日本を除く先進諸国の精神科医療は,病気や障害があっても地域で,医療支援と生活支援によって社会生活を営める時代です.たとえ入院になっても一ヶ月以内です.しかし,我が国は先進諸国で唯一,精神科病院への入院中心の隔離・収容の精神医療政策を継続しています.何かあったら精神科病院の強制入院の強化で終わらせる対応は,もうやめるべきです.いま求められていることは,今日の精神科医療の到達点である,入院医療中院から地域生活中心へと,精神医療政策の基本を転換することです.氏家憲章さん  

「生きたかった 相模原障害者殺傷事件が問いかけるもの 大月書店」より

 

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今度こそ,精神医療改革を目指した議論の開始を

氏家憲章(のりあき) 社会福祉法人うるおいの里理事長

 

政府は,津久井やまゆり園事件を契機に,精神科病院への強制入院である「措置入院制度」の強化をねらっています.

我が国の精神医療制度を振り返ると,精神医療政策の見直しはつねに精神障害者精神科病院の不祥事が契機でした.

そのため,精神科医療政策の基本問題を本格的に議論することなく六十数年が経ってしまいました.そのため,先進諸国の精神科医療と国内の一般医療とに「二重の格差」を抱えています.

 

深刻な「二重の格差」

日本を除く先進諸国の精神科医療は,病気や障害があっても地域で,医療支援と生活支援によって社会生活を営める時代です.たとえ入院になっても一ヶ月以内です.

しかし,我が国は先進諸国で唯一,精神科病院への入院中心の隔離・収容の精神医療政策を継続しています.

そのため,在院患者の三人に二人の二十万人が,一年以上の長期入院です.

 

しかも,精神科病院の収入は一般病院の三分の一です.医師は一般病院の三分の一,看護師・職員総数は一般病院の半分です.

 

 

精神医療政策は国の最重要課題

日本でも他の先進国でも,精神医療は癌や循環器疾患と並ぶ三大疾患でそのトップです.

精神疾患の受診者数は国民の四十人に一人と,糖尿病(五十四人に一人),ガン(八十三人に一人)を上まわる第一位です.そして深刻な自殺者,引きこもり,虐待などなど,国民のこころの健康問題は深刻です.

精神疾患やこころの健康問題による社会的・経済的(医療にかかる費用・働けないなど)損失は,厚生労働省発表によると,うつ病と自殺だけで二兆七〇〇〇億円(二〇〇九年)です.現状のまま二〇二五年を迎えると三〇兆円という損失試案もあります.

社会と経済活動の健全な発展のためにも,精神医療政策の改革は急務です.

 

精神科医療の到達点を提供できる日本に

何かあったら精神科病院の強制入院の強化で終わらせる対応は,もうやめるべきです.

いま求められていることは,今日の精神科医療の到達点である,入院医療中院から地域生活中心へと,精神医療政策の基本を転換することです.

 

そして,精神科医療を一般病院と区別し,精神科医療の差別的あつかいを解消して,一般医療と同水準の医療の体制を整えることです.一九五〇年代に構築した精神医療政策を,今日の時代に対応できる精神医療政策に改革することが必要です.

 

この方向こそ,国民に安心・安全の精神科医療を提供し,問題発生の真の防止策になるのです.