おおぐま座とうしかい座4 古代メソポタミアで夜空に描かれた“ワゴン”は,ギリシャではおおぐま座に.ただし,星座名は失われましたが,この星座をワゴンとする物語がギリシャ神話として残されています.また,古代メソポタミアの軛(くびき)が,現在のうしかい座に当たりますが,この人物を「ワゴンの発明者BOOTES」とするギリシャ神話があります.実は,おおぐま座のワゴンの物語とうしかい座のワゴンの発明者BOOTESの物語は一つのギリシャ神話でした.

おおぐま座うしかい座 4 

 

北天に相並ぶ二つの星座,おおぐま座うしかい座

f:id:yachikusakusaki:20191024202219j:plain

星座図鑑・おおぐま座

f:id:yachikusakusaki:20191027003115j:plain

 星座図鑑・うしかい座 

 

古来,つながりの深い星座とみなされてきました.

例えば

▽古代メソポタミア

おおぐま座はワゴン(四輪の荷車),うしかい座は軛(くびき:二頭の牛をつなぐ用具).

f:id:yachikusakusaki:20191029224631j:plain

二つの星座を合わせて,牛に引かれたワゴン(四輪の荷車)とされていた可能性もあります.

http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2019/10/29/231337

 

古代ギリシャ

最もよく知られている神話では,おおぐま座は牝熊カリストーに擬せられています.

f:id:yachikusakusaki:20191026164625j:plain

CALLISTO (Kallisto) - Arcadian Princess of Greek Mythology

f:id:yachikusakusaki:20191026164112j:plain

Callisto (mythology) - Wikipedia

そして,うしかい座カリストーの息子のアルカスに.

この場合,うしかい座はArktophylax (the Bear-Watcher熊を見守る人) でBoôtes(現在のうしかい座ラテン語名Boötesにつながるギリシャ語)ではなかったようです.

f:id:yachikusakusaki:20191027002932j:plain

 Arcas in Greek Mythology - Greek Legends and Myths

http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2019/10/27/004250

 

このように,“つながりある点”は共通していますが,古代メソポタミア人が二つの星座に託してきた事象は,“ワゴン⇒おおぐま”を見る限り,古代ギリシャで一新されたように見えます.

カリストーの物語」は古代ギリシャの人々の心を強く捉えた.おおぐま座という星座まで新たに生み出すほど.

ということかもしれません.

 

しかし---

古代メソポタミアで夜空に描かれた“ワゴン”.星座名は失われましたが,ギリシャ神話としては残されていました.カリストーの物語」に陰に隠れてほとんど顧みられることはありませんが.

また,軛(くびき)も失われましたが,ワゴン(四輪の荷車)につながる神話がうしかい座にも残されていました.

そして,この二つの内容はつながりのある,というより一つの物語.

古代メソポタミアの星座;ワゴンと軛(くびき),をギリシャ神話に置き換えたものと言えると思います.

ただし,軛(くびき)とされたうしかい座は,このデーメーテールの息子BOOTESという人物で,彼がワゴン(荷車)を発明したとされています.

 

この二つの神話の概略は次の通り. the Theoi projectのサイトStar Myths | Theoi Greek Mythology から,拙訳で.

 

おおぐま座 URSA MAJOR

Star Myths | Theoi Greek Mythology

Latinラテン語 : Ursa Major (the Great Bear大熊)

Greekギリシャ語 : Arktos Megale (the Great Bear大熊) or Amaza (the Wagonワゴン) or Helikê

Akkadianアッカド語 : Eriqqu (the Wagonワゴン)

Sumerianシュメール語 : MAR.GÍD.DA (the Wagonワゴン)

ボーティス(ボーテス BOOTES)の荷車

牛に引かれたボーティスのワゴン(荷車)もしくは鋤(すき)が,星座Ursa Majorとして星々の間に置かれました.天空において,馭者はそれ(ワゴンまたは鋤)のすぐ後ろに立っています.(ヒュギーヌス 天文詩)

 

WAIN OF BOOTES

The ox-drawn wagon or plough of the farmer Bootes was set amongst the stars in the form of the constellation Ursa Major. Their driver stands immediately behind it in the heavens. (Hyginus 2.2.)

 

 

うしかい座 BOOTES (Boötes)

Star Myths | Theoi Greek Mythology

Latinラテン語 : Bootes (Boötes)

Greekギリシャ語 : Boôtes (the Wagon-Driver馭者) or Arktophylax (the Bear-Watcher熊を見守る人)

Akkadianアッカド語: Niru (the Yoke軛くびき / または,軛で連結された1対の牛[荷車用動物])

Sumerianシュメール語 : SHUDUN (the Yoke軛くびき / または,軛で連結された1対の牛[荷車用動物]) 

ボーティス(ボーテス BOOTES)

(ボーティスは)ワゴン(荷車)または鋤(すき)の発明者で,デーメーテールの息子.彼の人間への貢献に対する報償として,ボーティスは,星座Bootes(うしかい座)として星々の間におかれた.彼の牛と鋤は,荷車,すなわちUrsa Major and Minor(おおぐま座こぐま座)として,彼の横に置かれた.(ヒュギーヌス)

 

BOOTES

The inventor of the wagon or plough, a son of the goddess Demeter. As a reward for this service to mankind he was placed amongst the stars as the constellation Bootes. His oxen and plough were set alongside him as the Wain, i.e., the constellations Ursa Major and Minor. (Hyginus 2.4 on Hermippus & Petellides.)