昨日のブログで触れたように,
おおぐま座とうしかい座は,共に古代メソポタミア(バビロニア)においても星座として認められていました.
ただし,古代ギリシャと古代メソポタミアでは星座名の意味する内容は異なり,また,おそらく各星座を構成する星々も異なっていたようです.
yachikusakusaki.hatenablog.com
例えば,
うしかい座Boötes:
Greekギリシャ語では
・Boôtes (the Wagon-Driver馭者) or Arktophylax (the Bear-Watcher熊を見守る人),
古代メソポタミアでは
・Akkadianアッカド語: Niru (the Yoke軛くびき / または,軛で連結された1対の牛[荷車用動物])
・Sumerianシュメール語 : SHUDUN (the Yoke軛くびき / または,軛で連結された1対の牛[荷車用動物])
Star Myths | Theoi Greek Mythology
・昨日触れなかった古代メソポタミアでのもう一つの名称=MUL.APINと呼ばれる目録(BC7世紀のコピーが現存)にある名称:SHU.PA(おそらくgod Enlil,神々のリーダーで農夫の守護者).
上記の日本語訳を見て,不思議に思ったことがあります:
Boôtesの意味は,the Wagon-Driver馭者.牛飼いではない!
改めて種々の英語辞典を調べてみました.
結果は次の通り.
・ランダムハウス英語辞典
Boötes
[1656.<ラテン語<ギリシャ語 Boṓtēs, 字義は「牛追い」]
・Merriam-Websterでは
⇐ラテン語Boötis⇐ギリシャ語Boōtēs「鋤(すき)で耕す人」⇐bous家畜,特に牛の頭
https://www.merriam-webster.com/dictionary/Bootes
History and Etymology for Boötes
Latin (genitive Boötis), from Greek Boōtēs, literally, plowman, from bous head of cattle — more at cow
・Collins では
17世紀⇐ラテン語⇐ギリシャ語boōtein(鋤(すき))⇐bous 牛
https://www.collinsdictionary.com/dictionary/english/bootes
Word origin of 'Boötes'
C17 via Latin from Greek: ploughman, from boōtein to plough, from bous ox
まとめると
うしかい座のラテン語名Boötesはギリシャ語由来で,意味は
「the Wagon-Driver馭者」,「牛追い」,「鋤(すき)で耕す人」 or 「鋤(すき)」.
ランダムハウス英語辞典の「牛追い」のみが,牛飼いに似ています.しかし「牛追い」は,牛を手なずけて働かせるイメージもあり,ワゴンの馭者,鋤で耕す人に近いともいえます.
“うしかい座のラテン語名Boötesには,「牛飼い」の意味はない”
と結論づけて良さそうです.
では,Boötesをうしかい座としたのは大きな誤りだったのでしょうか?
命名のいきさつも歴史も知らない私には,はっきりしたことは分かりません.どなたかに教えて頂ければ,と思います.
以下は素人の妄想
次のようなことが可能性としてあるのでは?と思っています.
Boötesが牛飼いを意味するのではないにもかかわらず,うしかい座の星座図は,確かに牛飼いのように見えます.
しかし,この星座絵は,古代ギリシャのものではないのではないのでは?
19世紀に描かれた“Urania's Mirror”(a set of 32 astronomical star chart cards, first published in November 1824)の絵とそっくり.
この絵は,右手に槍を持っています.
二匹の犬を連れた狩人?
だとすれば,おおぐま座をカリストーとした時の,カリストーの息子アルカスを表しているのでしょうか?
星座絵は古代ギリシャ時代のもう一つの名前, Arktophylax (the Bear-Watcher熊を見守る人)が,最適かもしれません.
別のサイトの星座絵.同じく19世紀初頭に描かれたもの.
槍は持っていません.右手に持つのは,牛を追うための道具だとすれば,牛飼いにも見えます.
重要なことは,“現在「うしかい座」として描かれる星座絵とほぼ同じ” ということ.
私たちは,古代ギリシャ名に由来するBoötesを見ているのではなく,19世紀初頭に考えられた星座をみて,「うしかい座」と呼んでいるのでは?
だとすれば---
▽「うしかい座」は正しい名称.