一斉休校の効果は? 青野由利
毎日新聞 土記
2020年3月7日 東京朝刊
https://mainichi.jp/articles/20200307/ddm/002/070/074000c
新型肺炎にともなう全国一斉休校を安倍晋三首相は専門家会議に相談せずに決めた.
2009年の新型インフルエンザや1918年のスペイン風邪の時の「成功」を参考に,経済産業省出身の側近らが進言したためと言われる.
真偽はともかく,
09年に関西での学校閉鎖が功を奏したのにはインフルエンザの歴史に基づくそれなりの理由があった.
インフルエンザウイルスは種の壁を越え,トリ,ブタ,ヒトのいずれにも感染する.感染を続ける間に遺伝子が組み換わり,新型ウイルスが出現する.
09年に出現した新型の起源は,実はスペイン風邪のウイルスだった.
これがブタに受け継がれて長年流行し,その間にトリやヒトのウイルスと組み換えを起こし,100年後にパンデミック(世界的大流行)を起こした.
スペイン風邪ウイルスは人間界では季節性インフルエンザとなり,1957年に姿を消すまで流行した.
だから,これに感染した50代より上の人には09年の新型にもある程度免疫があった.
一方,若い世代には免疫がなかったので,学校で集団感染が起きた.
これを一斉休校で抑えこむことで,最初の流行を一旦終息させることができた,というわけだ.
以上は,東大医科学研究所のウイルス学者,河岡義裕さんから教わったことだが,
では,今回の新型コロナはどうなのか.
どの世代にとっても未経験のウイルスなので誰にも免疫がない.
学校で集団感染が起きている様子も今のところない.
それを思うと09年の一斉休校の「成功」がそのままあてはまるとは思えない.
政府の専門家会議は「換気の悪い閉鎖空間で多くの人が一定時間交わる場」が感染クラスターを生みやすい場だと注意を促している.
休校中の中高生がそんな場に集えば,逆効果だろう.
「新型コロナはインフルエンザと違う」という点は世界保健機関(WHO)も繰り返し強調している.
ワクチンも治療薬も今はないが,インフルエンザより感染伝播(でんぱ)しにくい.(⇒*)
インフルエンザは封じ込めできないが,新型コロナは適切な方法を使えば封じ込められる.だから今はそれを追求しなくてはならない,といった具合だ.
WHOが「パンデミック宣言」していないのはそのためらしい.
感染クラスターを生まないようにしつつ,早期発見でクラスターを潰し,感染拡大を抑える.
「どうせパンデミック」と諦めてしまっては,ウイルスの思うつぼということだ.
(専門編集委員)
⇒*
新型コロナウィルス
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200229/k10012308111000.html
http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2020/03/01/122816
レポート本文 Report of the WHO-China Joint Mission on Coronavirus Disease 2019 (COVID-19)16-24 February 2020 https://www.who.int/docs/default-source/coronaviruse/who-china-joint-mission-on-covid-19-final-report.pdf
WHO=世界保健機関などの専門家チームが行った共同調査の報告書より
(2月20日までに中国で感染が確認された5万5924人のデータについて分析)
症状
▽感染すると平均で5日から6日後に症状が出る
▽感染者のおよそ80%は症状が比較的軽く,肺炎の症状がみられない場合も
▽重症患者
☆呼吸困難などを伴う重症患者は全体の13.8%,
☆呼吸器の不全や敗血症,多臓器不全など命に関わる重篤な症状の患者は6.1%
年齢によるリスクの相違
☆60歳を超えた人のリスクは高い
☆高血圧,糖尿病,循環器,慢性の呼吸器の病気,がんなど
持病を持った人⇒重症や死亡のリスクが高い
☆子ども
症状は比較的軽い,重症化する人はごくわずか
感染例は少ない:19歳未満の感染者は全体の2.4%
・その多くは家庭内での濃厚接触者を調べる過程で見つかった
・子どもから大人に感染したと話す人はいなかった (聞き取りを行った範囲で)
・子どもがかかりにくいとは断定できない.
致死率
▽全体 3.8%
(5万5924人の感染者のうち死亡したのは2114人)
その他の地域 0.7%
1月1日から10日までに発病した患者の致死率 17.3%
2月1日以降に発病した患者の致死率は0.7%
(感染拡大に伴って医療水準が向上した結果)
▽致死率は高齢になるほど高い:80歳を超えた感染者
致死率は21.9%(5人に1人)
▽高血圧,糖尿病,循環器,慢性の呼吸器の病気,がんなど持病を持った感染者の致死率は高い
新型コロナ「インフルほど感染力高くない」 WHO見解
ウィーン=吉武祐
2020年3月4日 6時55分
世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム事務局長は3日の記者会見で,新型コロナウイルスの特徴について,中国で得たデータを踏まえ,季節性インフルエンザと比べて感染力は高くないとの見解を明らかにした.一方で重症化する患者はより多く,致死率は3・4%とインフルエンザより高いとも指摘した.
テドロス氏は,インフルエンザも新型コロナウイルスも,呼吸器系の症状が出て飛沫(ひまつ)感染をする点が共通していると説明.
そのうえで重要な違いとして,新型コロナウイルスについて
「これまで得たデータからみると,インフルエンザほど効率よく感染はしない」と述べた.
また,中国からWHOへ報告があったデータでは,症状のまったく出ない感染者は1%だと指摘した.
一方,季節性インフルエンザに比べ,新型コロナウイルスに感染すると「症状が重症化する患者がより多い」とし,新しいウイルスのため免疫を持つ人が少ないと説明した.世界的にみると,死亡率は感染者の3・4%に達するとした.季節性インフルエンザの死亡率は一般的に1%に遠く及ばないとし,新型コロナウイルスの致死率はより高いという.
テドロス氏は,こうした状況に加え,新型コロナウイルスの予防接種は開発途上にあるため,隔離などによる封じ込めに全力を注ぐべきだと訴えた.
このほか,東京五輪の開催について国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長と電話で協議し,「事態を注視することで一致した」と明らかにした.「何か行動が必要な場合,日本政府と協議する.何らかの決断をするのはまだ早い」と述べた.(ウィーン=吉武祐)