別名バッカスの方がよく知られているかもしれません.とても有名な神ですが,ギリシャ神話の中では新しい神とのこと.山室静 ギリシャ神話
また,オリュンポス十二神には入れないのが一般的ですが,数えられる場合もあるとか.
豊穣とブドウ酒と酩酊の神(ディオニューソス - Wikipedia).
英語版ウィキペディア(Dionysus - Wikipedia)では
God of the vine, grape harvest, winemaking, wine, ritual madness, religious ecstasy, and theatre.とありましたから,
ブドウ酒(wine)だけではなく,
ブドウの木(vine),ブドウの収穫(grape harvest),ブドウ酒づくり(winemaking),の神.
酩酊の神といっても,
もともとは儀式での狂気(ritual madness)や宗教的なエクスタシー(religious ecstasy)の神のようです.
また,英語版では劇場(theatre)の神も加わっていました.演劇の神とされてもいます.
魅力的な神で,多くの文学や絵画/彫刻,そしてゲームのキャラクターとしても取りあげられています.
ディオニューソスは,ゼウスとテーバイの王女セメネーの子.この誕生にはまたしてもゼウスの妻ヘーラーがからみ,嫉妬によって,セメネーは死んでしまいます.
(ただし,別のバージョンもいくつか. Dionysus - Wikipedia )
以下は
ディオニューソス - Wikipedia Dionysus - Wikipedia,“完訳 ギリシア・ローマ神話〈上〉 (角川文庫) トマス ブルフィンチ” “ギリシャ神話 山室静(グーテンベルク21)から幾つかの物語をまとめてみました.
誕生
ゼウスの妻ヘーラーは,セメレーがゼウスの愛人であり,彼女が妊娠していることを知りました.
そこで,セレメーの年取った乳母の姿に身を変えると,彼女に
「恋人として通ってくる男は,本当にゼウスその人かしら?」といってそれとなく疑わしいことをほのめかしました.
そしてため息をついてこういったのです.
「婆やは心配せずにはいられないのです.世の中にはうわべと同じものばかりがあるわけではないのですから.ですからほんとうにゼウス様でございましたらその証拠を見せておもらいなさいまし.
天上で身につけておられるような冑(かぶと 雷霆〈らいてい:激しい雷〉のこと)を身につけて来るようにいってごらんなさいまし.そうすれば疑いは晴れるでしょうから」
セメレーは内でふくらむ疑惑に耐えきれず,それが何であるかを明かさずにゼウスにねだります.
ゼウスは何でもかなえてやろうと約束し,そのうえ,ステュクス河の神を証人として,絶対に取り消すことのできない誓いを立ててしまいました.
そこで彼女は自分の願い事を明かしました.
「ヘーラー様に会う時と同様のお姿でいらしてください」
ゼウスは途中で彼女の願いを止めたいと思いましたが,もう手遅れでした.言葉は大気の中に逃げてしまって,ゼウスには自分の約束も彼女の願いも取り消すことはできませんでした.ゼウスは深い悲しみに沈みながら彼女の元を去って行きました.
そして,冑を身につけたのですが,むかし巨人族(ギガンテス)達を打ちのめした時のような恐ろしい冑は使わず,神々の中で第2の武器として知られている弱い冑を使いました.
ゼウスはこれを身につけるとセメレーの部屋に入っていきました.
しかし,神ならぬ彼女の体は,この天界の輝きをもった冑の光に耐えることはできませんでした.彼女は焼きつくされて灰となってしまったのです.
Dionysus: Born of a Virgin on December 25th, Killed and Resurrected after Three Days
ゼウスはヘルメースにセメレーの焼死体から胎児のディオニューソスを取り上げさせ,それを自身の腿(もも)の中に埋め込み,臨月がくるまで匿(かくま)いました.
生まれてきたディオニューソスは,ヘルメースにその後を任せました.
一説ではアタマースとイーノーが,ヘーラーの嫉妬から守るために,娘として育てられました.
Mythology: “Dionysus, Greek God of Wine and Fertility”.- | La Audacia de Aquiles
また別の神話では,ゼウスは幼児のディオニューソスをニューサのニンフ,ヒュアデス達に預けました.ヒュアデスというのは,“雨を降らす女たち”という意味です.ゼウスは後に彼女たちの労をねぎらって,天上にあげて,雨を降らす星(牡牛座の頭の方にある群星)にしてやりました.
ディオニューソスは成長すると,ブドウの栽培法と果汁をしぼり酒を造る方法とを発見しました.
しかしヘーラーは彼の気を狂わせ,追い出して世界の各地を放浪させます.プリュギアに来たとき,女神のレアーが彼の狂気を治し,その秘教の祭礼を教えてくれました.
ディオニューソスは,いたるところでブドウの栽培や酒の造り方を教えます.
彼の巡礼でもっとも有名なものはインドへの遠征で,それは数年にわたって続いたといわれています.
多くの土地をさすらったディオニュソースには,様々の伝説がまつわっています.
ミーノース王の娘のアリアドネーを救って妻とした話も.
アテーナイの王アイゲウスの息子テーセウスは,自らすすんで怪物ミーノータウルスへ差し出す生け贄の1人となり,クレーテーに送られます.
クレーテーの姫アリアドネーは,テーセウスの姿を見て深く思いを寄せるようになり,彼もまたすすんでその恋に報いました.そこで彼女は一ふりの剣を彼に与えて,これでミーノータウルスと戦うように告げます.テーセウスは首尾よく怪物を殺して迷宮を逃れると,助けた仲間の者達とアテーナイ指して出帆しますが,途中のナクソスの島で彼女を置き去りにしてしまいました.これは,アテーナーが夢の中に現れてそうせよと命じたためです.
置き去りにされたアリアドネーは,哀しみに身を沈めます.しかし,アプロディーテーは彼女を哀れに思い,失った人間の恋人のかわりに,天上の恋人を授けようからと約束して彼女を慰めてやりました.
アリアドネーが置き去りにされたナクソスの島は,ディオニューソスが子供の頃から気に入りの島でした.アリアドネーが自分の運命を嘆き悲しんでいると,ディオニューソスがその姿に目をとめ,彼女を慰め,そして自分の妻にしました.
結婚の贈り物には宝石をちりばめた黄金の冠を与え,彼女が死んだ時にはその冠をとって大空に投げ上げました.冠は星になり,ヘーラークレス(ヘルクレス座)と蛇をつかむ男(へびつかい座)との間の星座(かんむり座)になっています.
このアリアドネーの物語は,ディオニューソスが持つ慈悲深い側面が,十分に表されている挿話ですね.