旧優生保護法は「違憲」 賠償請求は棄却 仙台地裁判決  慶応大教授・小山剛氏 請求が棄却されたことに原告は不満だろうが,明確に違憲と断じ,立法府に対応を促した判決の意義は大きい.今後も救済立法の不作為を国が漫然と継続した場合には,将来,同様の国家賠償請求が認められうることを示唆している. 立教大教授・関礼子氏 「悪法も法なり」との観点で,差別が正当化された社会の中で声を上げられなかった弱い立場の人たちの置かれた状況を全く踏まえていない. 毎日新聞5月28日  

優生保護法は「違憲」 賠償請求は棄却 仙台地裁判決

毎日新聞2019年5月28日 15時10分(最終更新 5月28日 17時40分)

旧優生保護法を問う:旧優生保護法は「違憲」 賠償請求は棄却 仙台地裁判決 - 毎日新聞

優生保護法(1948~96年)下で不妊手術を強制されたのは憲法13条の幸福追求権などに違反していたとして,宮城県の60代と70代の女性2人が計7150万円の損害賠償を求めた国家賠償請求訴訟の判決が28日,仙台地裁であった.

中島基至裁判長は,旧法の違憲性を認めた一方,原告の請求は棄却した.不法行為から20年で損害賠償請求権が消滅する「除斥期間」が過ぎていることを理由にしている.

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 全国7地裁で計20人が起こした国賠訴訟のうち判決は初めてで,旧法をめぐる憲法判断も初めて.旧法の違憲性が明示されたが,賠償が認められなかったことで,原告側は控訴するとみられる. 

 訴訟は昨年1月,「佐藤由美」を仮名にしている知的障害者の60代女性が,15歳で不妊手術を強制されたとして全国で初めて仙台地裁に提訴.

同5月には「飯塚淳子」の仮名で被害を訴える70代女性が,16歳で手術を強いられたとして同地裁に提訴した.その後,両者の審理が併合され,今年3月に結審.中島裁判長は「旧法の憲法判断を回避しない」と予告していた.

 一方,国側は民法除斥期間国家賠償法の存在を理由に請求の棄却を求めていた.原告の請求額は,60代女性が3300万円,飯塚さんが3850万円だった.【伊藤一郎,遠藤大志

優生保護法

 ナチス・ドイツの断種法をモデルにした国民優生法が前身.終戦直後の1948年,法文に「不良な子孫の出生防止」を明記し,議員立法で成立.国は施行後,「だまして手術してよい」と都道府県に通知し,強制性を強化した.国際的な批判を背景に96年,障害者への差別的条項を削除して母体保護法に改定.「強制」「任意」合わせ少なくとも2万4991人が手術された.

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強制不妊訴訟仙台地裁判決 救済遅れの責任問わず

毎日新聞2019年5月28日 22時09分(最終更新 5月28日 22時42分)

https://mainichi.jp/articles/20190528/k00/00m/040/254000c

mainichi.j 旧優生保護法を巡って初めて下された28日の仙台地裁判決は,旧法の違憲性を明確に認めた一方,少なくとも現時点では立法措置が必要不可欠だったとはいえないとして賠償請求を退けた.

結果的に主張が認められる形となった国は安堵(あんど)するが,原告らは違憲判断を背景に引き続き国に謝罪を求める構えだ.

 

「議論少なく」で国免責

 判決は,原告の人権侵害を正面から捉え,憲法13条に規定されている幸福追求権から「新たな人権」を導き出し,旧優生保護法憲法に反していたと明確に指摘した.しかし,立法措置を講じなかった国の責任についての判断では,一転して慎重姿勢をみせ,敗訴判断を導いた.

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慶応大教授・小山剛氏(憲法学)

 裁判長が「憲法判断を回避しない」と述べたことから注目された判決は,原告の請求を棄却した一方,旧優生保護法を「個人の尊厳を踏みにじるもの」として違憲・無効であると断罪した.請求が棄却されたことに原告は不満だろうが,明確に違憲と断じ,立法府に対応を促した判決の意義は大きい.被害者救済法にも大きく影響を与えることになるだろう.

 適切な被害救済を怠ってきたとする国の立法不作為については,「立法措置をとることが必要不可欠」と言及しながらも,国会にとってその必要性は明白ではなかったとの理由で「少なくとも現時点」では違法と評価できないとしている.このことは裏返せば,今後も救済立法の不作為を国が漫然と継続した場合には,将来,同様の国家賠償請求が認められうることを示唆している.

 この判決によって,ボールは再び立法府に返された.4月下旬に施行された被害者救済法は,旧法が合憲であるとの前提に作られたもので,給付金の趣旨や金額,救済制度を積極的に周知する仕組みなどの面で立法府には再検討が求められる.【聞き手・安達恒太郎】

 

立教大教授・関礼子氏(環境社会学

 旧優生保護法違憲性を認めながら,それを推進してきた国の賠償責任も立法不作為も認めなかった.司法の判断は,「悪法も法なり」との観点で,差別が正当化された社会の中で声を上げられなかった弱い立場の人たちの置かれた状況を全く踏まえていない.障害のある人もない人も共生できる社会を目指す「ノーマライゼーション」の理念が広がりつつある今,司法は時代と呼吸していないと言わざるをえない.

 人権救済の点で,権利を行使するにはあまりにも弱い人たちと,国との力関係には歴然とした差がある.そうした弱者の声を積極的に拾うことが国や司法にも求められるのではないか.

 多くの人は,旧法が人権感覚から大きく逸脱していると考えると思う.ただ,時代錯誤な法律がつい20年ほど前まで存在し,今回の判決によって声を上げても報われない弱者が存在することが浮き彫りになった.こうした弱者の声に耳を傾けてこなかったのは私たち自身でもある.どこにでも潜む差別や人権侵害の芽を摘むには,私たち自身も,すぐそこにある「歴史」について議論することが大切だ.【聞き手・二村祐士朗】

 

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