行動などを分析し,3割がこうした飲食店に関係していたのではと推定しました.

しかし,保健所による聞き取りも難航していたため,ウイルスがどこまで蔓延しているのか,全容がつかめない状態が続いていました.

 

今村剛朗東北大助教「現場の保健師さんたちは,すごく細かく情報をとってるんですけども,特にそういう夜のお店に行く方々って社会的地位もあってお金持ちでお店の方もある程度高級ラウンジとか,大事なお客様を守らなきゃという意識がよけい強い.

なので,そもそも語ってくれない.

どこに行ったのか,誰と食事したとか語っていただけないので,情報が集まりにくい.実際にどこで何が起きているのかっていうのを凄く絞りにくいということにはなっている」

 

外出自粛の呼びかけには,法的な強制力はありません.

どうやってクラスターの発生を押さえ込んでいけば良いのか,対策チームは議論を続けていました.

 

押谷「夜の街(のクラスターを)つぶすのに,どういうアプローチが一番良いのか.急事態宣言をすることがいいのか,それとも,もっと何か---」

メンバー「お願いベースで,それではダメか」

押谷「もっともっと時間があれば,ちゃんと一般の人に訴えかけていけるかなと思うけど,

ちょっとそれを待っていると,毎日,大変なことに突き進んでいって,医療崩壊してしまうと,一気にパニックのような状態になって,潮目が変わってしまうみたいな.そういうことを防がないといけない」

 

3月28日

この日,解析された東京の再生産数は1.5(約2週間前のデータを反映)となっていました.

1を下回れば収束に向かいますが,逆に上昇傾向にありました.

 

西浦さんは,夜の繁華街でのウイルスの蔓延を防ぐため,東京都に対策を直接訴えることにしました.

どんな店で感染が広がっているかを具体的にデータで示し,さらに,強い警鐘を鳴らしてほしいと考えていたのです.

西浦「“夜間の外出自粛を出したらどうですか”というような,こちら側から,お話しできるオプションを幾つか整理してお届けしたら,“なるほど”という話はして下さって」

 

映像:同郷と新型コロナウイルス感染症対策本部会議

この二日後,東京都は,カラオケやライブハウス,そして,バーやナイトクラブなど,具体的な名前を挙げて,出入りを自粛するよう呼びかけることを決めました.

 

緊急会見には,西浦さん自身も参加して,都民と危機感を共有しようとしました.

西浦「東京都民の皆様におかれましては,外出自粛で大変ご不便おかけしていることをお詫び申し上げます.

実際の調査では,保健所の積極的疫学調査に応じていただけない患者も多いということをクラスター対策班の情報として聞き受けております.

介入がそのため一部困難であると想像される一方で,積極的に対策を講じなければならない数の伝播が始まっているものと考えられます」

 

国内で,最初に新型コロナウイルスへの感染が確認されてから2ヶ月半.

独自の戦略でウイルスと対峙してきた日本は,更なる危機に直面しようとしていました.

 

 

合原アナ「スタジオには,VTRでもご紹介しました,厚生労働省クラスター対策班のメンバーで,東北大学大学院教授の押谷仁さんにお越し頂いています.よろしくお願いします」

虫明デスク「押谷さんたちは,流行の第一波に対して,クラスター対策を中心に行ってきたと思うんですが,現在は,緊急事態宣言が出されたことで,次のフェーズに入っています.

今どういった対策が求められているんでしょうか」

押谷「我々の戦略の目的はですね.“いかにして社会的,経済的な影響を最小限にしながら,このウイルスの拡散を最大限抑えていく” ということでした.

マニュアルが存在しない未知のウイルスに対する対策で,対策のオプションはいろいろなことが考えられました.

ただ,有効なワクチンというような切り札がない中で,対策の主体は公衆衛生学的なやり方にならざるを得ません.

公衆衛生学的な対策の基本としては,地域の流行状況に応じて,対策を強化したり,緩めたり,ということをしていくことです」

 

合原アナ「どういった対策があるかというのを,ボードでご紹介します.

新型コロナウイルスの効果が右に行けば行くほど大きくなること,そして,縦軸は社会的・経済的ダメージが上に行くほど大きくなることを示しています.

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例えば,中国武漢のロックダウン(都市封鎖)は,こちら(右上隅)になります.対策の効果も大きいんですが,社会へのダメージも大きくなるというものです.

一方で,今,世界中で開発しています有効なワクチン.この位置なんですが,開発には時間を要しているという状況です」

 

虫明デスク「押谷さん,日本はですね.経済的なダメージをできるだけ抑えながら効果を得るクラスター対策からスタートしたと.こういうことですね」

押谷「そういうことですね.クラスター対策は,比較的,社会的経済的なダメージも少なくて,一方で,このウイルスの特徴を考えると,ある程度有効な対策だと考えられます.

ただし,クラスターを早期に見つけて潰していくだけでは,なかなか効果的ではないので,クラスターが起こる条件を見つけたと.

それが,いわゆる三密と言われるような条件です.

こういう場をできるだけ避けて頂くように,要請していく,ということで,ある程度流行が抑制されると考えています」

 

虫明デスク「これまでクラスター対策だけだったんでしょうか?」

押谷そうではなくて,流行がある一定のレベルに達してしまうと,クラスターを見つけることが非常に困難になります.

実際に,我々が政府に対して提言をするというような活動を始めたのは,2月の25日だったんです.

2月の27日には,北海道がそういう状況になっていると,そういう蓋然性が非常に高いと我々は判断して,北海道地域に28日にそのことを説明して,北海道知事の判断で,法に基づかない緊急事態宣言,及び外出の自粛をしたという事になります」

虫明デスククラスター対策だけでなく,外出自粛も組み合わせて---.それによって北海道の情勢を落ち着かせることはできたと」

押谷「そうですね.人と人との接触をできるだけ避けるような外出自粛等の対策を北海道では行ったということになります」

虫明デスク「その後また,状況が変わってきたということでしょうか」

押谷「そうですね.北海道の状況よりも現在の状況は,更に悪化している.

更に感染が拡大して,北海道でやった程度の人と人の接触を避けるという対策では,流行が制御できない可能性が非常に高いと判断して,緊急事態宣言,法に基づく緊急事態宣言をするということを提言したということになります」

虫明デスク「これは今週出されたものということですね」

押谷「はい」

虫明デスク「このあと,日本の位置というのは,ここから変わって行くのでしょうか」

押谷「緊急事態宣言を出したことによって,強力な皆さんの行動変容が起こるとですね,いったんは感染が急速に収束の方向に向かうということが期待できます.

そうなると,もう一度クラスター対策ができる状態になる.しかも,今の強力な外出の自粛ということがなくても,ある程度このウイルスを制御できるような状況になると期待されます」

虫明デスク「そうしますと,もう一回,普通の生活に近い所まで戻していく可能性があと一ヶ月で出てくる可能性があるわけですね」

押谷「そうですね.それは,皆さんがどこまで行動変容ができるかとにかかっていると思います」

 

虫明デスク「ウイルスを押さえ込むという感染症対策として,PCR検査をもっとやった方がいいという意見がずっと出ていかと思うんですが.

前回ご出演頂いたときには,むやみに検査を広げるのは,病院などでの院内感染などを起こして,危険だというお話しをされていたと思うんですが,現状というものをどういうふうに考えたらよろしいんでしょうか」

押谷「我々が,政府に提言をするという活動を始めた2月の25日の時点で,すでに国内では150例以上の感染者が出ていました.北海道だけではなくて,かなり広範に感染者が見られていて,いわゆる孤発例.感染源がわからない感染者も,その中に相当数含まれていました.つまり,その時点で,シンガポールや韓国で行われたPCR検査を徹底的にやる事だけでは,感染連鎖を全て見つけることができないような状況にありました.

で,そうなると,そういう状況を政府に説明をして.その状況だと,このウイルスは症状がない,あるいは,非常に軽症の人が多いので,その状況でほんとに全ての感染者を見つけようと思うと,日本に住む全ての人を,一斉にPCRをかけないといけない,ということになるので,それは到底できないことなんで,そうなると,我々の戦略としては,クラスターを見つけて,そのクラスターの周りに存在する孤発例を見つけていく.その孤発例の多さから,流行規模を推定して,それによって,対策の強弱を判断していくろいう戦略になります.

で,これを支えてきたのはですね,保健所,自治感染症研究所からのデータ.さらには,それを疫学的に解析してきた我々のチーム.でそれを数理モデルで推定してきた西浦さんたちのチームです.

当初のクラスター検査は,クラスターを見つけるきっかけとなる感染者,さらに,クラスターの調査,さらに重症者を見つけるには十分な検査がされてきたというふうに考えています」

 

合原アナ「押谷さん,高熱が出ても,保健所と病院をたらい回しになってしまって,検査が受けられないという不安の声も多いんですけど,そういった声に対しては,どのように受け止められていますか」

押谷「現状は,様々な理由で,PCR検査を行う数が増えていかないという状況です.

本来,医師が検査を必要と判断しても,検査ができないというような状況は,あってはいけない状況だと思います.

当初は,先ほど言ったように,十分なクラスター戦略を支えるのに十分な,さらに,重症者を見つけるのに十分なPCR検査がなされていたと判断しています.

一部に,本当に検査が必要で,検査がされていない例があったということも,我々は承知しておりますけれど,

しかし,クラスターさえ起きなければ,感染が広がらない,さらに,多くの症例で,軽症例,もしくは症状のない人ということを考えると,全ての感染者を見つけなくても,多くの感染連鎖は,自然に消滅していくというウイルスなので,ここがインフルエンザとかSARSというようなウイルスとは全く違うウイルスだということになります.

明らかな肺炎症状があるような重症例については,かなりの割合でPCR検査はされていたというふうに,我々は考えています.

しかし,現在,感染者が急増している状況の中で,PCRの検査が増えていかないという状況は明らかに大きな問題です.(⇒*)

このことは,専門家会議でも繰り返し提言をしてきて,基本的対処方針にも,記載されていることです.行政も様々な形で取り組みを進めていることは承知していますけれど,十分はスピード感と,実効性のある形で,検査センターの立ち上げが進んできていないという状況が今の状況を生んでいる.というふうに理解しています.

しかし,いくつかの地域では,自治体,医師会,病院などが連携して,検査や患者の受け入れ体制が急速に整備されているという状況です.そのような地域では事態は好転していくと私は信じています」

 

合原アナ「連携が取れていれば事態は好転するということですが,

当初私たちが直面していたのは,中国から始まったウイルスの第一波だったんですが,現在は欧米などから流入したとみられますウイルスの第2波によって,感染が拡大しています.

 

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https://hazard.yahoo.co.jp/article/20200207

 

3月下旬,対策チームが怖れていた欧米などからの第二波による感染拡大が現実のものになろうとしていました.

 

対策チームの分析では,第一波の震源地中国武漢からの感染者は11人.

これに第二波が加わったことで,海外からの感染者が200人以上に増えたとみられていたのです.

押谷「(第一波の流行が)完全に収まってはいないところに,第二波が始まってしまったので,第二波は,より厳しい闘いになる.

やっぱり,我々もより強い対策をやらないと,これは乗り切れなくなる」

 

続く

 

⇒*

新型コロナウイルス感染症:感染ピークを抑えている?」

岩田健太郎神戸大学医学研究科感染治療学分野教授)

日本医事新報【識者の眼】No.5007 (2020年04月11日発行) P.56

https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=14366

 

新型コロナウイルス感染対策は封じ込めのフェーズは終わった、これからは感染のピークを下げて、ずらす方向にシフトすべきだ」という専門家会議の見解を耳にした。

 

この大方針は概ね、正しい。急激な、指数関数的感染拡大が起きてしまうと中国・武漢のように万単位の患者が発生し、たくさんの死亡者が出る。韓国もこれで苦しんだ。本稿執筆時点ではイタリア、フランス、スペインといったヨーロッパ諸国で同じことが起き、米国ではニューヨークが同じように苦しんでいる。急激な患者の拡大は医療を圧迫し、医療者を疲弊させ、医療リソースは枯渇する。それは結局患者のアウトカムにもネガティブに作用する。

 

急峻な感染ピークを押さえ込めば、これを回避できる。ただし。それは「感染ピーク」をきちんと把握できている場合に限る。ピークを把握できていなければ、それが高いとか低いとか、抑えているとか、抑えていないとかを論ずることはできない。

 

韓国と日本の検査数の違いが何度も議論されているが、意味のない議論だと私は思う。検査は感染者数の反映だ。その逆ではない。感染者が一気に激増した韓国では当然たくさんの検査を必要とした。日本ではそんな感染者の増加はない(執筆時点では)。必要ない検査はしなくてよい。ただ、それだけだ。問題は、東京などで感染者の数が増えていることだ。増えているならば検査も当然増やさねばならぬ。

 

東京都の新型コロナウイルス感染症対策サイトには都の検査実施件数がグラフ化されているが、医療機関が保険適用で行った検査は含まれていないhttps://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/

これによると3月25日の検査数は108件だ。一方、厚生労働省の資料によると同日行った保険適用分の検査数は民間検査会社で139件、大学で34件、医療機関で23件、合計196件だった。全国で、であるhttps://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000614793.pdf?fbclid=IwAR3zpt9tu9Hs2NXgSCYA8D7BSbxJVKivQKiieYgrX10zivm7IUtXHWYkMpk

 

では、東京都の真の検査数は何件だったのだろうか。3月25日の都の検査陽性者数は41人だった。私見だが、感染者がきちんと捕捉されているであろう、最低限の適切な検査数は、陽性者が検査数の10%未満に収まっている時だと考えている。とすると、25日の適切な検査数は東京都で410件以上ということになる。これでは全く足りていない。

 

感染ピークは抑えるべきだ。が、陽性者数を捕捉しきれず、「感染ピークが抑えられているかのように勘違いしている」状況は実に危険だ。それは将来のもっと巨大な感染ピークの予兆だからだ。

 

大事なのは事実だ。願望ではない。ピークを抑えたいという願望が、ピークという事実から目を背けさせる根拠となってはいけない。日本は大丈夫だろうか。

 

 

<コロナ緊急事態>港区、民間でPCR検査 時間短縮 翌日には結果判明へ

東京新聞 2020年4月14日

 

 港区は十三日、みなと保健所のPCR検査で民間の検査機関の利用を始めたと発表した。結果の判明までの時間を早めるという。

 

 みなと保健所で検体を取り、都健康安全研究センターだけに検査を依頼してきたが、四月に入って検査数が増え、結果判明まで数日かかる状況が続いていた。現在は一日に二、三十件の検体を採取しており、担当者は「不安に思っている方に早期の診断結果を提供し、適切な医療につなげ、命を守りたい」と話す。

 

 検査対象は区内の病院で診察を受けた人と、「帰国者・接触者相談センター」から紹介された市民で、今後は翌日には結果が判明するという。

 

 また、感染が判明した人を病院に搬送するため、保健所専用の車両二台と運転手を新たに確保した。民間救急コールセンターを通じて救急搬送会社に依頼していたが、三月中旬から確保に時間がかかるようになっていた。(市川千晴)