原発再稼働が進めば必ず出てくるのが,放射能レベルが極めて高い放射性廃棄物,核のごみです./ 半年前に示すと国民に約束していた(科学的に処分できる可能性のある場所の)地図をいつ提示するのか,いまだにメドを示していません. / 政府がきちんと説明しなければならないのが,本当に日本で地下処分ができるのかという点です. NHK時論公論

道筋つけられるか 核のごみ問題

NHK時論公論

「道筋つけられるか 核のごみ問題」(時論公論) | 時論公論 | NHK 解説委員室 | 解説アーカイブス

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2017年05月19日 (金)

水野 倫之  解説委員

 

 福井県にある高浜原発4号機が今週再稼動し,稼働中の原発は4基に増えました.再稼働が進めば必ず出てくるのが,放射能レベルが極めて高い放射性廃棄物,核のごみです.福島の事故で危険性が明らかとなり,政府は地下に処分できる可能性のある科学的な「有望地」を提示して,対策を前に進めるとしていました.しかし提示の期限とされたのは去年の年末.半年近くたっても未だ示されず,ここにきて足踏み状態が続いています.

 

今夜の時論公論


なぜ地図の提示が遅れているのか?
今後どんな形で提示されるのか?
道筋をつけるために何が必要なのか?


以上,3つの視点から課題を考えます.

 

核のごみ問題の国民の関心を高めたいとして,経産業省は,今週(5月19日時点)からあらためて全国で一般向けの説明会を始めています.
初回は東京で開かれ,「地下深くは地上よりも地震の揺れが小さく,さびの原因となる酸素も少ない」など安全性が強調されました.しかし参加者からは「地下水が多い日本で安全に処分できるのか?」また「地域の意向が無視されることはないのか?」など,安全性や進め方への不安が多く出されました.

核のゴミは原発の使用済みの核燃料や,これを再処理してプルトニウムを取り出した後に残る放射能レベルが極めて高い廃液.

安全になるまで10万年は隔離する必要があるとされています.

そこで各国は地下深くに埋めて処分しようとしていますが,処分場選びは難航しています.
中でも日本は取り組みが大きく遅れています.政府も電力会社も原発の稼動には力を入れたものの,ごみ問題は厄介だとして正面から向き合おうとしなかったためです.

 

政府は2000年に処分を行う事業者を設置し,古文書などから地盤を調べる文献調査,そして,ボーリングなどへと段階的に調査を進めることを決め,2030年頃の処分地選定を目指して自治体を募集しました.
しかし,安全への不安から正式に応じたところはなく,政府も電力会社も受け身のまま,問題は先送りされてきました.

そこに起きたのが福島の事故です.大量の使用済み燃料が冷却できなくなり,首都圏も避難するシナリオも検討されたほどで,危険性は再認識されました.
国内には各原発のプールなどに核のごみを含んだ使用済み燃料がすでに17000tたまり,この問題に道筋をつけないまま再稼動を進めることへの批判も相次いだため,政府はようやく重い腰を上げました.文献調査の前に,科学的に処分ができる可能性のある場所を「有望地」として示すことにしたわけです.

 火山や活断層,隆起や浸食がある地域は「適性が低い」として外し,残りを「適性がある」「有望地」とします.また船での輸送を考慮し,港から20キロを「より適性が高い」として3色に分け,年末に提示することを関係閣僚会議で決めました.

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  (番組の図を元に作成 yachikusakusaki)


ところが一般から,「有望地」とか「適性がある」という言い方について,「政府がそこに処分場を押し付けることを狙っているのではないか」という批判が相次いで寄せられたのです.
このまま地図を出せば混乱が広がる恐れがあるとして政府は公表を先送りし,処分場の受け入れを迫るものではないことを明確にするため,表現の見直しをしてきました.

 

それがこちらです.

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  (番組の図を元に作成 yachikusakusaki)

 

名前も科学的特性マップとし,「適性」があり「有望地」としていた地域については,「好ましい特性が確認できる可能性が相対的に高い」地域と表現を変えました.
また港に近く「より適性が高い」地域については,「輸送面でも好ましい」,
さらに「適性が低い」地域については「好ましくない特性があると推定される」地域とし,新たに資源がある地域も将来人が掘削する可能性もあるとしてこの地域に加え,日本地図を4色で示すというのです.

有望地という言い方は,推進側目線の言葉で,言われた地域の中には絶望感を抱く所が出るかもしれず,表現を撤回した点は評価できますが,新たな表現は回りくどくて慎重な言い回しになり,理解が進むことになるのか疑問も感じます.

 

 ただ表現よりも問題なのは,半年前に示すと国民に約束していた地図をいつ提示するのか,いまだにメドを示していない点です.
経済産業省は「地図を冷静に受け止めてもらえる環境が重要だ」と説明しています.
地図の提示をきっかけに数か所以上の自治体が関心を示すことを期待しており,その先の文献調査につなげるきっかけをつかみたいという思惑があります.
そのためにも地図の提示で,大きな騒ぎになるのは避けたいというのが本音で,表現も慎重な言い回しになり,提示の時期を探ろうとしています.

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  (番組の図を元に作成 yachikusakusaki)


その一環として全国の都道府県の担当者に対する説明も始めています.地図はあくまで地盤の特性を示すだけで人口は考慮しないため都市部も好ましい地域となる可能性があり,今週はじめには東京23区の担当者対して,処分の必要性や安全性の説明が行われました.

しかし,処分場選びはそう簡単にはいかないことを覚悟しなければなりません.
地図が示されれば,反対運動が起きるかもしれません.特に「好ましい特性がある」とされた地域の中には,処分場の拒否を宣言する自治体が相次ぐかもしれません.

というのも日本よりも処分場選びが先行している国のほとんどすべてが,大きな混乱や反対運動を経験しているからです.世界で最終処分地を決めたのはフィンランドスウェーデンだけ.いずれも,20億年前から変化していない強固な岩盤があり,地震もほとんど起きない国ですが決定までには30年かかっています.
住民の理解が十分でないまま地質調査を行うなどして大規模な反対運動が起こり,政策の変更を何度も余儀なくされたからです.混乱を受けていずれも法律で手続きを明確にした上で,多くの候補地を調査し,事業者が実際に地下の様子を住民に見てもらうなどしてようやく処分地を決めています.
受け入れた自治体に聞くと,雇用などへの期待もありましたが,最終的には国や事業者の説明に納得できたかどうかが,決め手になったといいます.

これに比べて,取り組みが遅かった日本では,まだ核のごみ問題自体を知っている国民が多いとはいえず,まずはこの問題を知ってもらって議論を深めていくことが重要で,そのためには地図の提示は意味があると思います.
一旦は年末までに提示することを約束したわけですから,政府は早く地図を示すべきで,国民全体での議論を早急にスタートさせなければなりません.

 そこで,政府がきちんと説明しなければならないのが,本当に日本で地下処分ができるのかという点です.

ヨーロッパと違い,20億年もの間変化していない安定した岩盤があるわけではありません.大きな地震もよく起きます.

地下にはまだ知られていない活断層もあるとみられ,地下処分ができるのか疑問に思う国民が多いと思います.

それでも政府としてなぜ10万年の安全を保障できると判断したのか,その根拠について,納得できる説明をしていくことが必要です.

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  (番組の図を元に作成 yachikusakusaki) 


今週の高浜原発4号機に続き来月には3号機が,またそのあとも佐賀県玄海原発などの再稼動が予想され,核のごみは日々増えていきます.最終処分の道筋がたたないまま原発の再稼動だけが続くことのないよう早急に取り組むことを求めたいと思います.