辛夷を詠んだ短歌2  蕾がひらく直前の形が,子供のこぶしに似ているところから「こぶし」とよばれたとのこと.漢字「辛夷」はモクレンの漢名で,日本では慣用的にコブシに当てられています. 風たちて枯木の梢(うれ)のそよぐ山白き辛夷の色黄昏れむとす 岡野弘彦  咲き初めていたましきまで花白き辛夷よ今日は汚れず了へよ 蒔田さくら子  花巻は花の牧とぞ道の辺のこぶしの花は雨に濡れつつ 宮崎昇  落葉していきなり花芽かがやける辛夷の木あり我のめのまえ 石川不二子

「コブシの名前は,蕾がひらく直前の形が,子供のこぶしに似ているところからの名」日本国語大辞典とのこと.

ネット上で画像を探したのですが---

似ていますか?

https://www.google.com/search?辛夷 つぼみが開く直前

 

コブシは,漢字では辛夷ですが---

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辛夷モクレンの漢名で,日本では慣用的にコブシに当てられています」日本国語大辞典.とのこと

https://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2020/03/15/235150

 

ただし,「辛夷モクレンの漢名」といっても,現在の知見からするとモクレンには様々な種類があり,日本のコブシも含まれた意味モクレン属の植物)とするのが妥当かと思われます.

 

内田和漢薬ウェブサイトの記載によれば

https://www.uchidawakanyaku.co.jp/tamatebako/shoyaku_s.html?page=054

日本でコブシに限定した漢字として用いるようになったのは,『大和本草』の中でコブシに充てられたため.

漢方薬に用いられる中国原産の「辛夷」の原植物には,望春花 Magnolia biondii Pamp.(= M.fargesii Cheng,M.aulacosperma Rehd et Wils.)、モクレン M.liliflora Desr.(= M.discolor Vent.,M.purpurea Curtis)、ハクモクレン M.denudata Desr.(= M.conspicua Salisb.,M.yulan Desf.),湖北木蘭 M.sprengeri Pamp.などで、韓国産はハクモクレン M.denudata Desr.であるといわれています。

一方

辛夷」は,シンイともよみ,日本でこう読んだ場合は,日本の生薬として用いるタムシバやコブシの蕾を表すのが一般的.

https://www.uchidawakanyaku.co.jp/tamatebako/shoyaku_s.html?page=054

https://www.google.com/search?辛夷 生薬

辛夷の薬効

:鼻の通りをよくするため、かぜや鼻炎、蓄膿症などでの鼻づまり、頭痛を解消する。

https://www.kampo-sodan.com/shoyaku/shoyaku-2399

 

 

コブシの別名としてよく知られているのが「田打ち桜」.

「コブシには「田打ち桜」「種まき桜」「芋植え花」などの別名がある.これらはコブシの開花を農作業の準備の目安に使ったことに由来し,これに類する様々な地方名がある.また,コブシがたくさん咲いた年は豊作になるなど,豊凶の占いにも用いた」 コブシ(辛夷) - 庭木図鑑 植木ペディア

ただし,大辞林によれば,

「田打ち桜: 田打ちの頃に花の咲く木.秋田県ではこぶし,岩手県では糸桜など,地方によって異なる」田打ち桜(たうちざくら)とは - コトバンク

 

辛夷を詠んだ短歌2

(古今短歌歳時記より)

 

うろたえて手をにぎりたるこぶしの木こころせばさをなげくころかな  藤原為家 夫木集

 

風たちて枯木の梢(うれ)のそよぐ山白き辛夷の色黄昏れむとす  岡野弘彦 冬の家族

 

あらあらしき風の疾風や夜白く辛夷のつぼみふくらみぬべし  松田さえこ(尾崎左永子) さるびあ街

 

はなこぶし母がこの世に置きわすれたる一壺の骨の白  高橋幸子 五色

 

咲き初めていたましきまで花白き辛夷よ今日は汚れず了へよ  蒔田さくら子 森見ゆる窓

 

花巻は花の牧とぞ道の辺のこぶしの花は雨に濡れつつ  宮崎昇 中庸

 

落葉していきなり花芽かがやける辛夷の木あり我のめのまえ  石川不二子 野の繭