ギリシャ神話の主神ゼウス(英語名ジュピター)の姉弟にして妻;
ヘーラー(ヘラ,ヘレ.英語名ジュノー).
全知全能の神の妻ですから,美しく知的な女性に違いないのですか---.
ギリシャ神話を知って,ヘーラーを好きになる方は,あまりいない?
結婚をつかさどる神で,妻の保護者.
ゼウスが浮気すると大いに嫉妬して,その愛人をひどく罰したりちょっとしたことで怒って,大きな不幸を人間にもたらすこともあって,立派には描かれていない.牡牛と孔雀が彼女のお気に入りの動物だった.(ギリシャ神話 山室静)
しかし,印象に残る物語の多くに彼女が重要な役回りで登場します.そして,彼女の嫉妬心がなくては,ギリシャ神話は成立していない?と思わせる活躍ぶり.
英語版ウィキペディア Hera - Wikipedia で
“ヘーラーが登場する主な物語(Important stories involving Hera)”
2.レートーと双子の子供アポローン&アルテミス(Leto and the Twins: Apollo and Artemis)
3.イーオーとアルゴス(Io and Argus)
4.パリスの審判(Judgment of Paris)
5.イーリアス(The Iliad)
1〜3.は,直接・間接的にヘーラーの嫉妬心が生み出したといってよい物語.
4はトロイア戦争の発端となった,アテーナー・アプロディーテーとの器量争い.
5はトロイア戦争を歌ったホメーロスの叙事詩.トロイア戦争の一翼を担ったヘーラーは,アプロディーテーに勝利を与えたトロイアの王子パリスを恨んで,ギリシャに肩入れしている.
大活躍? しかし,どれをとっても,ヘーラーの振る舞いは共感し難いものではありますが.
ただし,ギリシャ神話(上記のもの語りやその他のショートストリー)の中では---
ヘーラーの怒りを買った者達は,変身して自然界を飾っています.
例えば,
▽アルゴスの眼と孔雀 アルゴス - Wikipedia Hera - Wikipedia
イーオーとアルゴスの物語の中で,ヘーラーはゼウスの愛人で牝牛に変身したイーオーの見張りに100の眼を持つアルゴスを見張りにつけます.しかし,アルゴスは,ゼウスによって送り込まれたヘルメースによって眠らされ,殺されてしまいます.
そして,一説では,ヘーラーはアルゴスの眼をとって孔雀の尾羽に飾ったとされています.
▽おおぐま座となったカリストー おおぐま座 - Wikipedia Ian Ridpath. “Ursa Major”. Star Tales.
カリストーは,アルカディア王リュカーオーンの娘で,アルテミスの従者として処女を誓い,狩りに明け暮れる生活をしていました.
彼女を見初めらたゼウスは,アルテミスの姿を借りてカリストーに近づきます.驚いた彼女にゼウスは真の姿を現わし,彼女の抵抗をものともせず思いを遂げました.
アルテミスを恐れてこのことを隠していましたが,数ヶ月経ったある暑い日,アルテミス達と沐浴をすることとなったイーオー.結局ゼウスの子どもを身ごもっていることが知られてしまった.誓いを破られたことを知ったアルテミスは憤慨し,彼女を放逐します.
さらに,息子アルカスを産んだことを,ヘーラーに知られてしまいました.
ヘーラーが掛けた呪いにより,カリストーの真っ白な腕は黒い毛皮で覆われ,両手は湾曲して鉤爪が伸びて獣の前肢となり,ゼウスがとりわけ愛でた口元は巨大な獣の顎となって喉からは言葉の替わりにおぞましい唸り声しか出せないようにされます.もとの美しい容姿とは似ても似つかぬ,熊の姿に変えられたしまったのです.
15年後,森を徘徊していたカリストーは,立派に成長したアルカスと出くわしてしまいます.カリストーは息子であることに気づき抱きしめようと近付きますが,実母であるとは知らないアルカスは後ずさりし,彼女を槍で突こうとした.
これを見たゼウスは,旋風を起こして2人を天に上げ,カリストーをおおぐま座に,アルカスをうしかい座へと変えました.
ヘーラーは,カリストーが星座に上げられたことでさらに怒り,海の神であるテーテュースとオーケアノスに頼み,彼女が北の海に降りて休むことを許さず,ずっと沈むことがないようにしたといいます.そのため,北半球の中緯度地域ではおおぐま座は周極星となり,地に沈むことはありません.
(上記は主なストーリーをオウィディウス『変身物語』によるものと思われます.他にも諸説あるとのこと.カリストー - Wikipedia)
▽エコー
森に住むニンフ,エコーは,おしゃべりだったためヘラの怒りを買い,他人の言葉を繰返すだけで,自分からは何も話しかけることができないようにされてしまいました.
そのためやがて美男子ナルキッソスに恋した彼女は,胸の思いを彼に何も伝えることができずに捨てられ,悲しみのあまりやせ細って,しまいに身体のない声だけの存在になってしまったといういうことです.
上記よりやや美しい?挿話としては,天の川の誕生があります.
▽ヘーラーの母乳からできた天の川
Heracles - Wikipedia ヘーラクレース - Wikipedia Hera - Wikipedia
ヘラクレスはゼウスとアルクメーネーの子で,長い間ヘーラーの嫉妬の対象となり多くの物語が生まれています.
ただし,ヘラクレスは誕生後,眠っているヘーラーの乳を吸ったとされています.これはゼウスの策略とする説と,母親が遺棄した所をアテーナーが救って運んだとする説があるようです.
どちらのストーリーでも---
ヘーラクレースの乳を吸う力が強く、痛みに目覚めたヘーラーが赤ん坊を突き放します.そして,このとき飛び散った乳が天の川になったということです.
(なお,この時,地に飛び散ったヘーラーの乳からユリが生まれたという物語もあるようですが,参照するに足る文献は見つからず,かなり後世に作られた物語である可能性が高いと思われました)