手記「何回も死のうと思った.でも,震災でいっぱい死んだから,つらいけどぼくは生きると決めた」尾木直樹さん「よくこの少年がね,死なないで生きていてくれた,その事を,感謝したいなと思いますね.--たまらないですね.--予見可能だった.『安全配慮義務』違反」辻内琢也さん「全国的な広がり,現在進行形.『放射能』『賠償金』『避難者であること』のラベルが貼られている」“原発避難いじめ”の実態 (1) クローズアップ現代+

同級生に150万円もの金を支払わされていたという横浜の中学生。名前に「菌」をつけて呼ばれていた新潟の小学生。原発事故で避難する子どもへのいじめが各地で相次いでいる。“原発避難いじめ”の全体像がわかる統計がない中、 NHKと早稲田大学などによるアンケート調査では、回答した700世帯のうち50世帯あまりが「いじめを受けたことがある」と回答。自殺未遂をはかるなど、深刻なケースもあった。“原発避難いじめ”の実態に迫り、解決策を探る。

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震災6年 埋もれていた子どもたちの声 ~“原発避難いじめ”の実態 (1)

NHKクローズアップ現代+ 2017年3月8日(水)

出演者   尾木直樹さん(法政大学教授)   辻内琢也さん(早稲田大学教授)

キャスター:鎌倉千秋さん

 

 

「ばい菌扱いされて,放射能だと思っていつもつらかった.福島の人はいじめられると思った」

原発事故の後,避難先の横浜でいじめを受けていた少年が書いた手記です.少年の両親が,その辛い記憶を初めて語りました.

「普通の子どもが送るような生活をさせてあげられなかった.それを考えると本当に悔しいですよね」(父親

 

実態が,ほとんど分かっていなかった原発避難いじめ.NHKは今回,専門家と共同で大規模なアンケート調査を実施.その内子どもがいじめられたケースは少なくとも54人.命に関わるような深刻なケースも明らかになりました.

 

福島第一原発や福一というあだ名をつけられた」「四階から飛び降りろと言われた」

埋もれていた子どもたちの声は,私たちに何を突きつけるのか?

原発避難いじめの実態を追いました.

www.nhk.or.jp

ナレーション

「震災から六年.今も避難をしている福島県の人たちは少なくとも8万人(東北三県で12万3千168人)にのぼります.今回NHKが大学と共同で行ったアンケートでは,54件の子どものいじめのうち,直接的な悪口や誹謗中傷が最も多く,32件,身体的な暴力を伴ういじめが13件,金品をたかられるが5件,そして,いじめがエスカレートして命の危険が及ぶ重大事態なども2件ありました」

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ナレーション

自由記述欄に綴られていたいじめの実態です.

『隣の同級生が,物を落としたので,拾ってやろうとしたら,放射能がうつるから,さわるなと言われた』

『 “汚い” “お金もらってるんでしょ” などと言われた』

これほど深刻な状況が広がっている一方で,国や自治体はその実態をほとんど把握していません.一連のいじめが発覚するきっかけになったのは,去年の秋,横浜で明らかになった,ある少年へのいじめでした.

こちらはその少年が綴った手記です.初めて全文を提供して頂きました.手記と少年の両親のインタビューから,その心の内が見えてきました

 

手記今まで,何回も死のうとおもった.でも,しんさいでいっぱい死んだから,つらいけどぼくはいきるときめた」

 

ナレーション

原発事故のあと,避難先で受けてきたいじめについて少年が綴った手記です.両親にさえ,打ち明けてこなかった胸の内を一気に,はき出しました.

 

「感情のままに書き出したんです.私の目の前で.すごい勢いというか形相で書きなぐりましたね」

ナレーション

6年前に起きた原発事故.少年の家族は横浜に避難し,父親は転職,少年は転校を余儀なくされました.

転校直後,小学二年生のときにいじめは始まりました.

名前に菌をつけて呼ばれたり,鬼ごっこの鬼ばかりさせられたりしました.学校は気づいていましたが継続してケアすることはなく,いじめは繰り返されていきました.やがて,少年は不登校に.

この頃,両親もいじめに気づく余裕はありませんでした.父親は慣れない仕事に苦労し,母親は地震で被害を受けた家の片付けのため,福島と横浜を行ったり来たりしていたからです

 

「毎日うなされていたんですね.寝言も言うし,泣くし.でもずっと,震災のトラウマだと思ってたところが,ずっとあったから.親の余裕のなさですよね.深く掘り下げて考えることが,できてなかった」

 

ナレーション

不登校は五ヶ月続きましたが,学校はいじめではなく,震災のストレスが原因だと捉えていました.再び学校に通い始めると,少年は更にひどいいじめを受けることになります.

 

手記「いつもけられたり,殴られたり,ランドセル振り回される.怖くて何もできなくて,本当に辛かった」

 

ナレーション

しかし,少年はいじめられていることを,親には一切話しませんでした.避難生活で,苦労している両親をそばで見ていたからです.

 

足とかあざがすごかったんですよ.転んだだけじゃできない様な場所にあったり.問い詰めたんですけど『転んだ』としか言わなかった」

「私たちに心配かけたくない気持ちが多分あったんですね.一切言わなかった」

 

ナレーション

周囲が気づかぬまま,事態はより深刻になっていきました.

“賠償金でお金があるだろう” と言いがかりをつけられ,同級生から金を要求されたのです.遊園地などで遊ぶ金を何度も支払わされたと言います.自主避難だったこの家族が東京電力から受け取った賠償金は,百万円余り.避難先で生活を立て直すために使い果たしていました.

 

手記「教室のすみ,防火扉の近く,体育館の裏,人目が気にならないとこで持ってこいといわれた.賠償金あるだろ」

 

ナレーション

“お金を出せば暴力は振るわれなくてすむ” そう思った少年は言われるまま払い続けてしまいました.両親が気づいた時には,借金返済のために手元に置いていた150万円が,全てなくなっていました.

しかし,学校側は,少年が自ら金を支払っていたとして,いじめであるとは認めようとしませんでした.

 

「(学校は)『息子さんが率先してお金を手渡していたようで,こういうお金を皆さんおごってもらったと言っていますよ』というふうな書類を出された」

ナレーション

学校側の対応に不満を持った両親は,直接市の教育委員会にも何度も訴えましたが,取り合ってもらえませんでした.事態がいっこうに良くならないことへのいらだち.

少年の手記はこの時期綴られた物でした.

 

手記「今までいろんな話をしてきたけれども,信用してくれなかった.何回も先生に言おうとすると,無視されてた.学校も先生も大嫌い」

 

「全てが怖かったんでしょうね.何もかも.『自分の回りにいる人たちはみんな敵』と思ってた」

 

横浜市教育委員会は,“少年が福島から避難してきたことに,学校が十分配慮しなかったことが,いじめを深刻化させた” と現在は責任を認めています.

横浜市教育委員会岡田優子教育長「それは申し訳なかった.本当に申し訳ないと思っています.学年毎にしっかりと引き継いでいって,みんなで見ていくことが大事で,そこがまさに組織対応だったと思っています.それができていなかったのは,大きな反省です」

 

ナレーション

まもなく,中学二年生になる少年.不登校は三年近く続いています.

奪われたのは,かけがいのない時間でした.

 

「福島にいたときは,自転車に乗るのが好きだったんですね」

「普通のどこにでもいる男の子だった.お友達もいっぱいいて」

「みんな,遠足に行ったりだとか,修学旅行に行ったりだとか,学校行事をいろいろやったりだとか,楽しい思い出できているのに.させたかったのに---(涙声).悔しいです」

「せめて卒業式でしたね」

「それを考えると本当に悔しいですよね」

 

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尾木直樹さん「これは,本当に,今こういうふうにずっーとね,全部見せてもらって,思うんですけども.

よくこの少年がね,死なないで生きていてくれた,っていう,その事を,まず,感謝したいなと思いますね.

そして,こういうふうにして,手記を発表してくれたことによって,今回の問題って言うのは,見えてきたんですよね.

それと,やっぱり,福島の子どもたちとか,若者もそうですけれども,あの,五重苦と言われているんですよね.普通の震災だけではなくて,街も家もちゃんとあるのに,引っ越さなきゃいけない.そして,お父さんの仕事も換わらなきゃいけない,家族がバラバラになるだとか.転校はもちろんですけど.そういういろんな苦労,これを一身に背負いながら---.

その子をいじめてきたわけですね.これはね,たまらないですね

 

鎌倉千秋さん「共同調査した辻内さんにお話をお聞きしたいと思います.今回のアンケートを通じて,浮かび上がってきたこと,どんなことだったんでしょう?」

辻内琢也さん「非常に辛いお話を今VTRで見ましたけれど,このいじめ,原発避難いじめっていうのは,一例二例といった問題ではなくって,全国的な広がりがあるということが,今回のアンケートで分かった,ということですね.

そして,更に,これが過去の話ではなくて,今も続いている,現在進行形の話しという事ですね.そこが,非常に大きなポイントだと思います.

更にこのアンケートで,原発ならではのいじめだという特徴も見えてきました.

それは『どういった内容がいじめに関係していますか』という質問に対してなんですが,1『放射能』,二つめ『賠償金』,そして三つめが『避難者であること』.この三つのラベルが貼られて,子どもたちがいじめにあっている.被災者の方によく聞くんですが.『原発事故さえなければ』という話しをよく聞きます.本当に原発避難ならではのいじめというのが見えてきまして,そのラベルが貼られているからこそ,カミングアウトできない.またいじめられてしまう.カミングアウトするとまた福島だ.ということでいじめられてしまう,っていうような事があって.そこが非常に大きな,アンケートから見えてきた特徴だと思います」

 

鎌倉千秋さん「一言だけ.中身が命に及ぶ重大な事態.学校側の対応をどう思いますか?」

尾木直樹さん「いや,これはね,当時からですね,予見可能だったんですよ.学校が最も第一にしなければいけない義務っていうんですかね.これは『安全配慮義務』というもので,成文化もされてないです.それほど当たり前で,学校にとっては重要で,係争になるといつもこれが問われるんですよ.これに明確に全ての学校が違反しているっていうことがいえるんじゃないか,というので.やっぱり,行政の方,それから文科省の方も,もっと強力にここを社会的ないじめを生まないようにすべきだったな,と思いますね」

 

(以下続く 予定)