ヘカテー3 神統記のように大きな力を持つ女神としてヘカテーを描いたものは他にありませんが,数多くの物語に登場するヘカテー.ペルセポネーの略奪では,デーメーテールとペルセポネーの最も信頼できる味方がヘカテーでした.

ヘーシオドスの神統記では,ヘカテーは大きな力を保障された女神として描かれています.

http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2018/07/19/022040

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HECATE (Hekate) - Greek Goddess of Witchcraft, Magic & Ghosts

このような力を持つ女神としてヘカテーを描いた他のギリシャ神話原典は見当たりません.しかしヘカテーは,主役としてではないものの,数多くの物語に登場.

 

その中で,最も知られているのが,いわゆる「ペルセポネーの略奪」の物語.

(ペルセポネーの略奪については,このブログでも取り上げましたので,参照して下さい.: http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2018/04/08/005915 http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2018/04/09/005253 http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2018/04/10/001853 http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2018/04/11/025636  )

 

デーメーテールとペルセポネーの最も信頼できる味方がヘカテーでした.

 

 デーメーテールが,娘ペルセポネーを捜しているとき,火のついた松明で,夜通し彼女の道案内しました.母と娘が再び邂逅した後は,冥界でペルセポネー(ハーデースの妻として冥界の女王となる)の従者・旅の同伴者となりました.(拙訳HECATE (Hekate) - Greek Goddess of Witchcraft, Magic & Ghosts

 

英語版Wikipedia Hecate - Wikipediaにも同様の記載があります.

デーメーテールに捧げるホメーロス風讃歌では,ヘカテーは,多分ペルセポネーがいなくなったことへの彼女の関心を強調しようとして, "tender-hearted"と呼ばれています.

そして,ハーデースによる略奪の後に,デーメーテールがペルセポネーを捜すのを助け,太陽神ヘリオスに尋ねるよう勧めます.

その後,ペルセポネーがハーデースの冥界と天上との間を毎年往復する時の同伴者となり,冥界への案内者として仕えました.このような親密な関係から,ヘカテーは,エレウシスの秘儀において,デーメーテールとペルセポネーに並ぶ主要な女神の一人となりました.(拙訳)

In the Homeric Hymn to Demeter, Hecate is called the "tender-hearted", a euphemism perhaps intended to emphasize her concern with the disappearance of Persephone, when she assisted Demeter with her search for Persephone following her abduction by Hades, suggesting that Demeter should speak to the god of the sun, Helios. Subsequently she became Persephone's companion on her yearly journey to and from the realms of Hades; serving as a psychopomp. Because of this association, Hecate was one of the chief goddesses of the Eleusinian Mysteries, alongside Demeter and Persephone.

 

the Teoi projectのサイト HECATE (Hekate) - Greek Goddess of Witchcraft, Magic & Ghosts には,デーメーテール賛歌の英語訳がありましたので,無理して訳してみました,買い求めた岩波版の日本語訳本が見当たらなくなってしまったので.見つかり次第,より信頼できる訳をつけ加えるつもりです.

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ハカテーとペルセポネーの略奪

HECATE & THE RAPE OF PERSEPHONE

ホメロース風讃歌

Homeric Hymn 2 to Demeter 19 ff (trans. Evelyn-White) (Greek epic C7th - 4th B.C.) :

ハーデースに連れ去られた時,ペルセポネーは甲高い声で泣き叫び,父親のクロノスの息子(ゼウス),最も高位で卓越した神,を呼び続けまし.

"Then she [Persephone] cried out shrilly [as she was seized by the god Haides] with her voice, calling upon her father, the Son of Kronos (Cronus) [Zeus], who is most high and excellent.

しかし,不死身の神たちも,死すべき人間たちも,たわわに実ったオリーブの木さえも,誰も彼女の声を聞くことはありませんでした.ただ1人,思いやりのある心を持ったヘカテ,光り輝く髪をなでつけたペルセースの娘が,自分の洞窟の中で彼女の声を聞きつけました.そして,太陽の神ヘリオスも---

But no one, either of the deathless gods or mortal men, heard her voice, nor yet the olive-trees bearing rich fruit: only tender-hearted Hekate (Hecate), bright-coiffed, the daughter of Persaios (Persaeus), heard the girl from her cave, and the lord Helios (the Sun) . . .

デーメーテールは九日間,手に火のついた松明を手に,地上をさまよい歩きました.そして,アンブロシア(不老不死の神の食べ物)や甘いネクター(不老不死の神酒)を決して味わうことはないし,水で身体を清めることもしない,と嘆き悲しみました.

Then for nine days queenly Deo [Demeter] wandered over the earth with flaming torches in her hands, so grieved that she never tasted ambrosia and the sweet draught of nectar (nektaros), nor sprinkled her body with water.

しかし,十日目の光を注ぐ夜明け,手に松明を持ったヘカテーが彼女に出会いました.そして,話しかけ知らせました.

「女王デーメーテール,季節をもたらし良い贈り物をもたらす方,天上の神々の誰が,死すべき人間の誰がペルセポネーを連れ去り,あなた様の心を悲しみで突き刺したのでしょうか?」

But when the tenth enlightening dawn had come, Hekate, with a torch in her hands, met her, and spoke to her and told her news:

‘Queenly Demeter, bringer of seasons and giver of good gifts, what god of heaven or what mortal man has rapt away Persephone and pierced with sorrow your dear heart?

「なぜなら,私は彼女の声を聞きました.それが誰かについては見てはいません.でも,私はありのままに簡潔に私が知っている全てを話しましょう」

For I heard her voice, yet saw not with my eyes who it was. But I tell you truly and shortly all I know.

 

なお,デーメーテール賛歌の概要は,エレウシスの秘儀 - Wikipedia にきれいにまとめられています.

お借りして,以下に転載しました.

デーメーテール讃歌概要

( Ⅰ )

草原で花を摘んでいたペルセポネーは,ゼウスの企みに従ったハーデースによって連れ去られる.

娘の叫び声がデーメーテールに届き,母神は松明を掲げて大地をさまよい歩いた.10日目に,ヘカテーデーメーテールの前に現れ,何者かがペルセポネーを奪い去ったと告げた.デーメーテールヘカテーを伴ってヘーリオスのもとを訪れ,ペルセポネーをさらったのはゼウスの許しを得たハーデースだということを知る(第1行 - 第90行).

 ( Ⅱ )

怒ったデーメーテールはオリュンポスから離れ,老婆に身をやつして地上の街や畑を巡り歩いた.

女神は放浪の末にエレウシスにたどり着き,ケレオスの館に迎えられる.館ではケレオスとその妃メタネイラの子供デーモポーンが誕生しており,デーメーテールはデーモポーンの養育を引き受ける.女神は子供を不老不死にしようとして,昼にはアンブロシアを肌にすり込んで甘い息を吹きかけ,夜には両親に気づかれないように火の中に埋めて育てた.

ところが,子供の神にも似た成長ぶりを不審に思ったメタネイラがこれを覗き見して叫び声を上げたため,デーメーテールは腹を立てて女神の姿を現し,アクロポリスの麓に神殿と祭壇を作るように命じた.ケレオスが言われたとおりにすると,デーメーテールは神殿にこもった(第91行 - 第304行).

 ( Ⅲ )

穀物の女神が姿を隠したために,大地は実りを失った.

ゼウスは女神の怒りを宥めようと,イーリスをはじめとして神々を遣わしたが,デーメーテールは一切聞き入れなかった.やむなくゼウスはヘルメースを冥府に遣わし,ハーデースを説得してペルセポネーを地上に連れ戻すように命じた.

こうして,ついに母娘は再会を果たした.

しかし,ハーデースはペルセポネーを還す前にザクロの種を食べさせていたため,冥府の食べ物を口にしたことにより,ペルセポネーは1年のうち三分の一は冥界で過ごし,残りの三分の二は地上で暮らすこととなった(第305行 - 第469行).

 ( Ⅳ )

大地は実りを取り戻した.

デーメーテールはトリプトレモス,ディオクレース,エウモルポス,ケレオスに祭儀の執行を教え,またトリプトレモス,ポリュクセイノス,ディオクレースには秘儀を明かすと,ペルセポネーとともにオリュンポスに赴き,再び神々の列に加わった(第470行 - 第495行).

レウシスの秘儀 - Wikipedia

 

 

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