各国クリスマス料理: 七面鳥/川魚/鶏,クリスマスプディング/クリスマスケーキ,ワンタンも? ヘロヘロとワンタンすするクリスマス 秋本不死男/ 食をうたう(原田信男)  

今日はクリスマス.

何故か,ながら視聴していたテレビから「what a wonderful world 」が二回も聞こえてきた1日.いずれもドラマの挿入歌として使われていました.クリスマスとは関係のない曲ですけれど,クリスマスに聞こえてきても違和感のない曲.


Louis Armstrong - What A Wonderful World (Lyrics)

 

その間読んでいたのは,原田信男「食をうたう(岩波書店)」

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副題は詩歌にみる人生の味わい.俳句が多くて私の期待とやや外れていましたが,そこは食文化の最高峰のお一人原田信男先生.短い文章の中にも食の蘊蓄がぎっしり.

例えば,クリスマス料理に関連した「クリスマスの哀愁」では

(前略)-----

クリスマスと言えば,どの歳時記を開いても,だいたい七面鳥を食べる習慣がある,といった解説がある.確かにアメリカやイギリスなどの西欧の国々では,イブのメインディッシュに七面鳥が供されるが,キリスト教七面鳥は関係なく,この習慣は新しいものであった.

元々七面鳥は,新大陸特有の大型食用鳥で,移住した清教徒達が行っていた十一月末の収穫祭の食べ物であった.この収穫祭がアメリカ独立後に感謝祭として法定休日となった.その日に振る舞われていた七面鳥やシカの肉が,クリスマスにも用いられるようになり,二十世紀に入って,他の西欧の国々でも食べられるようになった.

だいたいドイツやオーストリア及び東欧では,クリスマスの料理は鯉などの川魚が主流で,今でもウィーンなどでは,この日ばかりは魚屋に行列ができる.

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日本のクリスマスは,明治後期から大正にかけて普及したが,その背景には商業主義があり,クリスマス料理やクリスマスケーキの商戦が盛んとなった.日本ではアメリカ風のそれを受け継いだが,七面鳥の供給がほとんど不可能だったため,明治屋などがニワトリの料理を推奨した.またクリスマスプディングなどの代わりに,不二家をはじめとする洋菓子店が,サンタクロースを飾ったケーキの販売に努めた.

-----(後略)

 

商業主義に喜んで乗っかっている,という自覚はありましたが,日本とアメリカ以外の国のクリスマス料理については考えたことがありませんでした.

早速ドイツのクリスマス料理を調べてみました.はじめは日本語でもいいか,と思い検索すると,「ドイツ大使館」のメニューが!信用できますよね?

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ドイツ大使館 ドイツ総領事館 - クリスマス・レシピ集

魚がメインディッシュ!

ついでにフランスも調べてみました.フランス語は全く分からないので,英語で検索すると,英語圏向けのフランスの紹介ページにクリスマスメニューの例示がありました.

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Ten dishes that make up a French Christmas feast The Local

さすがフランス.多すぎて何がメインディッシュか分からない.伝統に則ったフランススタイルではフォアグラは欠かせないよう.メインと言えばメインとも言えそうな肉料理はトリ.ALL KINDS OF BIRDS AND WILD FOWL と記載.でも例示の中にホロホロチョウなどに混じってchickenはあってもturkyの名前は見えない!このサイトは「turkyから抜け出して,フランススタイルに目覚めたいイギリス人のため」に紹介したフレンチレシピ.七面鳥でも良いのでしょうが,こだわる必要は全くない,むしろ他の鳥の肉の方が美味しい,と言っているような気がします.

ではイギリスは?

BBC傘下のサイトに沢山のレシピ例が.伝統的といえそうなものは以下の通り.

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Complete Christmas menu: Classic | BBC Good Food

七面鳥とクリスマスプディング

なお,アメリカまで広げて写真を探しても,日本のクリスマスケーキのように美しく美味しそうな画像は今回見つかりませんでした.日本の場合はバースデーケーキと基本は同じ形が主のように思いますが,他国では別の形をとっている場合がほとんど.しかし,バースデーケーキを含めて比較しても,日本独自に洗練されていった世界に誇るクリスマス&バースデーケーキになってきている気がしています.

 

欧米のクリスマス料理の話ばかりになってしまいましたが,原田先生の本のメインストーリーは「ヘロヘロとワンタンすするクリスマス」という,秋本不死男の俳句の話.

華やかな西洋風クリスマス料理が並ぶ食卓を尻目に,作者秋本不死男はワンタンをすすっているのですが,この句が華やかさと不幸の単なる対比ではないことを説いておられます.

長くなるので,最後の部分のみ引用します.

ワンタン(中国語で抄手ピンインchāoshǒu,馄饨ピンインhúntún,云吞ピンインyúntūn.地方によって違うようです)は漢代から記録があり,清代には冬至の儀式に供される年中行事食とされていたとし,次のように結んでいます.

冬至の時期はクリスマスとほぼ一致する.つまりクリスマスの不死男のワンタンは,長い間,日本の手本となった中国の文化伝統に沿うもので,貧しい庶民の東洋風儀礼食の象徴だったのである」

食文化の解説があって初めてこの句の意味が理解できるというお話.奥が深いですね.