BS1スペシャル「ウイルスVS人類~未知なる敵と闘うために~」2
2020年3月19日(木) 午後9時00分(50分),2020年3月28日(土) 午前0時20分(50分),2020年4月1日(水) 午後9時00分(50分)
https://www.nhk.or.jp/docudocu/program/2443/2416283/index.html
出演者ほか
【出演】東北大学大学院教授…押谷仁,国立環境研究所 室長…五箇公一,作家…瀬名秀明,【解説】中村幸司
人類の命を最も奪ってきたもの.
それは,戦争でも自然災害でもなく,ウイルスや細菌の感染爆発,パンデミックだ.
14世紀,ヨーロッパで大流行したペスト.およそ一億人を死に至らしめた.
ウイルスが一つの文明を滅ぼしたこともある.
科学ジャーナリスト/ローリー・ギャレット「コロンブスがアメリカ大陸に上陸した頃,アラスカからチリまで広範囲に暮らしていたアメリカ・インディアンたちには,梅毒やはしか,インフルエンザに対する免疫能力が全くありませんでした.
私たちは,アメリカ・インディアンたちを征服したのはスペイン人でありポルトガル人だと思っていますが,抹殺したのは病原体だったのです」
16世紀,スペインのピサロやコルテスが南米大陸に上陸し,インカやアステカの国々を征服した.
僅かな兵力で勝利を収めた理由は,銃や鉄製の武器に加え,スペイン人が感染症を持ち込んだからだ.この時代,免疫がなかった南北アメリカの先住民,およそ5600万人が死亡した.
1918年に全世界で8億人が感染したのが,スペイン風邪と呼ばれるインフルエンザのパンデミックだ.
第一次世界大戦の末期,戦死者1000万人をはるかに超える4000万人以上の死者を出した.
1957年のアジア風邪というインフルエンザでは,世界で200万人が亡くなった.
新しい感染症が登場するたびに,人類はワクチンを開発.ウイルスに対抗してきた.
しかし,常に未知のウイルスが襲いかかる.
1997年には強い毒性を持つ鳥インフルエンザウイルスH5N1が,香港で初めて人に感染.6人の死者を出した.科学者たちは,鳥インフルエンザウイルスが変異を起こすことを懸念している.
例えば,ヒトのインフルエンザウイルスかかった人がトリのインフルエンザウイルスにも同時に感染した場合,一つの細胞の中で,両方のウイルスの遺伝子が組み変わり新たなウイルスが生まれる可能性があるのだ.
このほか,ヒトとトリのインフルエンザウイルスにブタの体内で混ざり合うケースや,遺伝子そのものが突然変異するケースもある.
こうした新型のウイルスが,ヒトからヒトへと感染する事態が,怖れられている.
もし,強い毒性と感染力をあわせ持つ新型のインフルエンザが登場し,パンデミックを起こせば,その被害はすさまじいものになる.
国立感染症研究所の想定では,東京の一人の感染者から,わずか2週間で35万人に拡大していくおそれもあるという.
実は世界は,強い毒性を持つタイプには警戒を強めていた.
ところが,想定通りにはいかないのが,人類とウイルスとの闘いだ.
WHO事務局長(当時)「世界で,今,新型インフルエンザのパンデミックが始まろうとしています」
2009年にメキシコで発生し,パンデミックを起こした新型インフルエンザ(H1N1)はブタ由来のもの.
だが,毒性はそれほど強いものではなかった(死者約1万9000人うち日本人203人).
いつのまにか,季節性のインフルエンザと同じ程度になっていった.
次第に人類は警戒を弱めてしまった.
そして今回,11年ぶりに世界的なパンデミックを起こしたのは,インフルエンザではなく,対策の準備を全くしてこなかった新型のコロナウイルスだったのだ.
瀬名「今まで,我々はいろいろなパンデミックや感染症の脅威というものを,人類の歴史の中で体験してきたわけですよね.ところが,今回は過去に学んでいたはずなのに,過去の経験とは全く違った想像力が必要とされる事態になってしまった」
押谷「21世紀に入ってSARSから,いろんな高病原性鳥インフルエンザとか,いろんな流行があって,それは,本当は自然からの警告で,人類がもっと真摯にその警告を受け止めなきゃいけなかったんですけれども,2009年のパンデミックが,それほどでもなかった,重症例が少なかった,死亡例が少なかった,というふうなこともあって,その警告をきちんとうけとめられなかったということで,準備ができてこなかったと」
五箇「僕自身は,外来生物対策してますけど,外来生物一つとっても,例えばヒアリなんていうのは,アメリカではこういうパターンで巣を作って広がるとか,中国ではこういうパターンで巣を作って広がる.その共通項をもって,日本でもこうなるだろうと想定をして,マニュアル作ってたら,ところが,今回,品川の大井埠頭で出てきた巣は,全く違った形で巣を作ってたと.要は,土がない,砂もないというコンクリートの中で,彼らはちゃんと巣を作れたと,これは全く我々が想定してなかった状態だったですね.
要は生き物,ウイルスは生き物ではないんですが,そういった野生において生存しているものたちは,常に進化するし,順応的であるし.だから,我々の人知を超えたところで,彼らはどんどんどんどん,新しい住みかを探していくわけですよね.
だから,ウイルスの場合も同じで,前はこうだったからという想定でやってたんでは,とても追いつかない」
未知のウイルスと戦う人類.
そのリスクを更に高めているのが,人類が排出する二酸化炭素の増加による地球温暖化だ.
シベリアの永久凍土で,フランス国立科学研究所などのチームが,3万年前の地層から,モリウイルスという新種のウイルスを発見した.
温暖化によって永久凍土が解けた場所で見つけたこのウイルス.極めて増殖能力が高い,全く未知のものだった.
フランス国立科学研究所シャンタル・アベルジェル「無数のウイルスが,海や大地のあらゆる場所に存在します.永久凍土が掘り起こされ,人類がウイルスに感染する機会が増えます.リスクは必ずあります」
リスクは森林にも広がっている.
1998年,マレーシアでニパウイルスと呼ばれる,それまで全く知られていなかった病原体が人に感染.100人以上の死者が出た.
ニパウイルスはオオコウモリから発見された.
マレーシアでは,養豚業が盛んになるにつれて,森林が切り開かれ,大規模な養豚場が作られるようになった.その結果,今までジャングルに潜んでいたウイルスが,ブタを介してヒトへと感染していったと見られる.
温暖化はウイルスの拡散も加速させる.
その一つが,蚊が媒介するジカウイルスの感染症,ジカ熱だ.
妊婦に感染すると,胎児の発育に影響し,脳が未発達のまま生まれることもある危険なウイルスだ.
ブラジルの感染者「ジカ熱がこんなにも残酷だなんて」
従来,ジカウイルスの感染は赤道付近の熱帯地域に限られていた.しかし,温暖化の影響で,媒介する蚊の生息域が拡大.今や,日本での感染も危惧されている.
昭和大学小林睦生「温暖化が進めば,広範に,こういうジカ熱のような蚊が媒介する感染症が流行するリスクが明らかに高まるだろうというふうに私たちは考えています」
瀬名「もう,この10年をとっただけでも,社会の環境が大きく変わっていると.そうすると,ぼくらも人間ですから,自然界の一部ですよね.我々が自然界を大きく変えてしまったところもある」
五箇「気候変動ですね.それを引き起こしているのは,結局は,巨視的に見ればやっぱり南北格差から始まる経済格差を埋めようとする中での工業発展という,そういったものが途上国でものすごい勢いで,その速度がかつての先進国以上に速い速度で起きている.
そうすると巨視的に見ると,生物多様性のホットスポット(保全の重要地域)といわれるエリアのまん中でそういうことが起こる.だから,開発と破壊,森林伐採.そういったものが急速に進む中では,そこに閉じ込められていたウイルスたちが,今,まさに,新たなる住みかとして人間という住みかを得て,それが,今,北と南がつながることで,今,北の人口密集地に入り込むという図式が,もう1980年代以降から,ずーっと続いているわけですよね.気候変動を起こしている,その開発,それとそういったグロ−バル化というものに,実は,このウイルスがすごい勢いで便乗しているという状況にある.
南の人たちが森を切らなくてもいいようにするにはどうしたらいいかっていうのが,大きな,やっぱり課題なんだけど,いまだそこのゴールには,到底たどりつかない.
そのしっぺ返しとして,今,感染症の問題も起こってる」